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第10話 ウィンリーへの虐め



『まさか帝国最強の俺と引き分けるとはな』

『お前が魔剣を使っていれば、結果は変わっていた』

『それはお互い様でしょう? レイド殿下』

『長期休暇で帰って来た時にでもまたやろう』

『その時を楽しみにしておきますよ。次はお互いに全力で』


 騎士団との別れ際、結局引き分けに終わったジークとそう約束した。


 他の騎士達とも随分と仲良くなったと思う。

 やっぱりあれだな、同じ釜の飯を食うのが大事なんだな。

 ほぼ一緒に暮らしていたからか、騎士達と変な友情も芽生えた。嬉しい限りだ。

 

 と言っても、俺の優先度は一番にキャロルとウィンリーだ。この二人との時間は大切にしたいと思ってる。


 考え事をしながら城を歩いていると、曲がり角で出合頭にメイドとぶつかってしまった。床に散らばるが、そんなものには目もくれずに倒れかけたメイドの腰に手を回して支えた。


「おっと、大丈夫か?」

「は、はい、ありがとうございます、殿下!」

「気をつけろよ」

「はい!」


 最近、城のメイドとの距離が近くなった気がする。

 少し前ならゾッとした顔で恐れられたが、今では顔を赤らめる程度だ。


 少しずつだけど、レイドという評価を変えられていると思う。この調子で全てのフラグをたたき折って、俺は幸せに暮らすんだ。







 ウィンリーを探して城を歩いていると厨房の方にウィンリーの気配を見つけた。


「ねえ、まだなの?」

「早くレイド殿下の専属変わって欲しいんだけど」

「そ、それは……!」


 二人のメイドがウィンリーに詰め寄って、脅しをしていた。体格差があるのでウィンリーにとってはかなり威圧感を感じているだろう。

 当の本人のウィンリーは壁際で小動物の様に小さく震えていた。


「何かさ、最近のレイド殿下って優しくなったじゃ無い?」

「あの殿下になら抱かれたいし〜」

「側室にしてくれたら玉の輿だし〜」

「「キャハハハ!!」」


 二人が甲高く、耳障りな笑い声をあげる。


 どこの世界も女のいじめってのは陰湿だな。

 しかもこれ、新卒の女の子にOLおばさんがやるやつじゃん。

 うわぁ、もしかしてこの二人っておばさん?


「ほら、さっさと譲りなさいよ!」

「ぃ、ゃ……!」

「はあ?」

「何て?」

「嫌、です!!!


 ウィンリーは拳を握って、目を瞑りながらも今までに無いほどの大声で拒否した。


「私はレイド様の専属メイドです! この肩書きだけは、誰にも絶対に譲りません!!」


 ウィンリーは元来、自分の気持ちを素直に出すのが苦手だ。


 子供の時も兄弟に自分が欲しかった服や好物を譲って来た。


 それは仕事でもそうで、みんなに押し付けられた仕事や、みんながやりたがらない仕事を流されるがままにやっていた。


 仕事を押し付けても拒否せずに勝手にやってくれる。

 

 他のメイド達にとって、ウィンリーはとても便利な存在だったろう。


「「っ!」」


 しかし、今日初めて、ウィンリーは自分の意志を示した。


 嫌だとハッキリ言って拒否した。


 ウィンリーの眼には、強い意志が宿っていた。


 自分達よりも格下だと思っていたウィンリーが、自分達の提案を拒否したのだ。


 メイドの一人がカッと頭に血が昇って、ウィンリーを打とうと手を振り下ろした。


「ひぅっ!?」


 ウィンリーは両腕で自分の顔を庇った。


 しかし、ウィンリーが傷付くことは無かった。雷を纏ったレイドがウィンリーとメイドの間に割って入り、受け止めたからだ。


「それは許さねえぞ」

「レイド、殿下……」


 急に現れた俺を見て、二人のメイドは驚き、動揺した。


 レイドはクズ王子などと呼ばれて、王宮からも半ば放任されていると言っても第四王子だ。


 拳を振り下ろし、その間に急に入って来たのが王子だったとしても、王子に拳を向けた事実は変わらない。下手をすれば不敬罪で首を刎ねられるし、奴隷堕ちの可能性もあった。


 玉の輿を狙って王宮のメイドで働き、順風満帆に暮らすことが目的だった二人にとって、そんな未来は考えたくも無かった。


 だから頭を回転させて完璧な言い訳を考えついた。


「レイド殿下! そいつは殿下の私物を盗んだんです!」

「そ、そうです! だから私達はそいつを捕まえて、叱っていたんです!」

「その女は貴方の専属には相応しく無い!」

「私達の方が相応しいんです!」


 メイド達からすれば、レイドは急にここに来て専属メイドが囲まれていて何も分からずに庇った様に見えた。


 しかし、レイドは全てを見ていた。


 メイド達が自分達の欲のためにウィンリーを責め、専属メイドの座を奪おうとしていたのを。


「はあ……」


 深い深い溜息を吐く。


 一瞬で厨房の気温が下がった。

 

 恥ずかしくなるほどの嘘を並べ、いまだに自分達が専属メイドの座を奪おうとしている。


 俺は別に聖者ではない。


 俺はこの世界に来て、レイドの人生を変えてやろうとは思っている。だがその為に全員に優しくするつもりは無いし、優しくなろうとも思っていない。


 例えばウィンリーが誰かに怪我を負わされたとしよう。それが誰であろうとも俺は許さない。血の底まで追って、地獄を見せてやる。


 それはコイツらもそうだ。


 俺のウィンリーを傷付けた。


 絶対に許しちゃいられない。


 この時だけは、俺はクズ王子に戻ろう。


「あ?」


 厨房にある食器を吹き飛ばす吹雪。

 見た者の恐怖を駆り立てる暗黒の風。

 俺の身体の周囲をばちばちッと音を鳴らす雷。


 俺に出来る、全身全霊の脅しだ。


 戦闘力を持たない二人のメイドは腰を抜かし恐怖で奥歯を鳴らしながら、股から温かい物を漏らした。


 ウィンリーは俺が懐に抱いているのでその影響は無い。むしろ、顔を胸の中に隠しているので何も見えず、ん?何かやってるんですか?って感じだ。


「ウィンリーは俺の専属で、将来の妻だ。お前ら如きが

分かったか? おばさん」


 二人は涙やら鼻水やら涎やらでベチャベチャになった汚ねえ面で、何度も頷いた。


 これだけ恐怖を叩き込めば、もうウィンリーにちょっかいはかけないだろう。


 俺は魔法を解除して、満面の笑顔を浮かべる。


「そうかそうか! 分かればいいんだよ! それじゃあ、俺はこれからウィンリーとイチャイチャするから、ここの片付けをよろしくな!」

「ひえっ、レイド様、一体ーーーーひょえぇ!!?」


 ウィンリーを胸から離す。この大惨事を見るとウィンリーがまた煩くなりそうなので、抱きかかえてさっさと厨房を後にした。






 後にこの二人のメイドは、あの恐ろしいレイドの専属をやっていられるウィンリーを尊敬し、崇拝する勢いで慕う様になるのだが、それはまだ少し先の話だ。


 これが最強と呼び声の高いウィンリーメイド部隊が始まるきっかけだった。

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