2 なんも飛んでない
なんの期待もせずに読むのがルールの小説、略して「なんきた小説」です 。
水筒のふたを開ける。
目の前の緑色の花をテーブルのすみに払い、中央のコップに向かい水筒をかたむける。
中に入っていた水がいきおいよく飛び出して、びっくりした少女はあわてて水筒を自分の胸に引きもどす。
その時、少女の腕と白い洋服に少しだけ水がかかったが、気にするほどではない。
コップを見ると、水は8割のところで止まっていて、少女は安堵と達成感で、
「ふう」
と息を吐いた。
腕にかかった水は冷えていて、乾いていく涼しさもあった。
少女は嘘っぽいほどブルンブルンと首を振り、何かを探している。
緑の花が見当たらない。どうやら風で飛ばされたようだ。
テーブルの下の日陰に入り、その日陰から少しこぼれたところにある緑の花を発見しガッツポーズのように握りしめる。
テーブルの下から出るのに、頭をぶつけないかとドキドキしていることから、これまで少女が、似たような状況で、どういう目に合ってきたのか想像できる。
手の中は、ちょっとの重みと、丸い茎の感しょくがある。
頭に気をつけながら日陰を出る。
日陰から出ると太陽が目に入り「うわっ」と被害者ぶって草の上に倒れ込み、一人で笑っている。
草のにおいがする。
忘れてはいけない。緑色の花のこと。「いかんいかん」と立ち上がり、手の中の緑の花を申し訳なさそうに、両手でゆっくりと、コップに入れる。
自分が緑の花になった気がして、足から涼しくなる。
夢ごこちの勘違いのままイスに座り、足元を見ると、目にうつるのは水面ではなく、生い茂る草とその中の自分の足、イスの足、その横に置いてある古びた延長コードで、
「ハッ」
と我に返り、再びカバンの中をかき回す。
出てきたのは銀色のトースター。周りの景色の全てをその銀色の体に映している。
ちょっと昔、このトースターが、あんまり何でも映すので「本当は、おまえは何色なのだ」と小一時間悩んだり、そのまま眠ってしまったりした。
その時ずっとそうだった状態。つまり、パンが、トースターに半分くわえられている状態。それと同じ状態にパンを置く。
今まさに焼きはじめるべく、トースターに手をのばす少女が、「あ!」と言って、名推理で何かに気づき、その動きを止める。
「へへへっ」
トースターのプラグをたぐりよせ、延長コードのコンセントに差しこむ。
なぜか「してやったり」と笑みを浮かべている。どこからか小さなハチが飛んできて、それを目撃。少女の笑顔が一気に青ざめる。
一度目は見間違いということで片づけたが、さらにもう一度目撃してしまい、これはもう、その存在を認めるしかないと、少女は覚悟を決め「このハチは味方なのだ」と思い込むことでその危機を回避した。
「ぶしいっ!」
緑のやさしい花の入ったコップの水面がチカチカ光って、吸い込まれるように見ていたら、まぶしかった。
コップをなでると、側面をおおう、ぼんやりとした水滴が粒になって指をすべる。「ピン」とはじくと、小さくなって飛んで行き、少女はその中の少しが風で戻ってきたのを肌の部分で感じた。
太陽は高く動かないが、空から吹く風が、緑のたいくつそうな花をゆらして、水面に小さな波をつくっていた。




