第18話 四大精霊イフリート
「《スウェルオルカ》」
膨大な量の水が渦を成し、少しずつ形を作っていく。
その全長は5mほど。この舞台に限れば十分過ぎるほど巨大だ。
空中を泳ぎ、尻尾を振るうたびに水飛沫を上げるその姿は、まさしく海の王者。シャチである。
「デカい……」
アイネもまた、その王者の姿に固唾を飲んだ。
さっきまでとは違って手加減なんて出来ない。
全力で剣を振るった。
「《炎熱剣斬》!」
三倍の大きさの炎の斬撃を放ったが、スウェルオルカは炎を飲み込んでなお、生き生きとしている。
「この子は少し怒りっぽいので、お気をつけて」
「っ!!」
アイネは《火球》を放って抵抗するが全く効いている様子も無く、スウェルオルカが石畳の舞台を抉りながら突き進んだ。
スウェルオルカはキャロルの奥の手だ。
キャロルの魔力を消費して、体内に永遠と《水創造》を発動する事で、水が途切れることは無い。
それこそ不死身の様に、何度破壊しても蘇ってくる怪物シャチだ。
今回の場合はアイネの火力でも蒸発させれなかったことから、スウェルオルカの強さが窺える。
「《炎壁》!」
「《水球》」
炎の壁を出現させてスウェルオルカと相殺させようと試みるも、スウェルオルカが放った水球だけで炎の壁を破壊した。
圧倒的だ。
このままでは、キャロルの勝利は決まったも同然だ。
だが、俺は知っている。
アイネの切り札をーーーー。
「来なさい。《イフリート》!」
その瞬間、爆炎がアイネの周囲を包み込んだ。
次に現れるのはアイネと、その背後に立つ人型の炎。
世界にたった4体しかいない、上位精霊の内の一体である四大精霊イフリートである。
『我を呼ぶ程か。アイネよ』
「ええ。力を貸して」
『良かろう』
次の瞬間、アイネの炎剣の火力が上がった。
それと同時に舞台の周囲も熱せられ、気温が一気に上がる。
俺は自分の周りだけ氷魔法で冷やしているが、他の奴は汗でビチャビチャだった。
「四大精霊って、まじかよ……」
「しかも平民だろ、あの子……」
「俺の側室になってくれねえかな……」
「いやあの美貌なら正妻だって……」
かわいそうになぁ、と思っているとどうやら男どもは別の事で頭がいっぱいで、暑さは気になっていないみたいだな。
ともかく、アイネの火力はこの瞬間、爆発的な上昇を見せた。
ならばとキャロルもスウェルオルカの水量を増やして対抗する。
「スウェルオルカ!」
「イフリート!」
スウェルオルカとイフリートの激突によって大規模な水蒸気爆発が起こった。
少しずつ煙が晴れて露わになったのは、炎剣をキャロルの首筋に立てるアイネの姿だ。
「……参りました」
キャロルの降参宣言でこの試合は終わりを迎えた。
アイネはキャロルに声を掛けようとしていたが、顔を俯かせてキャロルに声を掛けられるはずも無く、アイネも舞台を降りた。
キャロルは舞台を降りると俺の所に来てコツンと俺の胸に顔を埋めた。
「情けない試合を、してしまいました……」
「そうか? 四大精霊相手によくやったと思うぞ」
「ぐすん」
「よしよし」
こうして俺は三試合くらい胸の中で泣くキャロルをしばらく慰めるのだった。




