第17話 キャロル対アイネ
闘技場の舞台の上で二人の美少女が向かい合っている。
青色の髪を風に靡かせる、ディバルト帝国の公爵令嬢 キャロル・フィル・マーレイド。幼い時から公爵令嬢に相応しい教育、礼儀作法を学んできており、その佇まいは威風堂々としたものがあった。流石俺の嫁、めっちゃ可愛い。
アイネは短い赤髪をさらっと撫でた。その腰には業物とは呼べないまでも、量産品の剣よりは立派な剣が腰に差していた。平民ながら、貴族顔負けの堂々とした佇まいと立ち振る舞いによって、実際にここにいるほとんどの貴族の子息達を完全に虜にしている。
美少女対決とは、この二人のためにある言葉だろう。
「試合開始!」
「《水球》」
教員が合図をしたと同時に、キャロルが動き出した。
十七の水球を作り一気にアイネに攻撃を仕掛けたのだ。
「《炎壁》」
ただでさえ石を粉砕するほどの威力を持つ水球が十七もの数で押し寄せているにも関わらず、アイネは冷静に呪文を唱えた。
轟々と燃え盛る炎熱の壁が水球を遮断し、圧倒的な火力で蒸発させる。
しかし普通の炎魔法では、キャロルの水球を十七発も蒸発させる火力は出ないはずだ。俺はその秘密を知っている。それはーーーー。
「《水鞭》!」
「《炎剣》」
俺の考えを遮る様に、キャロルが両手に水の鞭を作ってアイネに放った。
しかしそれに対抗する様にアイネが剣を抜刀。炎を纏わせて、キャロルの水の鞭と激突した。
「なっ!?」
「中々やりますね」
その勝負の軍配はアイネに上がった。
元々あった件に炎を纏わせたアイネの《炎剣》と、何もない場所から生み出したキャロルの《水鞭》では勝負にならなかったのだ。
「この!」
「無駄よ」
キャロルは半ばやけくそ気味に水球を放ち、水の鞭を振るったが、ついにはキャロルは地面に尻餅をついて倒れてしまった。
立っているアイネは追撃せずに、その余裕からキャロルを見下す様に立っていた。
「……降参しなさい」
「っ、く……!」
アイネは優しく言うが、キャロルは歯を食いしばって掌に爪が食い込むほど悔しさを露わにした。
キャロルの水鞭の本領は森の中でこそ発揮されるんだが、この試験の舞台では分が悪かったか。
他の魔法もそうだが、実は水魔法はそんなに強くない。
炎魔法の様な火力は無く、風魔法の様な速度も無く、土魔法の様な防御力も無い。
最弱の属性とも呼ばれていた。
だが、キャロルはその水魔法を知恵と応用で使いこなしている。
水球だって単発の威力が高くなるように鍛えて、水鞭なんて普通は難しい長時間の水の形を固定化をして武器にしてみせた。
天才だ。キャロルは間違い無く天才だ。
だが、それ以上にアイネも天才だった。
幼い時からアーサーと共に野山を駆け回り、山を越え谷を越え鍛えた筋力と胆力、そして従来の柔軟性を兼ね備え、剣術の才能はピカイチで師匠のいない現状でも我流でありながら、受験生2000人の中で五本の指に入るくらいの実力を持っている。
そんな人間に敵うはずがない。
もう、諦めて逃げろーーーー。
俺は心の中でそう叫びながら、キャロルの目を見た。
(負け、ない……!!)
キャロルは諦めていなかった。
その闘争心は尽きる事なく、今なお天才を打倒しようと立ち上がろうとしていた。
「頑張れ! キャロル!」
そんな姿を見て俺はキャロルを止めようとしていたことを忘れ、その言葉を叫んでいた。
俺の声がキャロルに届いたのかどうかは分からない。
だが、キャロルはその瞬間、全ての魔力を放出して切り札の魔法を放った。
「《スウェルオルカ》」




