第12話 出発
「ふむ。どうだ?」
「とてもお似合いです、レイド様!」
「そうか」
自分がコーディネイトした服を着た俺を見て、嬉しそうに笑うウィンリーを見て、また俺も笑った。
今日は中立連合国フィリーアルトへ出発する日だ。
馬車で六日かかる距離にあって、俺とキャロルは一緒に向かう予定だ。
「本日はよろしく頼むぞ」
「「「ははっ!」」」
馬車を乗る御者と護衛する冒険者に挨拶をすると、揃って膝を突いた。
この者達は父である皇帝が雇った者だ。
俺には興味などないが、一応威厳とかそう言うのを気にして、豪華な馬車と腕の立つ冒険者を寄越したみたいだな。
まあ、皇帝が選んだ冒険者なら、裏切りはまずあり得ないだろう。
皇帝が俺を良く思っていないのは知っているが、皇帝が選んだ護衛の者がいるのに、第四王子が暗殺されたと言われれば、皇帝の威信が揺れてしまう。
だがらまず、暗殺とかは考えていないだろうな。
これで安心してキャロルとウィンリーを乗せられる。
少ししてキャロルと合流した。
馬車の中に入り、抱擁を交わす。
「レイド様!」
「キャロル!」
前回の顔合わせから約一ヶ月か。
キャロルに会えなくて寂しかったが、それは俺だけじゃなかったみたいだ。
「ウィンリーも久しぶりね」
「はい。キャロル様もお元気そうで何よりです」
「それより、キャロルは使用人は?」
「連れて来ませんでした。家族水入らずで過ごしたいですから」
嬉しそうにキャロルがウィンリーの手を取った。
キャロルが言う“家族”にはウィンリーも含まれているみたいだ。
「それじゃあ、出発してくれ」
「はっ」
馬車の中は二人席が向かい合わせに二つある感じだ。広くは無いが、安い馬車よりは揺れが少なくなっている。乗り物酔いはしなくて済みそうだ。
席順は久しぶりに会ったので俺とキャロルが隣で、ウィンリーが真向かいに座る。
キャロルはニコニコしながら俺の腕を組んでいる。すでに16歳で、胸も出ていてとても柔らかい。いや俺も男なので嬉しいんだが、もやもやして欲望に支配されかねない。
「きゃあああああっ! 誰か助けてぇえええ!!」
どこかから、悲鳴が聞こえてきた。
俺は馬車を飛び出して、周囲に目を配る。
ここは森の中だ。普通は一目で人を見つけ出すのは不可能だが、俺の雷魔法を応用して、人間から発生する僅かな静電気を察知して、どこに人がいるのかはすぐに分かった。
地点はここから200m先。
そう遠く無い。走れば一瞬だ。
「殿下。ここは……」
「駄目だ」
「ですが!」
このままでは遅れてしまいます! 口には出さなかったが、冒険者は喉のすぐ手前まで出掛かっていた。
コイツらも皇帝の名の下に俺の護衛を任せられているから、俺に何かあったら首が飛んでしまう。
だから必死なんだろう。
「心配するな、すぐに戻る」
「殿下!!」
引き止めようとする冒険者を置いて、俺は風を切って疾走した。
少し走るとすぐに見えてきた。
蹲る子供を、数人がかりで襲おうとしている光景が目に映った。
「《氷剣》」
氷の剣を作り出し、男達を1人を除いて頭と心臓を貫き、絶命させる。
1人だけ残した男は後で尋問しようと闇魔法の一種で、影の中に閉じ込めた。
俺の影の中から脱出する手段は、俺よりも魔力量で上回っている事だが、まず破られる事は無いだろう。
さて、こっちはまずは良いだろう。
怯えてうずくまっている子供を安心させたほうがいいだろ。
「俺はディバルト帝国第四王子のレイド・ファル・オルティスだ。君を助けにきた。安心してほしい」
片膝を突いてそう言うと、子供はゆっくりと顔を上げた。
子供とは言ったが、俺の唾を飲むほどの美少女だった。身長は120cmくらいと、見た目も幼く見えるはずだ。
茶髪、頭に犬っぽい耳とふさふさとした尻尾。
犬の獣人か。
「わ、私は獣王国のアリスです、助けて頂いてありがとうございます」
「ほう。獣王国の? 何故、ここにいる?」
「奴隷商に攫われて……」
奴隷商人か。
帝国の悪き風習、とまでは言わない。
実際、奴隷がいることで助かっている人間が沢山いる。
問題は、違法な方法で奴隷を売買する連中だ。
この子供もその口だろう。
さて、本来ならこの子供は近くの街に預けて、先を急ぐのが最善なんだが。
獣王国の者となると厄介な事になる。
どうするか決めかねていると、犬の獣人の少女が言った。
「わ、私、中立連合国フィリーアルトへ行かないといけないんです! ど、どうか、連れて行ってください!」
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