第6話 練習試合
今日はクリミナル学園の入学式に向けて、キャロルと魔法の練習だ。
俺は天才と呼ばれていて、「氷」「雷」「闇」の三属性の適性を持っている。
キャロルは「水」のみだが、魔法のコントロール技術は抜きん出ていて、単純な魔法の技術なら俺でも敵わない。
そんなわけで魔法の練習相手となるとお互いに手頃な相手が見つからなかった。なので今日は二人で模擬戦をしている。
「《水球》!」
「《氷壁》!」
キャロルが放った、水の球を氷の壁を作り出して防いだ。その程度の事は予想していたキャロルは走りながら次の魔法を唱えた。
「《水鞭》
キャロルの掌に水の鞭が握られた。ヒュンヒュンと空気を切る音を鳴らしながら、水の鞭を振り回す。
鞭の脅威は威力では無くて速度だ。しかもキャロルは手先が器用なので、鞭を自在に操ってくる。
作戦は早々に遠距離から仕留めるに限る。
「《闇槍》」
黒いもやを纏った、1mくらいの槍が生成された。闇槍は一気に放たれる。
「くぅ!」
「何っ!?」
しかし、闇槍がキャロルを貫く事は無かった。
キャロルが水の鞭を駆使して、木の枝に絡ませて回避した。
動きが自在過ぎて、どこぞの立体機動だよとツッコんでしまった。
しかしそうしている間にも背後から、キャロルが襲い掛かった。
「《水球》!」
水球が今度は三発同時に放たれた。完全に虚を疲れた形で避ける事は不可能だ。
「《冷気》!」
「っ、《水壁》!」
それに対抗するために俺は、あらゆるものを凍て付かせる冷気の息を吐いた。水球を凍り付かせても、さらにキャロルに迫る冷気。
慌てて水の壁を出現させて、何とか防いだ。
(水の鞭があそこまで変幻自在だとは、厄介だな。まだまだ使いこなせてはいないが、森の中や建物のある場所での戦闘では俺もやられる可能性がある。幸いにもここは城の庭で、木も限られた本数しかない。ならば木がある方を意識してーーーー)
「《泡吐蟹》」
キャロルの攻略法を思案していると視界の隅で水で作られた透明な蟹を捉えた。透明なのに輪郭はハッキリと分かって、本物といわれてたら信じてしまいそうな出来栄えだった。
その透明な蟹は口元から泡をブクブクと出していた。いつの間にか泡がこの辺り中に広がっていて、俺の近くにも浮遊していた。
「《泡爆弾》」
キャロルが指を弾き、そしてーーーー爆発。
爆炎は出ないものの、凄まじい衝撃波が放たれて、砂埃がその場に舞った。レイドは直撃したはずだ、戦闘不能とは言えないまでも、傷は負っているはず。
追撃の為にさらなる魔法を……
「……参りました」
しかしキャロルは両手を上げて、諦めた様に《泡吐蟹》の魔法を解いた。
キャロルの背後、死角には無数の《闇槍》が浮かんでいた。例え《水壁》でも、この数は防ぎきれないだろう。
「俺の勝ちだな」
しかも、衝撃波の砂埃の中にいるはずのレイドまでもがキャロルの後ろにいたのだ。
後ろからキャロルを抱き締める。
キャロルも最初は恥ずかしがっていたが、今では慣れたのか平気そうだ。顔は真っ赤だけど。
「どうして私の後ろにいるんですか?」
「《影分身》だよ」
「かげ、ぶんしん……?」
まあ、百聞は一見にしかず。
試しに見せてみるか。
俺の身体から黒いモヤが現れて、人の形に固まって行った。そして色で染められ、表情が出来て、最終的には俺になった。
闇を触媒に分身を作り出す能力だ。
「これを身代わりに使ったんだ。その後は気配を消して、後ろでひっそりと《闇槍》を作って待っていたってわけだ」
「むぅ。雷を使えさせれませんでした」
頬を膨らませて不貞腐れるキャロル。
俺は基本的に闇魔法と氷魔法をメインにして戦っている。最強の魔法と呼び声の高い雷魔法は切り札だ。
何故なら、雷魔法は手加減が難しいんだ。
下手をすれば一生残る傷を与えてしまうかもしれないし、殺してしまう可能性もある。
ゲーム時代のレイドは構わず使っていたが、俺は可能なら殺したくない。
それこそ自分がピンチになった時か、殺しても問題のない相手以外には絶対に使わない。
「いや、かなりギリギリだったよ」
「切り札を残せるのはギリギリとは言わないんですよ」
しかし、キャロルは納得出来ない様だ。
実際キャロルはかなり強いと思うんだがな。この場所では使えない大技だって持ってるし、雷魔法を使わなければ俺とほぼ互角の実力だ。
かなり強いし俺だって、あの鞭の使い方などとても勉強になった。
「今回の試合だって、レイド様に収穫があったかどうか……」
「んー、いや、俺も弱点が見つかったし、良かったよ」
「弱点、ですか? そんな物があるなんて」
「あるんだよ。それはな……」
こっそりとキャロルに教えるとまさか!とびっくりしたように目を開いた。
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