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第4話 キャロル・フィル・マーレイド


 俺の唇に湿った柔らかいものが触れた。それから強引に口をこじ開けて、舌を侵入して来る。荒い鼻息が掛かり、「んっ」と色っぽい喘ぎ声も聞こえた。


 ゆっくりと目を開けるとウィンリーが俺にキスをしていた。


 そう言えばレイドはウィンリーに「朝起こす時はキスをする様に」と命令していたな。グッジョブ、レイド! 


 俺もされるがままは嫌なので、ウィンリーの頭を掴んで逃げられなくして、今度はこちらから攻めた。


 突然、俺が攻勢に転じたので、慌てて暴れているが、知った事じゃ無い。


 俺は十分ほど、ウィンリーとのキスを満足がいくまで味わった後、二人で朝風呂に入った。

 

 その後、自分の服の着方も分からない俺にウィンリーが手伝ってくれた。その最中で今日の予定を聞く。


「レイド様、今日はキャロル様とのお茶会がありますが」

「え、まじで?」

「はい。もう直にキャロル様はいらっしゃると思うので、是非、お出迎えをお願いしたいのですが……」

「分かった。すぐに準備しようか」

「は、はいっ!」


 ウィンリーは何故か嬉しそうに頷いた。







 朝食は適当に済ませて、俺はキャロルの出迎えに門の前に来た。


 馬車に乗っているのはキャロルだけかと思ったが、馬車から降りて来たのは驚きの人物だった。


「これはレイカーン公爵、お久しぶりです」

「レイド殿下もお元気そうで何よりです。今日は突然、伺って申し訳ありません」


 キャロルと同じ青色の髪をした、眼鏡をかけた壮年の男性。キャロルの父、レイカーン・フィン・マーレイド公爵だった。


 帝国内では皇帝、宰相の次に政治に対する発言権を持つ人物だ。レイドはその権力を欲しくなって、キャロルとの縁談話を持ち出したんだっけな。


「いえいえ。それで、どうして急に……?」

「うむ。実は、キャロルの事で話があってな。部屋を借りても良いかな?」

「勿論です」

「その前に、キャロル。降りて来て殿下に挨拶しなさい」


 レイカーンが言うと馬車から、鈴を転がす様な「はい」と言う声が聞こえた。


 それから馬車から降りて来たのは、やはり絶世の美女だった。美しく長い澄んだ青髪、夏の終わりの海の様な儚さを秘めた碧眼。まだ15歳の同い年なのに、凹凸がしっかりした身体つきで胸が高鳴る。


