39・ 眠れる寝台の美男
客間に戻ると、すでにジュール様は入浴を終えておられました。
濡髪姿にネグリジェスタイルが素晴らしく麗しいです。こちらでは男性も女性も寝衣はシャツワンピースのような感じです。
まだ水分の残る髪を布で拭うそのお姿は想像していたよりもワイルドでした。ガッショガッショ拭いてらっしゃる!
あああ、せっかくの綺麗なハニーブロンドが傷んじゃうぅぅぅーーー!
内心では全力で阻止したいところですが、ここはぐっと我慢です。
「お帰り、出ていたの?」
見た目に似つかわしくない豪快な動きでまだ髪を拭いながら、旦那様はそうお訊ねになりました。
「ええ……化粧室を使いたかったものですから」
そう答えると「ああ、それは申し訳ない事をしたね」とおっしゃいました。
化粧室 ――― つまり、トイレに行きたかったのだとやんわりと伝えた事になります。
こちらの世界でもトイレは浴室の近くに配置されている事がほとんどです。基本的には隔てる壁さえもないので、誰かが浴室を使っていれば丸見えになる事を覚悟して使わなくてはならない不便なものです。
しかも、普段着用の質素なものとはいえ私の着ているドレスも床につくかつかないかという長いスカートですので、用を足すのは結構大変なのです。
貴族階級の女性がトイレに行くのに時間がかかるのは当たり前の事。ですから長い間部屋を出ていた言い訳にはもってこいという訳です。
「いえ、お気になさらないで下さい」
私はそう返しながらも、今は全く別の事に気を取られております。
どうやって寝台を勧めるか問題勃発。ジュール様お一人でどうぞ、なんて言ったところで頷いてくれそうな気がしません。最初の頃こそツンでしたけど、元来旦那様は優しい人なので、それなら自分がソファで寝ると言い出しかねません。
「私も湯あみして来ます。ジュール様は長旅でお疲れでしょうし、私の事は気にせず先にお休みになって下さいね」
そうお伝えすると、旦那様は困惑したような表情をなさいました。
うん、わかりますよー。私たちは仮初めの関係ですからね、同じ寝台を共有できませんしね。
「フロリア……私は今日ソファで寝るから、あなたが寝台を使ってくれ」
やっぱりそうなっちゃいますよね。
「明日も馬車に揺られる事になりますし、旦那様は寝台で寝て下さい。私も入浴後は寝室に参りますから」
「えっ!」
驚いてる驚いてる! ふふふ……びっくり顔もまたよき。
「寝台は広いのですから、二人一緒でも構いませんでしょう? 寝台を共有したからと言って何も困る事はないと思います……夫婦なのですし。ご心配なさらなくても、寝込みを襲ったりは致しませんから。私が寝台の端を使わせて頂くのがご不快でしたら、婚前に使っていた部屋で寝るようにします」
私がここまで言ってしまえば、優しい旦那様は嫌だとは言えないでしょう。
だって、新婚であるにも関わらず別々の部屋で寝るなんて言い出せば、私の家族に不仲ですって宣言するようなものですから。
「いや……襲われる心配をするのはあなたの方だと思うが。あなたが良いと言うならそうしよう。不快などとはかけらも思わなかったよ、フロリア」
そう言ってジュール様は優しく笑って下さいました。このイケメンの破壊力よ。
……キュン。
あっぶな、思わず邪な腐オーラを垂れ流してしまう所でした。気を付けないといけません。
「はい、では化粧室に行きますので。ゆっくりお休み下さいね」
「ありがとう」
作戦だーいせーいこーう!!
あとで侍女に寝具を出してもらう事にしましょう。
旦那様、ゆっくり旅の疲れを癒して下さいね。
寝込みは襲いませんが、こっそり寝顔を眺めるのは許していただきましょう。
ふふふー、役得役得。




