第7話 弟子入り
キャロルが帰った後、俺は城に隣接された騎士団の本部に足を運んでいた。
ディバルト帝国第一騎士団。帝国内でも最強の戦力を誇る彼らはたった三百名の構成人数であるにも関わらず、一人一人が高いレベルで剣術を扱える猛者ばかりだ。
騎士団の本部は犯罪者にとって地獄の様な場所で、捕まってこの場所に送られたが最後、脱出は不可能として恐れられる程だった。
「騎士団長はいるか?」
俺はそこに堂々と立ち入った。と言っても、ちゃんと門番の騎士に挨拶はしたけどね。
「っ、第四王子様!? 団長は現在、鍛錬中ですが……」
「そうか」
「お、お呼びします!!」
「いや、構わない。俺からで向こう。入っても大丈夫か?」
「勿論で御座います。では、こちらへ」
騎士はよく教育されていて、近くにいた他の騎士に門番を代わってもらい、俺を案内した。
騎士団の本部は一つの大きな建物だ。四角いドーナツ型の作りで、真ん中には騎士が訓練するための巨大な広間が用意されている。
「立て! お前達、そんな事で市民を護れると思っているのか!?」
何人もの騎士が汗水を流して訓練をする中でも、真っ赤な赤髪を靡かせながら、剣を振るうその男が特に目立った。
帝国第一騎士団団長ジーク・フリート。
かつて邪竜を討伐した際に生き血を浴びて呪いを受け、どんな苦痛を味わっても死ねない身体にされた、人呼んで【不死身のジークフリート】。現帝国最強の男だ。
しかし、どんなに不死身と言われても歳は取る。すでにジークは48歳だが、見た目は好青年って感じだ。全く、年齢詐称にも程がある。イケメンすぎて腹が立つぞ。
「これはレイド殿下」
「よせ、ジーク。話しにくい」
「はっ」
ジークが俺を見つけるなり膝を突き頭を下げたので、止める様に言う。ジークは律儀な男で、クズ王子にも頭を下げるのだ。
よせと言うと素直に視線を合わせてくれた。この素直さがこいつの良いところだ。
「今日はお前に頼があって来た」
「なんなりと申し付け下さい」
周囲の騎士達から「クズ王子がまた何かやってるよ」「ジーク団長が何でも言う事聞くからってよ」「チッ、本当は牢屋に入れてやりたいぜ」と言う声が聞こえた。
これからやる事で、かなり騒がしくなるだろうな、と思いながら俺は言った。
「俺に剣を教えてくれ」
「ぇ……」
深々と腰を曲げて、頭を下げた。
その瞬間、騎士団本部にどよめきが広がった。
俺が頼み事をしたら即了承するジークでさえ、唖然として声が出ていない。目をまん丸として驚いている姿が想像出来る。
「俺は弱い。この世界は広く、俺じゃ勝てない相手なんてそこらへんに沢山いる。お前だってそうだ。でも、俺は強くなりたいんだ。お前の剣を俺に叩き込んでほしい」
ありのままの想いを口に出して、ジークにぶつけた。
この演説を聞いている間に騎士達は黙って、俺の言葉に耳を傾けていた。
ここにいる者のほとんどが、その胸の中に驚愕が渦巻いていた。
第四王子レイドといえば、自分の才能にかまけて、訓練や鍛錬を一切しない事で有名だ。
確かにレイドは天才的な魔法の才能を持っているが、鍛錬をしなければ本番では力を存分に発揮できない。
騎士達は日頃から朝から夜まで鍛錬をしていたので、その対極にいるレイドをひどく嫌っていた。
しかし、この目の前にいるのは本当にクズ王子として有名なレイドなのか?
一介の騎士に頭を下げて教えを乞う姿は、とても自分達が知る第四王子の姿とはかけ離れていた。
(これがあのジーク殿下? 失礼ながらクズ王子として色欲に溺れ、傍若無人の限りを尽くしていた、あの?)
そしてそれはジークも同じで、内心ではかなり驚いていた。
そして同時にレイドの評価を見直すことになる。
ジークには、レイドか何を思って、その決して軽いはずがない頭を下げているのかわからない。
しかし、さっきのレイドの瞳には強くなりたいと言う意志があった。それはここにいる部下達に通じる物がある。
レイドの代わり様に、思わず口角を上げてしまった。
「私の指導は厳しいですよ、殿下」
「それこそ、臨むところだ」
俺は氷の剣を生成して、ジークに襲い掛かる。それに対抗してジークも嬉々として剣を振るった。
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