5 一夜明けて
翌朝、いつも雪奈と待ち合わせしている場所に着いた。
雪奈にどう接していいのかわからない。
いきなり証拠も無しに問い詰めても本当の事を言うかわからない。
今日の夜、話してみるか。
学校で悟に写真の件を頼もう。
写真を見せてから話をしよう。
それまでは、普通に接しないといけないのか。
気が重い。
「おはよー!ヒロくん!」
そんな気分を吹き飛ばすような元気な挨拶。
吹き飛んでくれれば良かったんだがな。
「ああ、おはよう。」
「どうしたの?元気ない?」
「あ、ああ。悟と昨日遅くまで話してて。」
「そうなの?何か相談事だったの?」
悟の相談事だったら良かったのにな。
「ああ、彼女との事でちょっとな。」
俺の彼女の事だけど。
「そうなんだ、私には言えないような内容?」
今夜言うよ。
「ああ、悟の彼女の事もあるから、ちょっとな。」
「そっか、私にも何か力になれる事があったらって思ったんだけどな。」
「気持ちだけでも十分だよ。」
「そう?ヒロくん、目の下のクマが酷いよ?大丈夫?」
原因の張本人に心配されるってどんな冗談だよ。
「ああ、心配すんな。大丈夫。」
「無理はしないでね?辛くなったら言ってね?」
もう辛いんだよ、雪奈。
今日の帰りも一緒なのはしんどいくらいにはな。
そうか、一緒に帰らなくていいように手を打っておこう。
「あ、そうだ。今日の帰りはちょっと一緒には帰れない。」
「どうして?」
「今日は悟の家に行く事になったんだ。」
「そうなの?そんなに大変なことになってるの?」
大変なことになってるよ。
「ああ、昨日の続きみたいなもんだよ。」
「そう。ヒロくん、本当に無理しないでね?」
一緒に帰る方が今は無理だよ。
学校に着いて悟に例の写真を俺のスマホに送ってもらった。
「大丈夫か?寝れてないんだろ?保健室行った方が良いんじゃねえか?」
「いや、大丈夫だ、どうせ保健室に行っても眠れない。」
「そ、そうか。今日話するのか?」
「そのつもりだ。」
「森口とは今日話するって約束したのか?」
「いや、もし本当に浮気してて警戒されるのも嫌だから、いきなりこの写真を突き付けようと思う。」
「そっか。まあ、あんま無理すんなよ?」
「ああ、ありがとな。」
そして放課後、雪奈に見つからないように家に帰った。
身体がダルい。
少し仮眠を取ろうとした時、悟から着信が入った。
「弘斗か?今大丈夫か?」
「ああ。どうした?」
「たった今、森口と須藤が二人で帰っているところを見たんだ!」
「え?」
「方向からすると弘斗の家の方向なんだけど…。」
学校からだと俺の家の先に雪奈の家がある。
「多分、雪奈の家だな。今なら誰もいないから。」
「けど、弘斗に見つかるって考えないか?」
「いや、俺は今日悟の家に行ってる事になってる。」
「は?そ、そうか、それなら…。」
「連絡してくれてサンキュな。」
「いや、そんなことは良いんだけどよ…。」
「ああ、大丈夫、あとは俺がちゃんと話をするよ。」
「わかった。無理すんなよ?」
さて、どうするか。
一臣も一緒に話を聞くか。
ちゃんと覚悟が決まったわけじゃない。
まだ、怖い。
けど、今のままは耐えられそうにない。
ハッキリさせよう。
しばらくすると、俺の家の前を二人が通った。
やはり雪奈の家に向かっている。
行くか。
二人に見つからないように後ろを付いていく。
二人は雪奈の家に入っていった。
鍵は掛けているだろうか?
掛かっていたらインターホンで呼び出すか。
鍵は掛かっていなかった。
ドアを静かに開け中に入る。
心臓の音がうるさい。
手も足も震えてる。
もう9割がた二人が浮気してるのは確実だろう。
けど、信じたくない。
ずっと一緒だったんだ、十年以上。
あの二人が俺を裏切るなんて考えられない。
ダメだ、足が動かない。
直に自分の目で確かめるのが怖い。
変な汗を搔きながら立ち尽くす。
小学校の頃、雪奈がイジメられていた時、俺と一臣で必死に雪奈を庇った。
一臣は腕力で、俺は友達の力を使って雪奈を助けることが出来た。
俺が上級生に絡まれてケンカになった時、真っ先に助けに来てくれたのは一臣だった。
両親との仲が良くなかった一臣を俺と雪奈が誘って家で夕食を一緒に摂ったりしていた。
それぞれ辛いことがあった時、助け合ってきたんだ。
そうだ、きっと俺の誕生日の打ち合わせを二人でしてるんだ。
サプライズのつもりなんだろう。
いいんだ、サプライズなんかしなくて。
二人が祝ってくれたらそれで…………。
どれくらい立ち尽くしていただろうか。
十分?二十分?
このままここに居てもしょうがない。
勇気を出して二階の雪奈の部屋へ向かう。
二人が俺を裏切るなんて…………。
「あっ、あん!好き!好きだよ!カズくん!」
「雪奈!俺も好きだ!」