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6・ ヲタサーの姫

 ヒュリック家お抱えの裁縫師は、本領に店を構えているそうです。仕事の都合もあるので、邸に来るまで一週間程かかるのだとか。

 私はその間に、ドレスの仕分けと手直しに取り掛かりました。

 どんなに頑張っても似合わない色や柄のものは惜しみなくジュール様の衣装の材料に。無駄な装飾を取り除いたりボタンを付け替えたりなどで着られるようになるものは自分で直します。

 いくら私が裁縫が得意だからと言って、本職の裁縫師のようには行きませんから、新しく作るものはデザイン画とリメイク用のドレス等をお渡しして作ってもらいます。

 ジュール様の古い衣装のお直しは、裁縫師さんのお気持ちを聞いてからにしようと思います。

 先祖代々テーラーを営まれている場合、客とはいえいきなり嫁いできただけの女が、自分達の作品をいじり倒すのは気分が悪いでしょう。何年か経って自分の過去作品を見返した時、たとえそれが拙かったとしても、見知らぬ人にダメ出しされると嫌な気分になったり落ち込んだりしますもんね。自分が手がけた同人誌(作品)は、どれもかわいいものです。

 お父様の持たせてくれたドレスも同じように作り手がいらっしゃいますが、嫁いでこの別邸に入った以上、もう手がけた方にお目にかかる事はないと思います。

 何より、自分の渾身の作品を、壊滅的に似合わない女に着られるよりは幾分かマシかと思うのです。

 私は自分のドレスから、容赦なく羽飾りやリボン、飾りボタン等を採取しながら、ジュール様が着飾った姿を思い浮かべました。もうそれだけでご飯三杯はイケちゃいます。まぁ、この国に米食文化なんてないんですけど。



 後日、本領のテーラーから裁縫師さんがやって来ました。

 私の依頼だということで婦人物を作るのだと勘違いされたようで、訪ねてこられたのは女性の裁縫師さんでした。

 お名前はキャシーさんとおっしゃいます。

「ええ? ……それじゃ、お作りになるのはジュール様のものなのですか?」

「そうなのです。衣装室を確認しますと、旦那様には少し合わない物が多くて。もし、お気を悪くされないのなら、私のデザイン画を基に作っていただけたらと。あとは、お直しを」

 そう言って私は、あらかじめ用意してあったデザイン画をキャシーさんに手渡しました。

 彼女はパラパラとそれを捲って、真剣に詳細を確認しています。

「奥様……これは素晴らしいデザインですけれど、これだけの材料を揃えようとすると、半年かあるいはそれ以上お待ちいただく事になると思います」

「ああ、それは大丈夫です。布地類はこちらに置いたドレスから、ボタンやパーツ類はこちらから、多少足りないものは、テーラーの在庫の中から間に合わせていただけたら」

 キャシーさんの目には、お直し用のドレスと映っていた事でしょう。

 彼女を迎え入れた居室の長椅子の上には、今朝セバスさんと侍女に手伝ってもらって出したドレスが堆く積んであります。

 キャシーさんの来訪を待つ間にドレスから刈り取っておいたパーツ類は、ローテーブルに置かれた箱の中に詰まっています。


 キャシーさんは目を輝かせて、素材用のドレスやパーツ類を手に取って確かめています。

「まぁ、贅沢! 金糸刺繍のレースをこんなにたっぷりと……。でも、せっかくのドレスなのによろしいんですか? これを解いて材料にしてしまうのは何だかもったいない気もします」

 金糸刺繍のレースは、旦那様のシャツの襟や袖口に使ってもらう予定です。私だと華やかすぎて負けちゃうんですよね。

「あなたは美しいものを作り出す人でしょう? このドレス私に似合うと思いますか? 本人を前に面と向かっては言えないでしょうから、お答えは聞きませんけれど。似合わない私が着るよりも、旦那様のものとして生まれ変わった方が、衣装室で眠らせるよりも数倍有意義です」

「奥様……」

 あ、この方もセバスさんと同じ顔をしましたね。私を見る目が少し寂しげです。

 思わずチベット砂ギツネ顔になりかけましたが、ここは敢えて気にしない事にします。


「それから、旦那様の古いものもお直しをしたいのですけれど、新しく作るものもありますし、一気にお願いしてもご迷惑かと思って。もし差し支えなければ、私も手習いに縫い物を嗜みますので、手を入れさせていただくことは可能ですか? 構造の複雑なものや、難しい素材のものはもちろんあなたのお店にお願いしたいのですけれど。もし気を悪くされないのでしたら、古いボタンの付け替えや、余ったシルエットを多少詰めたり、変色した部分の取り替えであったりと、簡単に出来る部分だけ手を入れさせてもらえたらと」

 そうお願いすると、キャシーさんはこちらにズイ、と詰め寄って、感極まったように私の両手を取り、無言でうんうんと頷きました。

 あ、なんかこの感覚知ってる。自分と同じ匂いがする。多分この方私と同類だわ。

「分かりました、ええ、分かりました! 奥様のお気持ちはよく分かりました! 旦那様を着飾るのは無上の喜びですものね。まさか旦那様のお衣装を私が手がける事が出来るとは思いませんでしたが、この不肖キャシー・デルシュカ、奥様の理想の衣装をお作り致します! テーラー・デルシュカ一同、心を込めて作業させて頂きます!」

 いや、着飾るのは旦那様のボーイでラブのため……。いや、まぁもうそう言う事にしておきましょう。

 今日ここに新設サークル、ジュール様を愛でる会が誕生しました。

 もちろんヲタサーの姫は私の旦那様です。

 多分私よりドレスも似合うと思います、はい。

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