 彼女が俺の婚約者、キャロル・フィン・マーレイドだ。


「お久しぶりです、キャロル」

「お久しぶりです、レイド殿下」


 お互いに挨拶をするが、キャロルの声に力が無い。まあ、当然か。この頃からレイドはキャロルに罵詈雑言を振るっていたからな。


 しかし、俺はもうレイドじゃない。


 レイドは変わるんだ。


「ではキャロル、手を」

「っ! は、はい……」

「おお。キャロル、殿下と仲が良さそうで安心しましたよ」


 俺が手を差し出すとキャロルは驚きながらも、作り笑いを浮かべて手を取ってくれた。 


 娘が婚約者と仲睦まじそうにしている様子を見て、レイカーン公爵は嬉しそうに笑った。


 この婚約はマレード家にとって、かなり良い条件なのだ。第四王子の俺と結婚する事で王族に近い縁を結び、マレード家の地位を盤石とする目的があった。


 とりあえず、ウィンリーに適当な部屋を用意させて、そこに案内した。


 俺の隣には何故か、キャロルが座り、その正面にはレイカーン公爵が座った。


「皇帝陛下はいらしていないのですか?」

「ええ。相変わらず、俺には無関心ですから」


 あんまりあの皇帝の話はしたくない。その意思を強く感じたのか、レイカーン公爵も「ならば仕方ありませんね」と話を進めた。


「レイド殿下とキャロルの婚約を、正式なものにしようと思っているんだ」


 衝撃の発言。では無いが、多少は動揺した。


 このタイミングでの婚約だったか。


「私としては是非、受けたいと思っています。勿論、キャロルの気持ち次第ではありますが」

「勿論、私もレイド殿下と婚約したいと思っています」

「そうかそうか! では、私はこれから皇帝陛下に報告してくるよ! キャロル、せっかくだから数日泊まって、殿下と親睦を深めて行きなさい!」


 それでは!とレイカーン公爵は風の様に去って行った。


 残ったのは俺とキャロル、そして壁際に待機している、ウィンリーの3人だった。


 しばらくの沈黙の後、最初に口を開いたのはキャロルだった。


「そ、その、レイド殿下、実は殿下にプレゼントを……」

「プレゼント?」

「は、はい」


 そう言って、『アイテムボックス』から何かを取り出した。


 青い鉱石のブレスレットだった。

 

 俺とキャロルの髪の色で、とても綺麗で、手作り感溢れる出来栄えだったが、なによりも一生懸命作ってくれたのが伝わった。


 ブレスレットを手渡す時のキャロルの手は、微かに震えていた。


「キャロル……」

「ひぅっ、ご、ごめんなさい……」

「凄く嬉しいよ。ありがとう」

「ひえっ?」


 俺はブレスレットを受け取って、キャロルをぎゅっと抱き締めた。


 キャロルは驚いて変な声を出しているが、俺はとにかく抱き締め続けた。


 正直、俺は今まで女の子から手作りのものを貰った事なんて無かった。


 だから、キャロルが頑張って作ってくれた事が、物凄く愛おしかった。


 このまま抱きしめ続けたいが、一つだけケジメを付けなくてはいけない事がある。


 口をパクパクさせているキャロルを一度離して、ウィンリーも呼んだ。


「ウィンリー、君もこっちに来てくれ」

「は、はい」


 ウィンリーは何故ここで私が?と言う顔をしながら、そばに寄って来た。

 

「俺はこれまで2人に、いや、それ以外の人にも悪いことをして来た。本当にごめん」

「「っ!?」」


 俺が頭を下げると二人は驚いた様に息を呑んだ。


「過去が消せるとは思ってない。二人に心の傷を負わせた事は変わらない。でも、俺はこれから変わりたいと思っているんだ。そんなに簡単な事じゃ無いって分かってる。でも……俺を許してくれ」


 今度は深く、深く頭を下げた。


 キャロルとウィンリーに罵詈雑言を浴びせた。それは俺がやった事じゃないが、レイドがやったのは確かだ。


 謝って済む問題じゃない。


 キャロルは俺に酷い暴言を言われ、ウィンリーに至っては何年間も俺の暴力や暴言を浴びて来た。


 今までそんな事をやってきた俺が、急に「許してくれ」なんて言っても、ふざけるなって思うのが普通だ。


 下手すれば、キャロルは婚約破棄、ウィンリーもメイドを辞めて行くだろう。


 でもーーーー。





「っ、頭を上げてください。レイド様」





 そう言われて頭を上げるとキャロルが真っ直ぐに俺の目を見つめて来た。


「私は貴方の婚約者です。貴方が、私にした事は確かに間違っていたかもしれません。過去の過ちも取り返しは効きません。でも、それでも、私が貴方の婚約者だと言う事実は変わりません。これから共に、一緒に歩きましょう」

「わ、私も、ずっとレイド様のメイドです!」


 二人の言葉が嬉しくて、優しくて思わず涙が溢れそうになった。


 でも女の子の前でそんなにカッコ悪い事は出来ない。


 涙を拭って、俺はまた笑顔を浮かべた。


 キャロルとウィンリーと一緒に歩く為に。








「それじゃあ、キャロル。早速だけど一ついいか?」

「何ですか?」

「ウィンリーを側室として迎えたいんだが」

「ひょえぇ!?」

「勿論良いですよ」

「ふぇっ!?」


 この日、ウィンリーが俺の側室(予定)になった。


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