32・ 全ては煩悩のために
領地の経営とか改革って転生モノのお約束ですよね。
こういう場合、前世でのチート知識を駆使して大成功っていうのが鉄板なのでしょうけど、はっきり言ってしがない事務員だった私にそんな知識はありません。
前世母子家庭だったくせに、母が苦労して学費を捻出してくれた大学も、卒業するのに危なくない程度の成績しか修めていませんでした。
家計の状況は分かってたので留年しない事を念頭に置いてキャンパスライフを過ごしていましたが、はっきり言ってあの頃に勉強したことは、ほとんど覚えておりませぬ。
真面目に勉強していれば良かったなって思うのは、こういう時でしょうか。それ以前に前世で気付いとけって話ですね、すみません。
まぁ、それでも単位を取るために必要だった政経の講義で担当助教が話していたことはうっすらとは覚えていますよ。あれ? 大学の講義だったかなぁ……もしかしたらテレビだったかもしれない。
何にせよ、商いとしてわかりやすいのは、恒久的かつ持続可能なものを売る事。希少価値の高いもの、もしくは付加価値を添付できるものを売る事。権利や技術を売る事、なんてことを言っていた気がする。
使えばなくなってしまい、生活するには絶対に必要なものが一番目に該当します。
前世で分かりやすく言うならば、電気、水道、ガス等の生活インフラ、食品、日用品などの消耗品でしょうか。
宝飾、美術、嗜好品、高級品等は二番目に。同人作家憧れの印税や版権、特許、医療等を筆頭にした特殊技能、オーナー業なんかが三番目に該当するのでしょう。
まぁ、経済の仕組みはそんなに単純ではないので、私でも理解できるこの辺の事しか覚えてないってだけですけど。
昨日旦那様から聞いた話では、ヒュリック領の主な産物はリンゴと麦です。それらを売って儲けています。THE農業万歳!
ですが、これは危ないなー。農産物だけだと、不作になった場合はリカバリーが難しい。
きちんとした収穫量があれば、安定した需要と収益があるとは言え、外的要因を受けやすいのが難点。
だって、ヒュリック領の収穫量が安定しているときは、おおむね近隣の領も同じでしょう。不作の場合も同じ。農産物は天候に左右されますからね。
付加価値をつけるなんて事は期待できない。前世ではブランド米なんてのもありましたが、ブランド麦なんてすぐにどうこうできないしなぁー。
次に考えるのは宝飾関連。ヒュリック領には鉱山なんかはありませんし、山もないので陶器に適した粘土なんかも産出されないでしょう。剣や鎧等の発達した鍛冶文化を持つ領は、もうすでに有名どころがあります。そこに割って入るのは、どこかから技術者をヘッドハンティングしてこなくては成立しません。
そもそも、移動手段の発達していない今世で、原材料を別の土地から仕入れて加工するとなると、輸送コストの関係上ものすごく付加価値のつけられる物しか商いとして成功しない。一定の儲けがないと成立しませんから。
版権や権利収入的なのは、文化成熟度が低そうで無理かなぁ……。旅の楽師が王宮に招かれて、王族のサロンでラブロマンスの歌曲を披露したりするじゃないですか。そうしたら、上位貴族の女性の間で流行して、改変したものが王都や大都市の劇場で演じられたりするようになる事があるので、版権とか知的財産とかには疎いわけです。
そもそも、そんな、すぐ売れるような版権なんてないし。試しに私の青色本売ってみる? ……うん、売れば最後実家にも帰れなくなるね!
ちなみに、今世でのBLに該当する言葉が青色愛と申しまして、これは騎士の盾の色から来ております。長期間戦場に出て行く騎士の間で男色が始まったのだとか。まぁ、納得な理由ですよね。日本の戦国時代にも似たような文化ありましたもんね。
そして、GLに該当する言葉が白色愛となります。女性ばかりの修道院で始まったのだとか。ちなみに白は修道服の色から来ております。
男女どっちもバッチコーイな方々……前世でいうとバイセクシャルの方々は博愛主義となっております。
いずれにせよ、原料の輸送コストがかからない、りんごか麦の加工品を二次産業にするのが無難でしょうかねぇ。
何か良い案はないかなー……はっ! あれならヒュリック領の村でも少量作っている人がいるかもしれない……。うまく行けば技術と道具を流用できるかもしれない。
いざという時はお父様のツテで技術者をヘッドハンティングするもアリかな?
私はヒュリック領財務健全化の為に、プレゼン資料を作る事にしました。
アリーナ席で旦那様の麗しい姿を鑑賞できるのも、ヒュリック家が盤石であってこそ!
ジュールさまぁ~、私、チートもコネも実家の財力も、全て使って未来の恋を応援して見せますからね!
……それはお前が鑑賞したいだけだろう、ですって? 大正解!!!




