6 真実
部屋の中から雪奈の嬌声と、一臣の囁くような声が聞こえてくる。
こ、れ、が……真実…?
怒りと絶望、言いようのない感情が俺の心を塗りつぶす。
お前ら俺を騙して楽しいのか?
どんな気持ちで今サカってんだ?
俺は雪奈を大事にしようと、おじさんやおばさんの信頼を裏切る事は出来ないと思っていたのに、お前ら何してんだ?
俺の気持ちを知っててそんなことしてんだよな?
ホント、ホントにさ…………。
お前ら気持ちワリいよ。
ガチャ。
「お前ら何してんの?」
「きゃっ!!えっ?!ヒロくん?!」
「うおっ!ひ、弘斗?」
「答えろ、何してんだよ?」
「え、あ、あの、話を聞いて?!これには訳があるの!」
「そ、そうだよ。後でちゃんと話そうと思ってたんだ!」
「まあいいや。服着ろよ、気持ちワリいな。」
「あ、ご、ごめん!」
「悪い!ちょっと待ってくれ!」
無言で二人が服を着るのを見ていた。
雪奈の裸を見たが、何も感じなかった。
ずっと好きだったはずなのに。
好きな女の裸のはずなのに。
気持ちワリい。
「ど、どうしてヒロくんがここにいるの?友達の家に行ったんじゃないの?」
「あー、ありゃ嘘だよ。二人がラブホから出てきたところを見た奴がいてさ。そんな状態でお前と一緒に帰るのが嫌だったから。」
「な、酷いよ!何でそんな嘘つくの?」
「この状況で俺が酷いって?凄いな?お前。」
「ま、まあ、冷静に話し合おうぜ?な?」
「なに他人事みたいな言い方してんだよ?ナメてんのか?」
「ま、待って!ちゃんと話すから!」
「へえ、言ってみろよ。」
「あ、あのね?私小学校の頃からずっと、ヒロくんとカズくんの事が好きだったの!」
「はあ?」
「イジメられてた私を二人が助けてくれた!凄くカッコ良かった!」
「へえ。」
「本当に好きなの!二人の事が!」
「俺の事だけじゃなくて、一臣の事も好きだったって?」
「そう!それで」
「ここからは俺から話す。中学二年の時に俺が雪奈に告白したんだ。」
「は?」
「すまん!雪奈が弘斗の事好きなんだろうな、とは思ってたけど諦められなくて!」
なんだ、それ。
俺はちゃんとお前に相談したよな?
お前が告白するって知ってたら、俺は身を引いてたかもしれない。
それか、一緒に告白するとかな。
少なくとも俺はお前に黙って雪奈に告白しようなんて思わなかったけどな。
「それで、私はカズくんの事も好きだったから嬉しかったけど、本心をカズくんに言ったの。」
「ああ、俺だけを選ぶ事は出来ないってな。」
「はあ?何言ってんの?お前ら。」
「だって、二人とも大好きなんだもん!どちらか選ぶなんて出来ない!」
「俺はさ、本気で雪奈の事が好きだったから、断られるのが怖かったんだ。」
「で?」
「だから、俺は覚悟を決めた。雪奈と付き合えるなら、弘斗と一緒でも構わないって。」
「そうなの!カズくんは私の気持ちを優先してくれたの!」
「弘斗が雪奈の事が好きなのは何となくわかってた。だから弘斗が雪奈に告白するまでは俺とだけ付き合って、弘斗と上手くいくようなら、俺と弘斗が雪奈と付き合うようにしようって。」
「へえ?で、俺の気持ちはどうなんの?」
「や、やっぱり三人で付き合うのはダメ?」
「頭大丈夫か?いいワケないだろ?」
「で、でも!私、選ぶ事なんて出来ない!」
「じゃあ、一臣とだけちゃんと付き合えよ。俺は遠慮するわ。」
「どうして?私の事好きでいてくれたんだよね?」
「そんな気持ちふっとんじまったよ。こんな事されちゃあな。」
「そ、そんな………。」
「良かったな、一臣。雪奈はお前だけのモンだ。おめでとう。」
「ま、待ってよ!本当なんだよ?本当にヒロくんの事も好きなの!」
「ははっ、なんだそりゃ。乙女ゲームかなんかのヒロインにでもなったつもりか?」
「ね、ねえ!ヒロくんも男の子なんだから、エッチしたいでしょ?いいよ、私は今からだって。エッチしたら私の事また好きになるよ、きっと!カズくんも褒めてくれたんだから!」
「バカじゃねえの?そんないい方されてやったー!とでもいうと思ったのか?」
「イヤだ!やっとヒロくんと付き合えたのに!」
「だから、お前には一臣がいるだろ?良かったじゃねえか。」
「弘斗、ちょっと二人だけで話さないか?」
「ああ?なんだよ?」
「いいからちょっと来いって。」
一臣に連れられて部屋の外に出る。
「弘斗の気持ちもわかるけど、ちょっと考えてみろよ?」
「何がだよ?」
「気持ちが冷めちまったのかもしれないけどな、それならそれで付き合い方があるだろ?」
「付き合い方?」
「ああ、雪奈は弘斗がずっと好きだった女だろ?弘斗から見ても可愛いだろ?好きじゃなくなったとしてもヤリたいだろ?だったら」
ドゴッ!!!
「ナメてんのか、テメェ!!」
「ぐっ。テメーやりやがったな!!」
「だったらどうした。あ?」
「お前に俺の気持ちがわかるかよ?!告白して、弘斗が一緒じゃなきゃダメって言われた俺の気持ちが!!」
「わかんねーよ!!何でそんな事受け入れてんだ!!テメーは!!」
「俺は…俺はどうしても!!どうしても雪奈と付き合いたかった!!」
「だからってそんな話ありえねーだろーが!!」
「それでも!!それでも俺は…………。」
「どうしたの?!凄い音がしたけど…。えっ?カズくん、大丈夫?!」
「…大丈夫だ。弘斗はどうしても無理だってよ。」
「ヒロくん、カズくんを殴ったの?」
「あー、もうこれからはさ、二人とも俺には関わらないでくれよ。」
「どうして?何でそんなひどいこと言うの?」
「どうしてこんな酷いことを俺にするんだ?」
「…………。」
「金輪際どんなことがあっても話しかけたりしないでくれ、頼むわ。」
そう言って雪奈の家を後にした。
帰る時には悲しみとやるせなさが俺の心に残った。