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貧乏伯爵家令嬢~家は無くなったけど旦那様に愛されているので幸せです~

作者: シャチ

頭空っぽ系作品です

今日は、王家が主催する夜会の日。

夜会が始まりしばし歓談というタイミングで、私の目の前に輝く銀髪を短く整えた紫の瞳の男性が魔導士の礼服で目の前に跪いている。

魔導士の礼服は白の上着と金の側章をつけたスラックスに黒のシャツ、その上から魔導士用ローブを着用する格好良い服装だ。

彼の名は、ウィンダム・イーグレット侯爵。

私の婚約者で、今日の夜会のエスコートをしてくれた人。

この国の魔導士団副団長をされている彼が貧乏伯爵の当主の私に跪いているのだから、訳が分からない。

いや、分かっていないわけではないのだが…

話は聞いていた。

この夜会で貴方と正式に婚姻するのを周囲に知らしめるとは言われていた。

なにせ昨日小さいながらも式を挙げ、すでに籍も入っている。


「ユリアーナ・フィンチ伯爵、私はあなたを生涯愛することを誓おう」

「ひゃ、ひゃい…」


返事を噛んだ、死にたい。

きっと今、私は顔が真っ赤になっている。頭が熱くて死にそうだ。

昨日も同じセリフを言ってもらったはずなのにバキバキに緊張している。

さらには周囲から視線をビシビシ感じる。

ウィンダム様はかなりのイケメンで、彼を狙う令嬢は山といた。

そんなご令嬢達を完璧に無視した彼は、貧乏女伯爵の私と結婚する。

今日の夜会はこの話題で持ちきりだろう。

なにせ婚約していたことさえ王家しか知らない話なので…

そんな、ウィンダム様と私の結婚は、ぶっちゃけてしまえば政略結婚のはずである。


フィンチ伯爵家は貧乏伯爵家でして、母は既に10年前に亡くなり、父と私の二人だけ。

父も3年前に亡くなり、私は家督を継いで、女伯爵となった。

この国では女性でも爵位が継げるのが救いだったのだが、我が家は長年貧乏貴族の筆頭を行く家庭。

王城主催のどうしても参加しなければいけない夜会以外は参加しない(出来ない)し、お茶会も最低限。

ドレスの新調なんて年に1回出来ればいいほう。

なにせ、フィンチ家は領地を持たず、出仕で爵位を挙げてきた貴族。

祖父の代に外交官補佐をしており、戦争を未然に回避する外交交渉の成功をもって、伯爵位をもらった家なのだ。

おかげで、屋敷のサイズは下手な男爵家より小さいし、使用人も料理人を合わせて5人しかいない。

庭は猫の額ほど。

しかも、その庭で野菜を育てている始末。

文官貴族としては割かし普通であるが、まぁ貧乏である。

私は父の跡を継ぐことも覚悟しながら、王城の文官として魔導士団の間接業務をしていた。

文官は先代の業務を引継げないことになっており、父も王城の倉庫管理をしていたほどだ。

で、文官の給料はほかの貴族に比べたかが知れている。

最低限貴族としての生活ができる程度。

領地を持たない、騎士爵とさほど変わらない。

下手をすれば騎士に比べ危険手当が出ないだけさらに低いかもしれない。


フィンチ家を残すためには私が婿を取るしかないのだが、ぶっちゃけお見合いをする暇もない。

魔導士団の給料計算、遠征費の精算、必要物資の手配、etc、etc…

他にも人手がいないわけではなかったが、ほぼ私が魔導士団の活動を支えていたと言っていい。

私が退職するときに爵位を返上し、平民として老後を暮らすかと考えていたところ、上司であり、これから夫となるウィンダム様から突然婚約の打診があったのだ。


彼は、王国最高の風と水魔法の使い手。

魔法を2属性扱えること自体が珍しいのに、両属性の最上位魔法まで使える魔法の天才。

そもそもイーグレット家自体が常に優秀な魔導士を輩出する国の要の御家だ。

王国でも屈指の大きな領地を持ち、独立しても成立する生産力を持つ。

そんなイーグレット家の現当主ウィンダム様から「あなたの能力が欲しい、是非家に来てくれ」と言われたのが1年前。

あれよあれよという間に、婚約が成立し、外堀を埋め得られ、今回の夜会の為にドレスまで仕立ててもらい、今に至る。

ちなみに、伯爵家は私の持ち物というわけで、イーグレット家預かりの爵位となりましたので、私はフィンチ伯爵となのっても、イーグレット侯爵夫人となのっても問題ない立場になりました。

ちなみに、侯爵夫人より伯爵のほうが爵位が上になるので、公爵夫人が出てこない限り爵位的には貴族令嬢界隈では無類の強さを誇ります。

まぁ侯爵家の威光があるので、普段は侯爵夫人のほうが伯爵より発言力は強くなりがちですが政治の場では逆転します。


*****

夜会はやっぱりイーグレット家の話題で持ちきりだった。

私はウィンダム様に腰を抱かれっぱなしで夜会を過ごすことになった。

完全に他の令嬢へのけん制である。

私など、亜麻色のストレートで、スレンダーではあるもののメリハリがないボディーライン、瞳の色も我が国ではよくいる栗茶色。

周りの令嬢達からの「なんでお前が」っていう目線が痛い!!

