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5・ 推しに貢ぐのは貴腐人の嗜み

 とは言え、やはり勝手に衣装を魔改造してしまうのはルール違反でしょう。

 物には持ち主の思い入れがありますよね。

 どんなに色あせていても、もう二度とプレイしなくなった乙女ゲーのセーブデータが入ったソフトを処分できないのと一緒です。

 と言う事で、私は翌日セバスさんにお願いする事にしました。

「はぁ……旦那様の服のサイズ、でございますか」

「ええ……結婚式の時の衣装が、少し合って居なかったように思いましたので。差し支え無ければ私に数着作らせていただけないかと。持参金の使い道はお義父様がお決めになられるのでしょうし、比較的衣類は後回しにされがちでしょう? もし旦那様にお許しいただけるのでしたら、古いもののお直しもさせていただけたらと思うのです。正直なところ、こちらにはお友達もいませんし、日中時間を持て余してしまって」

 お父様がもたせてくれた持参金は義父であるヒュリック伯爵が管理する事になります。現当主ですから。その使途は家によって様々ですが、邸の修繕であったり、同時期に婚礼予定の姉妹がいる場合、そちらの準備に流用されたりします。この世界の婚礼は、基本的に女性の方が圧倒的に金銭的負担が大きいのです。

 経済的に困窮している家に纏まった資金が入れば、どうしても日頃は手の出せない事につかうのは仕方のないことですし。

 まぁ、台所事情は覗けないので、何に使われたのか、使われようとしているのかまでは私にはわかりません。

「わかりました……一度旦那様に確認してみます」

「頼みました」

 

 部屋を出て行くセバスさんの後ろ姿を見送って、私は早速作業に取り掛かりました。

 まず、自分の衣装室に行き、無駄に豪華なドレスや小物類を確認します。

 ドレスのスカート部分はドレープを作るために生地をたっぷりと使っていますから、そこから紳士物に必要な分量はまかなえるでしょう。

 婦人物なので紳士物には向かないパーツもありますが、それは街に出かけて買い足す事にして、イメージをふくらませます。

 想像力をフル回転させて、私は詳細なデザイン画を何枚も書き上げました。

 懐かしい感覚です。キャラ原案を作っているようで、楽しかった! ヲタ活万歳。



 セバスさんに旦那様の服の事をお願いしたその日の午後、部屋にジュール様がいらっしゃいました。

 二日ぶりに見たジュール様はやはり尊みが深いですね。でも、何だか不機嫌なお顔をしていらっしゃいます。それもまた良き。

「あなたはどういうつもりだフロリア。私の心は望まないと言ったくせに、金で私の心まで買おうというのか!」

 なるほどそう来ましたか。

 お金で心も買えますよ? そんなの今更じゃないですか? 状況によれば命も買えるかもしれませんね。でも、そんな事私は望んでませんけどね。


「高位貴族家の方らしいお言葉ですね、ジュール様」

「なんだと!」

「金で買われた夫だと先におっしゃったのはジュール様の方ですよ? 成金と蔑まれた男爵家には、伯爵家とは違う矜持があるのです。家格も歴史もない商人上がりの男爵家が唯一張れる虚勢はただ一つです。フェンネルト家の娘が嫁した相手が、みすぼらしい姿では困ります。私たちの婚姻は、正式に成立しました。ヒュリック家がどんなに不本意でも、私が表に出せない妻でも、夫婦となった事実は消せないのです。お心は求めません。けれど、金で買われたとおっしゃるなら、フェンネルト家の体面を守る事にもご協力下さいませ」

「くっ」

 まさか私にそこまで言われるとは思ってなかったのでしょう、ジュール様は悔しげに言葉を詰まらせました。

 苦悩に満ちたその表情もまた、良き。

 まぁ、もっと別の言い方もあったのかもしれませんけどね。どうせ愛する事ができない妻なら、これくらい傲慢な方がお心も痛まないでしょう。

「わかった、あなたの好きにしたらいい」

 そう言い残して、部屋を出て行かれました。

 

 ジュール様の残して行った香りをめいっぱい吸い込みながら、思わず私は頬を緩ませてサムズアップしてしまいました。

 私の推しは残り香までイケメンです。たまらん。

 合法的にスペック魔改造の許可が下りましたので、明日以降にでもヒュリック家お抱えの裁縫師を呼んでもらいましょう。

 セバスさんに頼んでお直ししても大丈夫なものも出してもらわないといけませんね。

 しばらく暇つぶしができそうです。

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