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43・ レアモン探してサーフィン

 私の実家への小旅行からひと月、新規事業は着々と進んでいるようです。

 ジュール様は今まで、支領の運営に新規事業の根回しに下準備にと、精力的に動き回っておられました。

 私も何か手伝いたかったのですが、すでに私の手を離れてしまった以上、さしてできる事はありませんでした。

 結局、また暇を持て余す暮らしに逆戻りでしたけど、私に対する旦那様の接し方が変わったせいでしょうか、セバスさん以外の使用人達との関係も、少し近くなった気がします。

 

 私の腐イラストを拾ってしまったリーナさんは、旦那様が上手く説明して下さったのか、「奥様の絵は、崇高な宗教画だったのですね」なんて頬を染めて恥ずかしそうに言われた時には、ちょっと危ない扉が開くかと思いました。若いメイドさんぐぅかわ!

 て言うか、崇高な宗教画ってジュール様……。私は異世界のルーベンスでしょうか? なんだかとても萌えてるんだ。パトラッシュ……。

 て、かわいいメイドさんに萌えている場合ではない。


 そんな事よりも今は、今日の夜会の方が大事なのです!

 一度はハイネン家の夜会のお誘いをお断りしたのですが、旦那様は無記名の招待状を手に入れて下さったのです。


「邸にこもってばかりでは、あなたも気が滅入るだろう? 私と一緒だとあなたに気を遣わせてしまうから、伝手を頼って招待状をもう一通手に入れたんだ。気が向いたら顔をだすと良い。それと……もしあなたが私の隣に立っても良いと思ったら、私を探して欲しい」

 て、麗しい顔でおっしゃったので、思わず無条件降伏してしまいそうになりました。

 ふぅ、危ない。油断大敵よフロリア。さすがはレアモンなだけはありますねジュール様。攻撃力が凄まじい。

 あの笑顔があれば、女性だけじゃなく男性も瞬殺ですよ、うんうん。


 そんなわけで、私は今キャシーさんが作ってくれた新しいコスプレ衣装を身にまとって、アンディの操る馬車の中に居ます。今夜のコスプレテーマはフロリアントワネット!

 萌えが足りなければ、ボーイズラブでも読めばいいじゃない? ほほほ。

 あ、今どこかで誰かがすごくドン引きした電波が届いた気がします。うん、たぶん気のせいじゃないなコレ。


 ハイネン家の敷地内まで乗り入れると、馬車に入った家紋でヒュリック家の人間だとバレてしまうので、前回同様すこし離れた場所に馬車を停めてもらいました。

 そして、これまた前回同様私はフード付きの外套を頭からすっぽりかぶっております。詐欺メイク中ですからね、アンディにも見せられません。季節も今は秋なので、防寒も兼ねています。

 前回の教訓を生かし、申し訳ないですがアンディにはここで待機していてもらいます。さすがに今回もまたトラブルに巻き込まれるのはもうこりごりです。あんなハッタリ何度も通用するはずがありませんしね。


 それではいよいよ夜会に潜入です。会場の入口で外套を脱ぎ、招待状と一緒に手渡します。ガレスタ家の夜会同様外套引き取り用のカードを受け取り、グローブの袖口に差し込みます。ドレスにはポケットなんてありませんからね。通常は一緒に来たエスコート相手に持っていてもらうものですが、私はおひとり様ですし、ちょっとしたテクニックなのです。

 さて、ゆっくりジュール様を探しますか。


 詐欺メイクにコスプレで完全武装しているとはいえ、元はモブなので、貴婦人然として堂々としているのは無理です。

 扇を使って顔を隠しながら、こそこそと人の波を避けて会場内をめぐります。

 今、私は社交界のサーフライダー。サンセットビーチでビッグウェーブに乗ってみせます! って、何言ってんでしょうね。意味が通じません。

 夜の帳の降りた会場で、ショタ顔の美青年を探し当て、うちの旦那様とのカップリングを成立させてみせますよ(意訳)。エッヘン。


 そんな妄想をしておりましたら、目の前に立ちふさがる男性が。

 この方は一体誰でしょう? 私は全く存じ上げませんが。

「どなたかと待ち合わせでも? 見たところ今日はお一人でいらっしゃるようですが」

 そう言って目の前の紳士はニッコリと笑みを浮かべられました。まぁ、それなりに見目の良い紳士ですよ、ええ。

 でも、もう私旦那様を見慣れてしまって、このレベルの方を見ても緊張すらしません。

 うう……なんて贅沢な! 自分は思いっきりモブだってのに……。


「今日は知人に会えれば、と思ってまいりましたの。ですから、先を急いでおります」

 当たり障りのないお約束の台詞でお断りをしたって言うのに!

「宜しかったら一緒に探しましょうか……マダム? お名前を頂戴できますか」

 まてまてまてまて、あなたの耳は飾りですか。私は旦那様を探すので忙しいんだってば。

 ショタ顔美青年になって出直してきて下さい。

「今日は忍んでまいりましたの。ですから、わたくしの名はお好きにご想像下さいませ」


「確かに、素晴らしい装いをしていらっしゃいます。きっと、さぞ尊いご身分なのでしょうね」

 うん、良い生地は使ってますよ。中身は男爵家出身のモブですが、何か?

 詐欺メイクと詐欺ぱい外したところをお見せしましょうか? 飛ぶぞ?

「本当に、先を急ぎますので、ごめん下さいませ」

 やや早口でまくしたて、返答も聞かずそそくさとその場を逃げ出しました。

 ああ……初っ端から疲れた。貴族階級の押しの強さよ。

 

 早く【きかざった じゅーる】を見つけ出さなくては! エンカウントはまだですか?

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