それでもそんな目線を感じると、ウィンダム様が大変怖い笑顔で睨み返してくださるので、すぐにそれるのだが。


「ユリアーナ、もっと堂々としてくれ。あなたは私の妻なのだから」

「そ、そうはいいましても貧乏伯爵を地でいく私にはすでにドレスに着られているみじめな女としか周りには見えないのではと不安でして…」

「大丈夫だ、君に似合うようにデザインしたドレスだから、誰もそんなことは言わない。逆にそんなことを言ってきた家とは付き合いを考えるだけさ」

そういうと、さらに腰を抱き寄せ私の額にキスをする。

それだけで若いご淑女がたから黄色い声が上がる。

ううう、こんなに囲われるとは思ってもいなかった…


夜会が終わりイーグレット家の屋敷に戻ってきた。

当然ながら私の部屋はウィンダム様の部屋の隣、反対側は私の執務室になっている。

王都のタウンハウスでも仕事ができるように工夫されている。

なにせ、ウィンダムさ…だ、旦那様のメインの仕事は王城なので、私もこちらで過ごすことになる。

ありがたいことに、フィンチ家で雇っていた使用人たちも雇い入れてくれた。

私付の侍女は、昔から私の世話をしてくれていたものだ。


「お嬢さ…奥様大変お美しかったです」

「ありがとう・・・もう汚さないか気が気じゃなかったわよ」

「こんなグレードのドレスを着れば当然ですよね…」

「貧乏魂が染みついてるのを感じるわ…」


昔からの付き合いである侍女に寝間着に着替えるのを手伝ってもらうついでに、体を拭いて清めてもらった。

これから、ある意味侯爵夫人としての仕事の一つである。

着せてもらった寝間着はシルクでものすごく肌触りのいいネグリジェだった。

これだけで貧乏魂激しい私のハートは縮みあがりそうだ。


「奥様、旦那様がお待ちです」


ウィンダム様付の従者の方が呼びに来てくれた。

寝室への扉を開ければ、ガウンに着替えたウィンダム様がベッドに腰掛けていた。


「ユリアーナ、こっちへおいで」

「は、はい」

めちゃくちゃ緊張する。

思わず手と足が同じに動く。ギクシャク。

「そんなに緊張しないでくれ…なるべく優しくする」

「う、ウィンダム様…なぜこんな私をお選びになったのですか?ウィンダム様ならもっときれいなご婦人も…」

「ユリアーナ、様は要らない。それに政略だと言われても、私は君を愛すると決めたんだ」

「それは、ありがとうございます。フィンチ家の使用人も雇い入れていただき、何もかも…」

「愛すると決めた人を守るのは当然のことだ。それに礼は要らない。私は君の能力にほれ込んだんだ。見た目だけの令嬢と比べて自分を卑下してはいけないよ」


立ち上がったウィンダム様にそっと抱き寄せられ、ポフリとベッドに座らされる。

そして、横からしっかりと抱き寄せられ、彼の普段は見えない筋肉を腕や背中に直に感じて、さらに体が硬くなってしまう。


「こ、こここここういうことには慣れておりませんで…」

「慣れていられるのは困るな…私も初めてだ」

「そ、そうなのですね」


うぅぅ、めちゃくちゃ私声が上ずっている。

それに比べて初めてだというのにウィンダム様の声は甘く優しい。


「大丈夫、悪いようにはしない」


総耳元でささやかれ、チュッと首元にキスを落とされる。

ひ、ひぃぃぃ明日まで生きていないかもしれないっ!!!

流れるようにベッドに寝かされた私にウィンダム様が覆いかぶさる。

目が!目が怖い!

