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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【春のトランスセクシャル】

拉致され人体実験され性別も変えられ

※残酷描写注意

ある時、そこに狂った科学者がいた。


その科学者は、その天才的な頭脳をもって、数多の発明品や新薬を開発した。

彼が生み出すものは、一つ一つが世界に多大な影響を与え、そして莫大な財を生み出した。


科学者は狂った。

もともと狂っていたのに、財を成して、より、歯止めなく、際限なく狂っていった。


表では、世界一の科学者として。

裏では、非倫理的な実験を繰り返す、マッドサイエンティストとして。


彼は実験を重ね続けた。


そんな彼の罪が、つい先日、ようやく明らかになる。

彼は実験で、多くの生命を奪っていた。

彼曰く、「実験で殺した数より、実験により救われた数の方が多い」とのこと。


当然、この科学者は捕まった。


そして。


科学者の裏の実験場。そこには監禁されて実験台にされていた人々がいた。


この話は、狂気の科学者の実験により性別が変わってしまった、かつて少年であった少女の話である。


ーーーー


僕は今日も、リビングの隅でうずくまる。

同じリビングで、今日は妹が見ていてくれている。


妹はテレビを見ながら、スマホをいじりながら、お菓子をかじりながら、そして頻繁に僕のことを気にしてくれていた。


ありがたかった。

妹に、家族に迷惑をかけて、情けないとは思うし、申し訳ないと思う。でも、しばらく一人ではいられそうになかった。




僕は、つい先日まで、人間ではなかった。

人間の扱いではなく、実験動物のそれであったのだ。


もう二年ほど前のことらしい。

僕は帰り道に、公園を突っ切っていた。塾で遅くなり早く家に帰ろうと、いつもは通らない公園を通っていた。


その日、公園には誰もいなかった。その時僕は一人だった。そして、僕は拉致された。

スタンガンか何かで気絶させられたのだと思う。気がついたら前面が分厚いガラスの、全てが丸見えの部屋に入れられていたのだ。


そこからは。


もう。


地獄だった。


僕は毎日毎日、何かしらの薬を投与された。暴れないように、拘束台に括りつけられて、毎日薬物を投与された。


自分で拘束台に乗らないと、何度も電流を流されるので、泣く泣く台に乗った。

ただ、謎の薬を投与されると、身体が激しく異常をきたすので、ある日怖くなって、電流を流されても意地で台にのらなかったことがあった。


その日は拷問にあった。


爪の間に、小さい針を第一関節のあたりまで、一本づつ差し込んでいく拷問だった。

僕は最初の一本目で、泣き叫んで許しを請うたけど、十本全ての指でそれをやられた。

痛くて気が狂うということ。それを人は存外出来なのだと、僕はこの時知った。


以降、僕は言われるがままに、薬を受けた。

注射も点滴も飲み薬も、全部全部。

もう、半ば自暴自棄だった。

悶えるような内臓の苦しみも、拷問の生々しい怖さと痛さよりは、いくらかマシだった。


後々、肉体が徐々に女性化してきた頃に気づいたのだが、おそらく僕が投与され続けたのは、ホルモン剤系の何かなのだろう。過剰に摂取すると、拒絶反応を起こすと聞いたことがあった。


