第15話 ディスター伯爵の結末
薄暗く、石で囲まれたこの部屋は肌が凍えるほど、空気が冷たい。灯りは松明で代用しているため、チリチリと炎の燃える音が聞こえる。
「チッ! 何故、私が白金貨を50枚も支払わねばならんのだ!!」
「ギャアアアアアッッ!!」
そんな中で小太りの男が鞭を振るい、女の悲鳴だけが響いていた。
「黙れ黙れ黙れ!!」
小太りの男、ディスター伯爵は怒りのままに鞭を振るって、女を傷付ける。
少し前までは女に対して性的な拷問をしていたが、今となっては痛みで悲鳴を上げる姿に興奮する様になっていた。
この部屋には拷問器具がいくつも設置されており、
檻の中には何人もの女が閉じ込められ、次は自分の番かもしれないと震えていた。
「アイツとアイツだ! たかが獣の雌1匹が買えないからって、白金貨30枚も払わされた! クソが! クソクソクソクソクソクソクソ!!」
ディスターは苛立ちをぶつけ、鞭を何度も振るう。
すでに女は悲鳴をあげておらず、限界に近いのは明らかだった。
「チィ! こうなったら、此奴らを発情した魔獣の檻にぶち込むかーーーー」
「へえ。随分とあくどいことをしてたんだな」
「っ、誰だ!」
「俺だよ」
「き、貴様は……!」
ディスターは俺と面識があったみたいだ。
と言っても、俺は覚えてないんだけどな。
しかし、俺を見た時の顔は爆笑者だったな。
さて。ここで騒がれると喧しくなりそうだったので、《氷剣》でディスターの手足を貫いた。
「イギャアアアァァ!! 痛イィイイイ!!」
しまった。余計煩くしてしまった。
尋問もしたかったので《精神支配》で黙らせた。
「さて。お前の取引相手は誰だ?」
「名前は、分からない……」
「何だと?」
「いつも声だけの会話だった。奴隷は毎回違う指定の場所に置いていて、その後に相手が連れて行く」
むう。情報が無さすぎる。
分身達が他の部屋で眠っていた、ディスターの部下達を捕らえている。
他にも違法に捕まえられた奴隷達を保護しておいた。
今は分身のうちの一体が、街の衛兵を呼びに行っていた。
「《悪夢》」
俺がさらに魔法を掛けると事きれた様に、ディスター伯爵が倒れた。
倒れた時に地面に衝突して、頭から血を流しているがピクリとも動かない。
この魔法は相手を強制的に夢の世界に誘う魔法で、夢の中は相手が最悪だと思う悪夢を見せる。
今頃、ディスターは生きていたくないと思うほどの悪夢を見ているはずだ。
さて、こいつは影の中に入れておく。
持っていたポーションを倒れている女性に振りかけて、上着をかけてやる。すぐには目を覚さないだろうが、これなら傷跡は残らないはずだ。
それから檻に近付いて、黒剣で檻を破壊する。
中にいる女性達もすぐに出てこれるはずだが、皆、奥の隅っこで固まって怯えていた。
まあ、急にやって来て、伯爵を残虐に殺した(様に見える)ら、そりゃ怖いし怯えるよな。
なるべく威圧しない様に、彼女らと目線を合わせるために膝を突いて話しかけた。
「もう大丈夫だ」
「わ、私達を、虐めるの……?」
檻の中にいる一番小さな女の子が、恐る恐る聞いて来た。
「虐めないよ。大丈夫。君達を助けに来たんだ」
その言葉を聞いて、女性達は疑いながらもゆっくりと檻から出てくれた。
それから、他に保護した女性達を連れて表に出る。
急に現れた俺達に屋敷の使用人は動揺していたが、有無を言わせぬ声で女性達に暖かい食べ物を用意する様に命令したら、渋々ながら従ってくれた。
きっとこの使用人たちも、女性達がただならぬ様子なのを察したのだろう。伯爵とは違って、使用人達はこの事件に関係無さそうだな。
とりあえず俺は衛兵が来るのを待つ為に屋敷の外に出て、影の中に入れておいたディスターと闇奴隷商人を出しておいた。どちらも意識を失っているので、とても静かだ。
それから少しして、やっと衛兵が到着した。
だが何を思ったか、五十人くらいの衛兵達は一気に俺を囲い、剣を向けて来た。
「っ、何者だ!」
「何故ディスター伯爵が倒れている!?」
「答えよ!」
かなり殺気立っていて、今すぐにも飛び掛かってきそうだ。
あんまりやりたくなかったんだが、この際仕方ない。
家紋が刻まれた腕章を見せ、高らかに名前を叫んだ。
「俺は帝国第四王子レイド・ファル・オルティスだ」
「九本の剣に黄金の王冠……! 王家の家紋……!?」
「「「ははぁー!!」」」
兵士達が両膝を突き、頭を垂れた。
「この男は第四王子の名において、爵位を剥奪とする! 牢屋にぶち込んで、後日、裁判にかけよ!」
「畏まりました!」
「俺の名前を出しても構わんが、俺はこれから中立連合国フィリーアルトに向かう。俺を引き止めるのは不可能だと思え」
実際、裁判に俺の証言を求められる可能性があるから、先に釘を刺しておけば後になって裁判に出ろと言われることもないだろう。
「まずはこの家にいた女性達の保護だ。暖かい飯と風呂を与えろ。事情聴取が終わったら家に帰してやれ。たとえ他国から来た場合であってもだ。帰る場所がなかったら、俺の専属メイドとして雇うと言って、帝都に送れ! 良いな!?」
「「「畏まりました、レイド殿下!!」」」
衛兵達が立ち上がり、命令に従って一斉に動き出した。
部屋に戻るとまだキャロルは帰って来てなかった。
その間は暇だったので、読みかけだった本を開いて時間を潰した。
少ししてホカホカの湯気が出て、色っぽいキャロルが部屋に戻って来た。その表情はとても満足げで、ウィンリー達と入る風呂が楽しかったのが見え見えだが、あえて聞いてみた。
「おかえり。楽しかったか?」
「はい! とても!」
うん。やっぱり、キャロルは可愛いなぁ。
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