4 なんも願ってない
なんの期待もせずに読むのがルールの小説、略して「なんきた小説」です 。
安心してほしい。
緑の花は救済された。コップの代わりに、水筒のふたに水を入れてつかっている。
少女を守っていた小さな雲は、風に押されて流されて、もうこれ以上、あのぼんやり透けて見える太陽からの熱射の光を止められそうにない。
最後のがんばりで、もう一度、少女のために日陰を作る。
草花も休息の時で、ただゆれる。
日陰の風があごの下を流れ、少女はうっとりと、その涼しさによい、「これ以上の最高はない」と、世界が永遠に日陰であることを願った。
遠くの木々が光っている。
小さな雲の限界がきて、日陰の世界はもう終わる。
太陽はやわらかく戻ってきて、コップの中の紅茶を赤くした。
世界が光りだし、空の上でほほ笑むような青い風が吹いている。
広がる緑の中に、イスとテーブルと少女の服が白く白く光り、光る赤い紅茶や、ゆれる緑の涼しげな花があり、トースターはすべてを反射していて、あたりはもう、太陽のにおいに包まれている。
幻影のような光と、気持ち良い風の中で眠気に襲われ、なんだかゆらゆら揺れていて、「これはいかん」と、夢のように光っている赤いお茶を一口飲む。
夢の紅茶はは夢ではなく、物理的で、水筒の中で冷たさを保存しつづけたそれは、少女の目をさまして、確かな現実の感動をあたえた。
「おいしい………」
透きとおった甘さが口に広がる。
一口飲み花を見る。一口飲み空を見る。紅茶の香りの良さを知る。まるで大人のよう。一口飲み、風に目を閉じる。一口飲み、空を見て「青い」と思う。
そうしてコップ一杯の紅茶を飲みほしたところで、それがパンを食べるときのために用意されたものだということを思い出す。
トースターに半分だけくわえられた状態のパンを見ながら、ため息を「ぷー」とついて、
「うひひひ……」
と笑う。
「ははははっ…」
自分のうっかりにウケている。幸せな人。
とつぜん駆け出して草の上に転がる。白い服は汚れるだろうが気にする様子はない。
緑の海のうえに、白くてキレイなそれは、風にひらりと、ゆれて浮いている。
照らされた地面からのぼってくる熱は、少女のはなに強く草のにおいを感じさせた。嫌いではないらしく、大きく吸い込む。
「すう」
この瞬間の少女が、オリンピックで金メダルを取った選手より幸せでないと誰が言えるのか?何人も言うだろう。まあ、それもいい。
「すう」
強い光に体中の感覚が壊されて溶けていくよう。ドライアイスのように消えてなくなりそう。
風がときどき、消えた体を戻してくれる。冷たい体をはりつけて、うっとりさせて去っていく。
花は色をあざやかにし、草の葉緑素も動きだしている。
太陽のにおいがすごくよく。
本当。
こんな感動は日常的であり、一般的であり、どこにでも転がっている唯一の正解。
「何かいい……」
つまりそういうこと。
少女は太陽に感謝し、世界が永遠に日向であることを願った。




