6 なんも根拠はない
なんの期待もせずに読むのがルールの小説、略して「なんきた小説」です 。
トースターは怒りも悩みもなく、ただ静かに待っていてくれた。
服は何ヶ所か緑のシミができていて、まわりの草たちと同じように、吹く風になびいている。この草のにおいも、もう、風からきているのか服からきているのか分からない。
しょうじょは上をみる。空が有る。
そらのなかで一番青い所をさがす。それはきっとそこから風が吹いて来ているに違いないからで、何か根拠があってやっているわけではない。
ただ空の中で一番青いから、そこから風が吹くのだということ。
そういう事。
ゆるんだ表情の多い少女も、今は探しているときなので、上を向いて、まじめな顔をしている。
太陽を2本の指でさえぎって、一番の青をさがす。
顔には指2本分の日陰のラインができている。
背後から風が吹き、くびが涼しくなって、髪をおさえながら振り向く。
「あそこだ!」
空はどこも青くて、でもその一点にねらいを絞り、その青い所から風が吹くのだと悲しいほどに信じている。
少女はそこに、夢の国か、一番最新型のエアコンがあるかのような、深く静かな感動にひたっていた。
空は広くて、どこにも寄りかかれる場所がない。それを見続けていた少女の体はフラフラゆれて「ガチャン」と、古ぼけた延長コードに足をぶつける。
古ぼけた延長コードを見ていたら、なぜだか食欲がわいてきた。
「パン食べなきゃ」
延長コードの生々しさを見たのだ。夢のような現実の中で、延長コードだけが、現実のような現実なので、空腹という現実に引き戻されたのだ。
イスに寄りかかった延長コードを「カタン」と戻し、自分は音もなくイスに座る。
カバンをかき回し、水の入った水筒を取り出す。
風で暴れるスカートは、膝上までまくって、太ももとイスの間にしまい込む。
水筒を器用にひざにはさみ、イスを傾かせて、こぼれ出た水で手を洗う。
元々、そのために持ってきた水なのだろう。
タオルで手をふき、紅茶の入った水筒を取りだし、コップにそそぐ。
水筒の中の紅茶は冷たく、一口飲んで笑う。紅茶の甘い香りがはなに抜ける。
「暑そ」
と、緑のつらそうな花をつまみ上げ、さかさにし、水に突っこみ元にもどす。そうしないと干からびると少女は思った。
この想像は、太ももで感じた、座ったイスの熱さから生まれたのかもしれない。




