7 なんもスペシャルじゃない
なんの期待もせずに読むのがルールの小説、略して「なんきた小説」です 。
次に取りだしたのは、トースターより少し小さいくらいの発泡スチロールの箱。中はつまっているらしく、そこそこの重量。
フタはセロハンテープで封がしてあって、少女の目が輝いた刹那。テープのはしをつまんだ右手が、グルグル回って、封は解かれる。
発泡スチロールの箱の封はとかれたが、代償として少女の右手の自由が、花のつぼみみたいな形のまま封じられた。
とりあえず、右手の封を解くのはあとにして、左手とつぼみとで、発泡スチロールの箱のフタを開ける。
中からは、袋に入った氷と、同じく袋に入った一人分の使い切りバター、さらに小さなジャムのビンに、バターナイフと、なかなかの用意周到。
バターが太陽のちょくげきをうけていて、中身のかくにんも済んだので、ジャムやバターは再びコールドスリープに入る。遠くの街でも、一頭の犬が眠りにつく。
発泡スチロールのフタにも少女にも犬にも太陽と風は平等にふりそそぎ、つまりそれは何かに注意をうながしている立て看板や犬小屋の屋根や歩いてる犬なんかにもふりそそいでいるという事。
それはまだ、少女は気づいてないけど、本当のことで、少女にふりそそぎ、包んでいるこれは平等で、少女だけがスペシャルで特別なのではないという事。これはなんでもなく。ただの本当のこと。
風が吹く。
「ふぁー……」
と、言う。
空は青くて、太陽はその下で前よりどんどん上っている。本当は太陽の方がずっとずっと上。
トースターの横腹に、銀色の青いレバーがあり、そっと指をかける。やけどするほどではないが、少し熱い。しかし、少女がそのことに気づくのは少し後になる。
レバーははしっこがクルッと丸まっていて、指を2本…少女の指でも3本がのるていど。
少女は汗をかいていた。おそらくそれは暑いからで、それとは別に、ドキドキしていた。
大好きな瞬間。ト-スターが「ガシャリ」とパンをくわえこむ、マシーンの瞬間。
カシャカシャと素振りのように、レバーを小さく動かしている。パンがひょこひょこ踊っている。
「熱ち」
と、ここになる。
失礼して、緑の恩きせがましい花のとなりに、指を入れさせてもらう。
そこまで熱くはなかったと思うのだが、今は、大げさにやっておきたい気分らしい。
水筒のフタに入れられた水はもうぬるくなっていて、緑の花も暑いだろうと、恩きせがましい少女は水を取りかえて、満足げにわらう。
少女はじぶんの指を、青い銀色のレバーのうえにはこぶ前に、冷たくなった緑の花のプールに「ちょこん」とつける。途中、水が一滴テーブルに落ちる。
これを下げればもう止まらないのである。パンは焼かれるのである。
少女は、顔をテーブルより低くして、いっせいいちだいの時を待つ。
空色のトースター、お仕事の時間。
手首をかためて、腕の筋肉、胸の筋肉、体重…つまり位置エネルギー、などのパワーをちょっとずつ集めてレバーを下す。
トースターの中で加熱がはじまる。
あと3分…といったところか。見上げると太陽が燃えていて、その熱も加わってもう少し早く焼けるのでは?
などと思う。
あいかわらず、青くさい風だけがたより。




