第1話 プロローグ
新連載です。これからよろしくお願いします。
普段はやらない乙女ゲーを手に取った。ゲームの名前は『平民の成り上がり〜傲慢な王子達の婚約者を寝取ってしまったんですが、俺また何かやっちゃいました?〜』だ。
ファンタジー系の剣と魔法の世界観だ。
主人公は平民だったが、ある日ひょんなことから出会った精霊の力を借りて、ほとんど貴族しか入学出来ない『クリミナル学園』に入学して、学園の王族や貴族達の婚約者を寝取る物語だ。
寝取りはあんまり好きなジャンルじゃ無いんだが、物語の設定や世界観が良く作り込まれていたので何度も攻略してしまった。
そして、七度目の攻略。今俺が相対しているのは、「ディバルト帝国 第四王子 レイド・ファル・オルティス」。作中随一のクズキャラだ。かなりの好色でメイドや街娘にも手を掛け、献身的な婚約者にも罵詈雑言を浴びせる程だ。最終的には婚約者を主人公に寝取られ、これまでの悪行を問い詰められて処刑されてしまう。
哀れなキャラだが、同情は出来ない。
本当にクズ野郎だからだ。
レイド専属のメイドのウィンリーは、レイドの子供を妊娠していたが認知されず、使用人を解任された上に娼館に売り飛ばされてしまう。
婚約者の“キャロル・フィル・マーレイド”も、レイドの事を愛し、愛されようとしたが、暴力を振るわれて罵声を浴びせられて、最終的には涙を流しながらリストカット自殺未遂をしてしまう。
その末にキャロルは主人公に自殺を止められ、恋をするのだ。
キャロルは優しい婚約者だ。ウィンリーもレイドの事を考えて食事を作ってくれていた。
それなのに、レイドは彼女達を裏切った。
ふざけるなってキャラだ。
恵まれていたのに、それを見ようとしない。
俺ならキャロルもウィンリーも幸せに出来た。いや、してみせるさ。寝取らせなんかしない。
【では、貴方がどうするのか、見てみましょうか】
「は?」
突然、そんな文字が画面に現れ、強い眠気に襲われた。足元の感覚が無くなって、手や身体の力が抜けてまともに座っていられなくなった。
そして俺は意識を失った。
「は?」
鏡の向こう側にレイドがいた。
氷の様な薄い青色の髪、人を見下している様に冷徹な瞳、帝国王族の服を身に纏っている。
間違い無く、ディバルト帝国 第四王子 レイド・ファル・アナザーだった。
「な、何で……」
夢か? 夢なのか? 夢なら覚めてくれ! 頼むからぁああああああああ!!!
「…………」
頬を思いっきり引っ張ってみたが、ただ痛いだけだった。そもそも夢なら、自分の身体をここまで自由に動かせない。つまり、これは現実って事だ。
「マジかよぉ……!!」
頭を抱えて蹲った。
待て待て、何でこうなったんだっけ? よーく、思い出してみよう。
俺は確か急な眠気に襲われて寝てしまった。
その前は俺は何をしていた?
ゲームをしていて、画面に【では、貴方がどうするのか、見てみましょうか】と浮かんだ。
あの前俺は「俺がレイドならあんなに酷い事をしない」という意味の言葉を何度も言っていた。
きっとそれがきっかけだ。あの文字も、俺がそう言ったから浮かんだんだろう。
誰が?と聞かれれば、神様と答えるしかない。それ以外は考えられない。
しかし、それはまあいい。問題は俺がレイドとして転生した事だ。
頭を掻きながら「まずいぞ」と俺は呟く。
このまま俺がレイドを演じれば、俺は処刑される。
そんなのはごめんだ。絶対に嫌だ。
なら、どうする?
「……俺が、レイドの人生を変えてやる!」
俺は両頬を思いっきり引っ叩いて、ディバルト帝国 第四王子 レイド・ファル・オルティスとして生きる事を決めた。
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