8 なんもおこたってない
なんの期待もせずに読むのがルールの小説、略して「なんきた小説」です 。
トースターを「ポン」とたたいた。これは「私にはもうどうすることもできません。あとはまかせました」の意。
とにかくパンは焼かれはじめた。
ジャムもバターも紅茶も用意してある。おこたってはいない。もう、何もすることはない。
どこかの街の犬も、何もすることはない。だから寝ている。
この犬が幸せであれというにんげんの願いも、この犬は不幸であるというにんげんの思い込みも関係なく、今此処に居る事を否定する考えのない犬は、ただ感覚として自分の幸せを願い、眠っているだけ。にんげんはちょっと五月蝿い。
最善がまんぞくだと、知らず知らずに知っている少女は犬なみなのかもしれない。
じっさい、今、テーブルのまわりを「はふはふ」走っている。
待ち切れないといった感じで2、3周走ったあと、いきおいよく、しかし音はなくイスに座る。
どこかの街でなにかに注意をうながしている立て看板くらいにななめになったイスを、ちょっとの体重移動でねじ伏せる。
クルッとテーブルに向きなおり、めのまえの皿をすばらしい位置に置く。
そこが、少女のなかで、パンを食べるのにもっともすばらしい距離ということだが、とくに理屈はない。
ただ、じっかんした皿のおもさだけはリアルで、この上に乗るキツネいろのパンを想像し、トースターでジリジリ焼かれるパンの、立ちのぼるそのこうばしいにおいまで思い出して、待ちどおしさがつのる。
皿はすばらしい位置なのでうごかさず。
少女は、皿をよけてその右側にたおれこむ。あたまを右肩において、ほほが微かにテーブルにふれている。
右肩の先のうでを少しまげると、指さきは、緑の花を入れた水筒のフタにあたった。
コツコツ………と、爪先にかんしょくがのこる。