結婚式以来、はじめて触れる唇の柔らかさに、頭が沸騰する。

む、もうむり…


*****

えー、途中から昨晩の記憶がありません。

既に朝でございます。すごかったです。


最初は痛かったですけど、かなり優しくしていただいたのか気が付いたら快楽におぼれていました…

愛されるってこういうことなのですね…

記憶をなくすほどとは…


今週1週間はお仕事もなく、こんな日々になりそう。

大丈夫か私。

なんかこのままダメになりそうな気がする。

それに、なにかウィンにお返しできるようなこともしたい…

昨夜のうちに愛称で呼ぶように言われ、ものすごい勢いで慣らされてしまいました。

怖いです。


「ん・・・ユリ起きたのか…」

「あ、すみませんウィン。起こしてしまって…」

「いや、いい。それよりこっちへおいで」


起き上がっていた私の腰に手を回され、ゆっくりと寝かされ抱きしめられる。

あ、これダメなヤツだ。

心臓がすごいバフバフいってる。

しかし、逃げたいとも思えない。

あぁ…むりっ。


*****

伯爵令嬢でしたがね、貧乏で母も早くに亡くした私は閨教育がそれほどされておらず、ご迷惑をおかけしたと思う。

むしろウィンから教わったまである。

なるほど、こうすると喜んでくれるのか…ふむふむ。


さて、1週間随分と自堕落なしっぽりとした日々を過ごしていよいよ初仕事。

といっても、私室の隣に行くだけだけど。

今日から私はイーグレット領の運営と屋敷の取り仕切りをする。

ウィンはすごく羨ましげな顔でお仕事へ行きました。

1週間も休むと仕事したくなくなるよね。わかります。


「奥様、こちらが直近三ヶ月の収支報告書と貿易統計、今年の収穫予測です」


家令で侍女長のケイトさんから、書類の数々を受け取る。

今までは彼女と領地に居る彼女の旦那さんで執事のクロウさんとで領地運営を何とか回していたんだそうだ。

旦那様の大まかな指示で何とか回していたそうだが、折角の領地は近隣の領地と違い”現状維持”な状態が長らく続いていた。

私はこれを”発展”させるのがお仕事。

没落貧乏貴族を拾ってくれたウィンに恩返しのためにも頑張らないといけない。


地図を片手にもらった書類を片っ端から眺め、再度イーグレット領について確認する。

領地のためにやりたいことはたくさんある。

河川の工事から、農地の水確保のためのため池の作成、それらの立案と効果を計算し、実行に移す。

この辺りは亡き父が実は得意だった。

結構他の領地経営のお手伝いをしていたのだ。

婚約してからの1年間の間に2回ほどイーグレット領を回る機会をもらっていたので、改良したいところは頭に入っている。


農地の拡張よりも、質の向上と安定した収穫を目指す。

農業だけでなく、領地の端にある鉱山からは鉄と銅がとれる。

金や銀に比べれは価値は低いが、生活には必須となる金属だ。

燃料さえ確保できれば、有効な資源として使うことが出来る。

木炭の製造を整え、鉄を使った農機具の普及を後押しする。

後は銅食器などの製造をすすめた。



徐々に景気が上向いていく領地の状況にウィンも満足してくれている。


「やはり、ユリにまかせて正解だった。本当にありがとう」


そういって抱きしめてもらえた時は私も本当にうれしかった。

で、そのままベッドへGOするのだけは少し抑えてもらえると助かるなぁと思う。

いや、私もまんざらではないんだけれど…


*****

その後私には、男児一人と女児二人の子供に恵まれた。

私自身、魔力はあっても魔法が使えない人間だったのだが、子供たちは無事魔法が使えてほっとした。

魔力はあるけど放出できなかったんだよね私は。

ただ、知らなかったこととはいえ、私の魔力量自体はウィンに匹敵するらしく、子供たちにもそれは受け継がれている。

仕事ができることで妻に迎え入れたウィンからしたら嬉しい誤算だったらしい。

最悪自分より魔力が弱く、なんなら魔力放出ができなくてもやむなしと思っていたらしい。

むしろ「その魔力量で放出できないのに、なんで生きてるんだ?」とウィンは頭をひねっていた。

それは私も知らん。

特に健康に問題はない。


領地も無事に発展を続け、国に治める税も増えている。

ますますイーグレット家は王家を支える大切な貴族として目立っている。

どうも、私とウィンの結婚以降、愛は落ちるものではなく、育むものだという認識も増えているらしく、政略結婚とはいえ仲睦まじい貴族夫婦が増えている。

一世代上では”真実の愛に目覚めたから婚約を破棄する”なんてのが流行ったらしいが、ある意味夢物語から目が覚めた人が増えたらしい。


大変いいことだと思う。

私達貴族は”国のために働かなくてはならない”のだから・・・

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― 新着の感想 ―
[一言] や、ホントに魔力放出出来ないのになんで生きてんだ?(笑) 大体の魔法が出てくる話だと魔力放出出来ないとかな〜りヤバい事になるんですが…(笑) 領地経営も上手く行ったみたいですし、めでたしめで…
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