第19話 アーサー対レイド
十数回試合が続いたが、アイネとキャロルほど見応えがある戦いは、正直他になかった。ほとんどかチャンバラ遊びや魔法ごっこだったな。
レベルという面で言えば、キャロル達は間違いなく合格レベルだろう。そもそもキャロルほどの水魔法使い、アイネの四大精霊イフリートなど、合格にしなければ
「続いて、レイド・ファル・オルティス!」
っと、俺の番か。
「頑張って下さい、レイド様」
「必ず勝って帰って来るよ」
キャロルの応援を受け、俺は舞台に上がった。
舞台はアイネのイフリートのせいで完全に溶けていたが、教員の努力によって何とか修復された。
俺が舞台に上がると沢山の視線を一身に浴びた。それは好ましい感情のものでは無く、全く逆の軽蔑の視線がほとんどだった。
「その対戦相手はアーサー! 前へ!」
その名前が叫ばれた瞬間、この闘技場内はおおっ!と湧いた。
コツコツとやけに響く足音を鳴らしながら、金色に輝く抜き身の聖剣を携えて、金髪の美少年が舞台に上がってきた。
彼がアーサー。
原作の主人公だ。
俺は実はこの男が嫌いだ。
何故ならーーーー。
「お前がか弱い女性を虐げているクズ王子だな! 俺はお前を許さないぞ!」
ーーーーこいつが正義くんだからだ。
まず確かに俺がクズ王子なのは間違いない事だ。だけどさ、普通、真正面から言うか? 言わねえだろ。メンタル強すぎわろた。
ゲームやってた時から思ってたが、そもそもこいつは馬鹿なのだ。アホみたいに厄介事に頭を突っ込むし、その度に幼馴染のアイネに迷惑を掛ける。
「お前のせいだからな!!」
「な、何がだ!?」
ズビシィ!と指を指すとアーサーがビクッとして驚いていたが、それどころじゃないんだよ。全く。
「試合開始!」
っと、試合が開始された。
会場は思ったよりも静かで、みんなが黙って俺たちの一挙手一投足を見守っていた。
「ふん。貴様がーーーー」
「《闇槍》」
闇を凝縮した槍を10本、アーサーに向けて放った。
アーサーを串刺しにする勢いだか、まあ大丈夫だろ。
「エクスカリバー!」
アーサーは焦った様子も無く、聖剣を振り上げた光り輝く聖なるオーラが聖剣から発せられて、俺の闇魔法が浄化されて行く。
聖剣は闇魔法に対して、凄く相性が良い。
見ての通り、その魔力に当てられただけでも浄化されて無力化されてしまう。
「闇魔法とは、クズ王子のお前にぴったりの属性だな!」
と自信満々に言っているが、それだとこの世界の闇魔法使いが全員クズって事になるぞ? まあ、闇魔法使いに犯罪者が多いのは事実だけどな。
それにしても、やっぱり聖剣は厄介だな。
あれが相手だと闇魔法は役に立たない。
そもそも聖剣保有者には精神系の魔法が効かないから、俺の得意な《睡眠》や《精神支配》は使えない。
そこで俺が使えるのは氷魔法と雷魔法だけってなるんだが、原作では追い詰められた結果切り札の雷魔法を使って、レイドは敗北している。
実は聖剣には避雷針的な能力が眠っていて、地面に突き刺して電流を逃したのだ。
そして近接戦に持ち込まれて、剣術をまともに習っていなかったレイドは完全敗北。
つまり雷魔法は使えない。
ならば氷魔法でどう戦うか?と言う話になるのだが、当然、対策は出来ている。
「《氷剣乱舞》」
両手に握る二振りの剣も合わせて、合計で19本の氷の剣が展開された。
氷の剣はまるで帝国の腕章の様に、まるで風神雷神の太鼓の様に、俺の後ろに控えている。
「さあ、やろうか」
「そんな薄氷で、僕を倒せると思ってるのか!?」
俺とアーサーはお互いに剣を構えながら、接戦した。
そしてレイドとアーサーが舞台に上がってすぐの頃。
「えっと、ちょっと良い?」
「あ。確か貴女は、アイネさん……」
さっきは話し掛けれなかったアイネがキャロルに会いにやって来たのだ。
周囲の人々の視線は聖剣の使い手であるアーサーと、天才だがどうしようもないクズ王子と噂のレイドの対決に集まっていたので、二人の密会には誰も気付かない。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………その」
「キャロルはさ! あっ、キャロル様?って呼んだ方が良いかな?」
「いえ! 呼び捨てで構いませんよ。来年からは同級生ですし!」
キャロルは筋金入りの箱入り娘だった。公爵令嬢という立場では、対等に話せる同年代の子供はおらず、呼び捨てされる事に憧れを抱いていた。
こうして実際にアイネに呼び捨てにされた事で、テンションは少し上がっていた。
「そっか! じゃあ、私もアイネって呼び捨てにしてね!」
「ふふ。分かりました、アイネ」
「うん! それで、キャロルはこの試合どう見る?」
「勿論、レイド様が勝ちますよ」
キャロルは一分の迷いも無く言った。
その即答ぶりにアイネは少し驚きながらも
「へえ。随分信用してるんだね」
「レイド様は私と約束してくれましたから。絶対に約束を守ってくれます」
「…………クズ王子なのに?」
「…………」
キャロルの和やかな雰囲気が一瞬で鋭く変わった。
「ごめんごめんって。レイド、君? 様? が噂通りの人じゃ無いってのは分かってるよ」
少し焦りながらアイネはそう言った。
「だって、キャロルが凄く幸せそうだったからね」
アイネが聞いたレイドの噂では、婚約者にすら暴力を振るって女子供を虐げるクズ王子、って感じだった。
だが戦闘中も思った事だけれど、そんな傷は一つも見えず、試合後にキャロルがレイドの胸に顔を埋めた時は、女のアイネから見ても羨ましいほど大切にされているのが分かるラブラブっぷりだ。
「と言っても、あの馬鹿はそんな事気付いてなさそうだけどね。本当に馬鹿。馬鹿すぎて笑えて来るよ」
(試合に負けてに傷付いている時ですら虐げるなんて!! 必ず俺が助けるぞ、キャロル様!!)
とか言ってたからなー、はは……。と内心で呆れる。
「…………アイネは彼の恋人じゃないんですか?」
「無い無い! 全然タイプじゃ無いし!」
「そうですか! なら良かった! レイド様の悪口を言った彼は嫌いですから!」
キャロルは刺々しい雰囲気を軟化させ、花が咲く様な笑顔で言った。
その可愛さにアイネ自身もどきりとしながら、キャロルを助けようとして逆に嫌われてしまったアーサーに内心で「ドンマイ」と励ますのだった。




