1 なんも始まんない
なんの期待もせずに読むのがルールの小説、略して「なんきた小説」です 。
とても気持ちのいい日。
思い出してみてください。1年のうちに何日かあるでしょう。
暑くもなく。
寒くもなく。
ちょーど何もない日。
何もない世界に自分だけいるような…。
今日というこの日は、その日の次の日。
夏が始まるさいしょの日。
青い空に白い雲が浮かんで、風が吹いている。
力なくうつろな目でそれを見上げていた白い服の少女は、足の力まで抜けて、白いイスにヘタリと座り、勢いで白いテーブルにぶつかって、「はふ」と息を吐く。
太陽の下で、白い服の反射は光っているようにまぶしかった。
空からの風が、ときおり強く、草原の中でポツンとちっぽけな少女に吹いている。
少女はピンチで、頭の麦わら帽子を風に持っていかれないよう、両手でギュッとつかんでいる。
草とスカートが、くすぐるように足を叩いてきたが、それは、たあいもないので無視をする。
ひどい風は去り、少女は安心して、かたわらのカバンから一枚のパンを取り出す。
ゆだんしていて、はしっこをつまむように持っている。強い風が吹いたら、悲しい未来が待っていると想像できるが、さいわいにも風は吹かなかった。
パンは、テーブルの上の白い皿の上に置かれた。
テーブルの上の皿の上のパンに顔を近づける。しっとりと甘い、トースト前のパンのにおい。
風に散らされないうちに急いで、いっぱい、いっぱい、飲むように吸い込んだ。
「ぷはあ」
少女は満足げにニコリと笑ったあと、なにげなくあたりを見回す。
何が見えているのか、細めた目のまま首をかしげている。「ぽん」とイスから立ち上がり、帽子を押さえながら、軽い足取りで草原を走る。
100メートルほど行った先で、本当にそれが見えていたのかと思うほど小さな緑色の花、その茎をこれまた小さな手で握りしめ、口をとがらせ、一仕事するような顔つきでむしり取り、そのまま太陽に掲げ眺めている。
もちろん。
その後、目が痛くなって、何度もまばたきをした。
振り返り、帽子を押さえながら、一直線に白いイスに向かって走る。
座った拍子に、ななめになり倒れかかったイスを、
「えいっ」
とおさえ込む。
おさえ込む勢いの途中、緑の花をテーブルの上に投げる。
おさえ込む勢いの終わりでカバンに手をのばす。
風に飛ばされそうな帽子を中にしまい入れ、中をぐるぐるかき回して、不自然に丸まったタオルを取り出す。
タオルを広げると中から透明のコップが出てきて、それをテーブルの中央に置き、再びカバンをぐるぐるする。
カバンの中は見えなくても、探し物の状況は、少女の表情であるていど推測できる。今は少しこまったような顔。
笑顔になった少女はイスに座り直し、突き出した両腕の先には水筒がにぎられていた。




