51・ 昼スズメ
旦那様と同じ寝台で眠るようになって一月が経ちました。
その間旦那様が、お酒に酔っただとか、その日は何故だか私が絶世の美女に見える呪いに掛かったりだとか、なんかもうとにかくムラムラするとか、ともかく何らかの理由で一線を越える事になっても大丈夫なようにと、可愛い下着作りに没頭しておりました。
やっぱりこう、スッケスケの下着とか恥ずかしすぎてどうしても身に着ける勇気がなかったので、可愛い路線を追求してみようと色々作ってみたのですけど、キス以上の事は何もなく、まだ清い関係を貫いております。だから下着の心配をする必要なんかなかったって言う……。
私に女性的な魅力が欠けているのは自覚しているので、旦那様がその気になれないのは仕方がありません。
が! それはそれで寂しい気もしますよ。旦那様がおっしゃった、すごく愛しいって言葉には、別の意味があるのでしょうか? ああ、考えすぎて頭がグルグルする。
まぁ、旦那様は優しい方なので、本当に私が男装するのを待ってくださっているのかもしれませんけど。夜会の帰りの会話を思い返してみると、BL愛好家である私を特殊な性癖っておっしゃってましたしね……。
もー……どっちが正解なのか分からない! 経験値不足で最適解が導き出せない!
ええい、ままよ! 思い悩むのは私の性分ではありません。当たって砕けろ! 砕けたとしても旦那様のファンとして今までと同じように推して行けばそれでいいのです! 結婚どころか恋愛ですら諦めていたのに、ジュール様のように完璧な人と夫婦になれただけでも幸運だと思わなきゃダメですよね。
という訳で、私は腹を括りました。BLシュチュで旦那様にアピール作戦を決行したいと思います!!
昨日キャシーさんが年内最後の納品に訪れていたので、旦那様の冬物と一緒に従僕用の衣装一式を置いて帰ったのです。
お見せするのは旦那様だけという事もあって今回カツラは頼んでいなかったのですが、そのおかげでギリギリ間に合ったのだとか。
キャシーさんが納品の時に「やっぱり婦人物よりも紳士物の方が必要でしたか?」とか言ってニヤニヤしてましたけど、どういう意味でしょうか。解せぬ……。
リンゴの収穫期も終わり、領内は降雪で真っ白です。そんな訳で、ここ数日旦那様は邸から出ておられません。
まさに、今日は絶好のコスプレ日和! ヲタ活ミラクルパワーメイクアップ!
て、若干ノリノリでコスプレに取り掛かっておりましたら、新しい衣装に着替えて髪を括ったところで寝室側の扉を叩く音が聞こえて来ました。
廊下側ではないので、もちろん扉の先にいるのはジュール様です。
いやいやいや、タイミングぅ! 今更手間取るドレスに着替えている余裕はないし、メイクはいつものままだし!
一瞬迷いましたが、ここ一月ですっぴんはガッツリ見られているので、諦めてドアを開けました。
「どうなさいました?」
ドアを開けて長身の旦那様を見上げますと、綺麗なアイスブルーの瞳が大きく見開かれました。
ん? やっぱり詐欺メイクじゃないとこの姿はおかしいですか?
「いや、休憩時間より早く手が空いたからあなたと一緒に過ごそうと思って来てみたんだが……これは何と言うか……」
そこまでで言葉を濁した旦那様は、口元に手を当ててから俯いて肩を震わせました。
いや、そんなに笑わなくたって!!
心情が顔に出ていたのでしょう、そんな私を見てジュール様は「すまない」と耳元でおっしゃったのと同時に抱きしめられました。
ちょ、不意打ちは反則ですよ!!! あああ、胸がバクバクいってるー。
「あなたは本当に仕掛け絵本のような人だね」
ん? 元通りに戻すのが若干面倒くさいって感じでしょうか?
首を傾げる私に「何が飛び出るか予測がつかないって事だよ」と、笑われました。
なるほど……まぁ、こちらにはコスプレ文化なんてありませんものね。
ともかく旦那様は今時間が空いてるって事ですね。
では早速BLシュチュごっこで遊びましょう!
「旦那様……お願いがあるんです」
「お願い? 何かな?」
「寝台に横になっていただけませんか」
私のお願いを聞いて、旦那様は今までに見たことがないくらい良い顔でニッコリ笑われました。
おや? 旦那様、何か企んでますか?
素直に寝台の上に寝そべった旦那様を、閉めた扉の前から俯瞰して眺めますが、どうもBL味が足りませんね。
私は寝台まで歩いて行き、今日は自邸にいるためにシャツ一枚にウエストコートというラフな格好だった旦那様のシャツの胸元をはだけさせるように勝手にボタンを外しました。
うん、やはり胸元ははだけていた方がBL味が増して良いですね!
あとはー、髪かな。長い髪を緩く括っているリボンに手を伸ばした所で、それをグッと引かれたと思ったら、あっと言う間に旦那様の腕の中でした。
「あなたは随分大胆なんだね、フロリア……」
ああああああ、BLごっこに集中しすぎて旦那様に何も説明してなかったー!!!
「あなたにそんな事をされたら、私の我慢も限界だよ?」
耳元で囁かないでぇえええええ!
昼……チュン。