その時に、拒絶反応で死ねたのなら、今、こんな惨めな気持ちにはなっていなかったかもしれない。


実験動物であった時は、昼夜もなく人工光だけの部屋に入れられていたので、時間の感覚が曖昧であったが、程なくして僕の肉体は女性化した。

その時にテレビでも見たことがある科学者が、にわかに喜んでいた。

僕を見て喜んでいたので、もしかしたら僕の待遇が少し良くなるのかもしれないと期待した。


そんなことはなかった。


僕はその日のうちに、男に犯された。

身体中に変な機材を取り付けられ、幾人かの研究者達が観測する中、犯された。


抵抗したけど無理矢理に、やられた。


自殺をしようと思ったが、その日から手足を拘束され、舌を下顎に縫い付けられたので、死ぬことは出来なかった。

運動不足にならないように、定期的に散歩され、飢えないように栄養剤を点滴で入れられて、あまり気分が落ちすぎないように、興奮剤も入れられた。

興奮剤はおそらく何かしらのヤバイものが入っていたのだと思う。入れると少しだけ幸せで、それがまた、どうしようもなく悲しかった。


あと。


どうやら腹を寝ている間に裂かれている。


いつも寝ている間に、手術痕が出来ている。その手術痕は、だんだん増えていった。

いろんな側から、腹を開いて、内臓を見られているのだ。


おぞましかった。寝たくなかった。


睡眠薬を投与された。


たまに犯され。

たまに投薬され。

たまに腹を裂かれる。


そんな日々を、僕は繰り返していた。


ーーーー


「兄さん……」


私の兄さんは、穏やかで朗らかな、とても愛らしい人だった。


我が家の家族は、父と母と長兄と姉上、そして兄さんと私の六人家族である。

兄さん以外の家族は、私も含め皆、我が強くクセも強い。そんな中で、おっとりとした気性の兄さんは、我が家の至高の癒しであった。


兄さんは、個性的という言葉では済ませられないような我らを慈しんでくれたし、そんな兄さんを我ら家族は溺愛していた。


そんな兄さんが、ある日忽然と姿を消した。

塾に行ったっきり、帰ってこなかったのだ。


我が家の面々は、それぞれが半狂乱になって兄さんを探し回った。


しかし兄さんは、一向に見つからなかった。

まったく、足取りが掴めなかった。

手掛かりは無く、なす術はなく、最早諦めるしか無い状況だった。


きっと、我が家がごく一般的な家庭であれば、そこで終わっていたことだろう。

だが、うちは違った。どうしようもなく諦めが悪かったし、能力も財力もあった。

全員が全員、取り憑かれたように、兄さんの行方を探し回った。


そして……


非合法な方法などにも躊躇いなく手をつけ、出来ることは文字通りなんでもし、最終的に例の科学者のラボを突き止めたのだ。


途中、何回も殺し屋に狙われた。私も、そして兄も姉も親も、何度か死線を潜り抜けている。

私も何人か、やむ終えずに手にかけことがある。全て秘密裏に処理したが。


そこまでして漸く、科学者の罪を白日の下に晒し、兄さんを取り戻すことが出来たのだった。


そして、そこからが、地獄だった。


兄さんは、変わり果ててしまっていた。

性別は女性となり、身体中に複数の縫い痕があり、そして目が虚ろだった。

家族が兄さんに話しかけても、なんの反応も無かった。


兄さんはもう、とっくに壊れてしまっていたのだ。

私達は頑張ったが、致命的に遅かったのだ。


私達家族は、それからも必死に兄さんの看病をした。

毎日語りかけたし、医師の指導の元、良いということはなんでもした。


看病の甲斐あって、兄さんを保護してから数ヶ月経って、ようやく兄さんから薬が抜けてきた。

少しずつ、反応が見られるようになってきたのだ。


そこから更に数ヶ月経って、兄さんの意識がある日、唐突に定まった。


ある晴れた日であった。

兄さんが、いつもと違う様子で、窓の外を見ていたのだ。


いつもの胡乱な視線とは違う、ちゃんと意識のある目線であった。

話かければちゃんと意思の疎通ができ、私達家族はそれを喜んで、兄さんの回復を言祝いだ。


それが良くなかった。


おそらく、幸せそうに笑う私達が許せなかったのだろう。

兄さんは激怒した。激怒して、兄さんが受けた仕打ちを、全て、私達に教えてくれた。

私達は、それをただ、泣きながら聴くことしか出来なかった。

私達の、誰一人として、話の中の、絶望的な兄さんを救うことができないのだから。

悲しかった。無力だった。悔しかった。


兄さんは怒りちらし、やがて体力が尽きて気絶した。

私達は、その日、泣きながら気絶した兄さんに寄り添い続けた。


その翌日の兄さんは、泣きながら私達に謝ってきた。

一日中、私達に「酷いことを沢山言ってしまった」と泣いて、泣いて、泣いた。気絶するまで泣き続けた。

兄さんが謝ることなんて何もないのに、兄さんは何一つとして悪くないのに。

ああ、どうして。どうして兄さんがこんな目に。


その翌日からの兄さんは、酷く無気力になってしまった。

兄さんはいつも部屋の隅で、膝を抱えてうずくまっている。

話しかければ、ゆっくりと答えてくれるが、なんだか会話自体がとても疲れる様子なので、焦らず少しずつ声をかけていこうという事になった。


兄さんの側にはいつも誰かがつくことにしている。

一度、「もしかしたら一人になりたいのかも」と思い一人にして、しばらくしてから様子を見に行けば、なんと兄さんが静かに一人で泣いていた。

なぜ泣いていたのかゆっくりと聞き出して見れば、一人でいるのはとても怖い、とのこと。

以来、絶対に兄さんを一人にはしないようにしている。


そんな兄さんは、不意に脈絡無く泣き出すことがある。

今もリビングの隅で、静かに泣いている。こうなった時は私達家族の出番だ。


「大丈夫兄さん。何か、思い出しちゃった?」


「………………うん」


メソメソと声も出さずに涙を流す兄さん。兄さんは未だに、あの時の経験がフラッシュバックして、しばしこうなる。

こういう時は抱きしめてナデナデしてあげると、多少落ち着いてくれる。不謹慎で酷い思考だと重々承知だが、こうして兄さんを抱きしめてあげられるのは嬉しい。

兄さんは小さくて柔らかくていい匂いがする。そして今にも消えてしまいそうなほどに儚げな美少女になってしまった。

ああ、私はなんて救いようの無い愚物なのだろう。自分でも引くほど嫌悪する性根だが、どうしようもなく泣いている兄さんが可愛い。


「大丈夫だよ、大丈夫だよ。兄さんは私が守るから、絶対」


「…………………うん、ひばり、ありがと」


「…ッッ!!??」


兄さんに、兄さんに名前を呼んでもらえた。

実に二年ぶりに。


ああ、兄さんはすごい。

少しずつ、少しずつ、兄さんはかつての兄さんに戻ろうとしている。

あんなにも酷い目にあったというのに、立ち直ろうとしているのだ。

なんて、なんて尊い存在か。


「にいさん」


「……ん」


私が強く抱きしめれば、兄さんがゆっくりと私の胸元に頭を預けてくれた。

愛しい、ああ、なんて愛しい。


神よ、どうか神よ。

この愛しい兄さんの未来が、必ず幸せでありますように。



独自コンペ【春のトランスセクシャル】開催中です、詳細はシリーズのところをご覧ください。


どうか感想お願いします!

十本の中で感想の数が最も多いものを連載しようと思っています!

どうぞよろしくお願いします!


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― 新着の感想 ―
[一言] 活動報告にも書きましたが!こういう可哀想な子が紆余曲折をへて幸せになって心からの笑顔を浮かべるようなお話が好きなんですよぅ!幸せになって欲しい、本当に
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