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5   なんも勝ってない

 なんの期待もせずに読むのがルールの小説、略して「なんきた小説」です 。

「…………パン焼かなきゃ」


 と、見失っていた目的をとり戻し「ピシャン」とほほを叩く。予想よりだいぶ痛くて「ええーっ」と引いている。


 両足を空に向けてのばし、それをふり下ろす勢いで体を起こす。


 いくら一人きりだからって、スカートをはいた女の子がこんなことをするのははしたない。少女も、やっちゃいけない事だとわかっていて、反省をした。ちゃんと反省ができたので偉い。


「大人なんで……」


 そう言った少女の顔は美しかった。


 立ち上がった少女は、ちょーちょが飛んでるのを見つけておいかけ始める。


「わーー」


 その姿も全て、トースターのボディーに映っている。


 蝶々はトースターから遠ざかって行く。それを追いかけている少女の姿は、トースターの中でどんどん小さくなっていく。


 本当に、トースターにくわえられたパンが焼かれることはあるのだろうか。


 トースターのボディーの蝶々は小さすぎて見えないが、少女のひらひら舞う姿でだいたいの事はわかる。だから、ぼうぜんと立ちつくす少女の姿で、蝶々を見失ったのだとわかる。


 くやしいのか何なのか分からないが、少女は近くの草を、手当たりしだいに引きちぎっている。


 そのうち、長めの草同士をむすび始め、輪っかを作り、そこに腕を入れた。


 引きちぎってこぶしを突き上げる。どうやら勝ったということらしい。


 いくつかの草の輪っかを作って、手を合わせて一礼する。試合の開始。


 結果は連戦連勝。立ちつくし風をあびている。



 何を思ったか……あるいは、パンを焼くという使命を思い出したか、少女は振り返り、トースターに向かって走り出す。


 すぐにこける。


 風に乗って、小さい小さい「きゃ」という声が聞こえた。


 たぶん、引きちぎられていない草の輪っかが残っていたのだろう。しばらく見つめた後、腕を中に入れて対戦を開始。最後の相手はけっこう強い。


 こけさせられたのが、それほど悔しかったのか、必死でフルパワーで戦っている。


 トースターのボディーは、上半分が青色。下半分が緑色。真ん中の小さな白。白い服の少女は、フルパワーで戦っている。戦いのうごき以外では、スカートが揺れ、くさが揺れ、それで、風がそこにあると目で見れる。


 やがて少女は何とか勝利して、トースターの方に走る。


 トースターに近づいてくる少女の顔は、こけた悔しさの泣きそうな顔か、勝利の満足感で笑っているか。……笑っていた。


 良かった。







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