第9話 訓練の成果
訓練を始めて二週間。後、三日経てば俺は中立連合国フィリーアルトに旅立つ事になっている。
その前に強くなっておきたいと思い、俺は精魂搾り出して訓練を行なっていた。
「バカヤロォオオオ! 死ぬんじゃねぇ!!」
その地獄絵図の様な光景を前にして、俺はただ立ち上がり叫んだ。
「れ、レイド殿下!!」
「お前ら、あの鬼教官をぶん殴りたくないのか!?」
「殴りたい!」
「ぶった斬ってやりたい!」
「裸にして街中に放り投げてやりたい!」
ジークは「ははは。酷いなぁー」と可笑しそうに笑っている。
「なら、立て!」
俺は氷魔法で、倒れた騎士達の疲労の溜まった足の患部を冷やしてやる。
多少は楽になり、そして動く様になるはずだ。
「立って、あのクソッタレの優男をぶん殴る権利を勝ち取るんだ!!」
「「「うおおおおおおお!!!」」」
今、ここに俺の鼓舞によって、騎士達は立ち上がった。
ある者は必死に足を動かして。
ある者は動かなくなった足を引きずって。
ある者は立ち上がれずとも、地面を這って。
「タイムアップだ!!」
この訓練に参加した騎士団の二百十二名の内、合格者は八十七名。
騎士達はヘロヘロになりながらも、30キロの重しを背負ったまま、300キロの疾走ランニングの地獄の修了検定をやり遂げたのだ。
「良くやった、よくやったぞ、お前ら!!」
「ううぅ、殿下!!」
「俺、俺ぇ……!」
「ああ、お前達はこの帝国の宝だ!」
この修了検定をやり遂げた騎士達を肩を叩いて励ます。中には涙を流す者もいて、つられて俺も少し涙目になってしまった。
「で、お前ら、俺との決闘はやるか?」
ジークの言葉に、祝勝ムードだった騎士達のテンションが一気に下がった。
そこ二週間、長かった。
最初のうちは吐きそうにもなったが、流石に天才の肉体だ。
何度も筋繊維を壊していくうちに、たった一週間で凄まじい速度で理想の筋肉に進化していた。
そして、俺の成長速度に触発されたのか、ジークは急に七日間のキャンプを行うと発表したのだ。
騎士達のモチベーションを上げる為に、「決闘をする権利」を用意した。
ジークに憧れを抱く騎士達にはそれで十分だったのに、ジークはその決闘で勝利した暁には「自分の妹とお見合いをさせてやる」権利を用意したのだ。
そうと聞けば、独身の多く女に飢えた騎士達も黙ってはいられない。
さらに厳し過ぎる訓練に、騎士達の怒りが爆発。さらにモチベーションを引き上げて、一週間の修行の成果を測る修了検定まで八十七人も残ったのだ。
ジークとしては万々歳な結果だろう。
しかしーーーー「すみません、自分。降ります」ーーーー騎士団の疲労は、かなり限界だった。
次々と「俺も……」「流石に身体が動かねえや」「今剣を振ったら怪我しそうだ」と辞退し始めた。
「レイド殿下、俺たちの分も、頼み、ます……!」
そして、将来の幹部候補と呼ばれた男もまた倒れ、レイドに思いを託したのだった。
「頑張ってくれ、レイド殿下!」
「俺たちの分もジーク団長をぶん殴ってくれ!」
騎士達の応援を一身に背負い、俺はジークと向かい合った。
ジークはそれも嬉しそうに笑った。
「ルールは魔法の使用あり、殺害は不可。他に質問は?」
「無い」
「それじゃあ、思い切り楽しむか!!!」
俺の背後に浮かんだ数十の黒い剣と氷の槍がジークに襲い掛かった。
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