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遊々多在

作者: 大西洋子

「いやぁっっ!」

元気な声と共にわたくしは振り下ろされます。まんまるおめめに申し訳ない程度にあいた口の虹ワニの顔面に向かって、わたくしは振り下ろされます。

あらあら、わたくしにしては、はしたないですね。おパンツが丸見えになっておりますわ。ドレスの裾を直したいのに、わたくしの両腕は上に上げられたまま。

「ピンクキック!」

そうこうするうちに、わたくしの両足が虹ニの顔にめり込みます。

「ドォーン」

虹ワニが空に半円を描かされ、その勢いのままお腹の中の鈴がコロコロと鳴りながら床に転がっていきます。

「めしとったり~」

あのわたくし、ピンクという名前ではありません。もっとも、ここにご厄介になってからは、いろいろな名前で呼ばれておりますが。

それにしても今日のご主人さまは、なんて荒げないことがお好きなのでしょう。これじゃあ、わたくしの自慢の色変わりの髪で愉しんでもらえなさそうですね。

あらあら、虹ワニの太いしっぽが隣で色とりどりの板で建設中のお城を壊してしまったようですね。カラカラと崩れていく音に建設されていたお方が目を丸くなさっていますよ。ほらほらお口の形が……

「ご、ごめんなさい」

「わにゃ~」

そのお方は転がっていった虹ワニのしっぽをむんずと掴み、壊れてしまったお城をそのままに、キッチンの方へと歩いて行かれます。

ご主人さまは、しばらくぽかんとされていましたが、再びわたくしをヘリコプターのように、壊れた城の上をぐるりと輪を描かされます。

あら、柏木さんですわ。わたくしをここにお連れくださったお方ですわ。そのお方がワゴンを押してこちらに向かわれているということは、そろそろあの時間なのですね。

愉しげな童謡からクラシックな音楽に変わります。ご主人さま達がいらっしゃる場所の窓が次々と開けられ、外から甲高いホイッスルの音が聞こえてきます。

それを合図に、床に散らばった色とりどりの板が、青い線路と色とりどりの汽車が、赤や白のお皿が、そしてわたくしたちが一カ所に集められ、アルコールで湿らせた紙でご主人さまたちとその親御さまが一つ一つ拭いて、透明な箱の中へと入れていきます。

その間に、柏木さまが、よだれまみれになってしまわれた方や、壊れてしまわれた方をワゴンの下のバスケットへと入れていきます。

そのバスケットに入れられる。それは、ここからどこかへ…… あぁ、考えたくもございません。そのワゴンへわたくしが乗せられます。よだれまみれになっていませんし、どこも壊れてはいませんのに。

わたくしはただ、ワゴンの上から透明の箱に入れられたお仲間さまが、部屋の脇へと移動していくのを見下ろすばかり。

音楽が変わりました。

柏木さんがわたくしの体をつかみ、ドレスの裾を直してくださいました。そうしてその場所にいる何人もお子さまに向かって、わたくしを動かされます。

「みなさん座りましょう」

わたくしの両脚を動かし、ワゴンの上に座らせられます。お子さまたちがあたくしと同じように座ります。

「トントントントン♪」

柏木さんの手が歌声と共に忙しく動き、それが終わると絵本を開いて読み聞かせ。その後に体全体を使った遊びをし、おしまいの声で時計の短い針と長い針がてっぺんで重なる時間が来るのを知りました。

「おじさん、またね~」

「はい、ななみちゃん、またね」

柏木さんの手を借りて、先程までお相手していたご主人に手を振ります。ふと見ると、虹ワニと遊んでいたお子さまは、御父様と一緒に虹ワニと並んでカフェテラスでお昼をいただくみたいです。

児童館から出て行くご主人さまと入れ違いにやって来たのは、揃いのユニホームを着て児童館側のグラウンドで、サッカーをしていた少年少女たちです。

「あ、ローズプリンセスだ」

「わぁ、なつかしい!」

ええ、わたくしはローズプリンセス。お姫様でした。ですが今のわたくしは、老若男女問わず児童館に来られたお方が、わたくしに名付けていただいた名前と役をまとい、お相手をつとめさせていただいております。

――さて、次に出会うご主人さまは、あたくしにどのような名前で呼ばれ、何になるのでしょう。今から楽しみでございます。



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