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30・ 面接官は旦那様

 腐イラストを持って部屋にいらしたその後、旦那様は何故かいつも通り私の部屋でアフタヌーンティをしてから満足そうに帰って行かれました。

 あなたは絵を描くのも趣味なんだな、とかおっしゃいましたけど、趣味を通り越して日々の活力そのもの! ノー腐イラストノーライフ!

 ……なんですけど、しばらくは自重しようと思います。

 あれもこれも全て自分の責任ですけど、またやらかしたらもう後がありません。

 今回はどうにか誤魔化せましたが、万一違うパターンのものが見つかってしまえば実家に強制送還間違いなし。

 

 そんな訳で、またもや暇を持て余す生活に逆戻りです。

 と言うか、邸の主人であるジュール様の妻がこんな生活で良いのかしら。

 ヒュリック家にとって不本意な婚姻であった事はわかっていましたから、夫人然として出しゃばるのもどうかと思っていたのですけど、さすがに遊んで暮らしすぎだと思うのです。

 ここでの生活にも慣れて来ましたし、私も何か旦那様の仕事を手伝いたいですね。

 前世の記憶もありますし、私は貴族と言っても下位貴族ですから働くことに抵抗はないのですけど、この邸で雇っている使用人達の仕事を手伝う事はできません。

 それは彼らの職域を侵す事になってしまうので。使用人の仕事を奪ってはいけないのです。

 旦那様がお部屋にいらしたら、仕事の事を訊ねてみようと思います。


 

 アフタヌーンティの時間まで、キャシーさんにお願いする新しいコスプレ衣装のデザインを描いたり、それに指示を細かく記入したりして時間を潰しました。

 いつも通りお茶の用意を手にしたセバスさんを連れて部屋を訪れた旦那様をお迎えします。

 向かい合ってお茶を楽しみながら、勇気を出して口を開きました。

「あの……私もここでの生活に慣れて来ましたし、旦那様のお仕事を何かお手伝いさせていただけませんか? 領地の管理は邸の主人がすべき事だとは承知していますけれど、正直ただ遊んでいるだけなのは落ち着かなくて」

 そう伝えると、旦那様は面食らったように驚いた表情を浮かべました。


「あの、どうかなさいました? お気を悪くされたのでしたらこの話は忘れて下さい」

 本来領地に関わる事は男性の仕事です。妻の役割は邸の中での仕事に限定されます。

 ですがこの別邸はおそらく長年セバスさんが取り仕切っていると思います。

 立場はジュール様の妻である私の方が上であっても、彼の仕事に口出しをするのはあまり気乗りしません。

 誰だって、よそからやって来た事情も分からない人間にあれこれ指図されるのは良い気がしないでしょう 。

 二代目の息子の結婚相手である女性が会社にやってきて、あの従業員の態度が悪いだの、あの備品は違うものに変えた方が良いだの、自分も経験がありますとか言いながら、全く違うやり方で仕事を手伝われても、はっきり言って迷惑な事この上ない。

 邸の中の事に口出しをするのは、もっと彼らの信用を得られてから。

 今はお忙しくてもこうして私との時間を持って下さる旦那様の負担が少しでも軽くなるように、何でも良いから手伝いたい。……て、綺麗な事を言いすぎました! 暇なんです、切実に! 仕事を下さい……。


「いや、ちょっと驚いただけだよ。私は邸の女主人と言うのは自分の母しか知らないのだけど……母はそういう事に興味を示さない人だから。本邸の事ですら、家令と兄上に任せきりでね」

 ああー、なるほど。私もお義母さまの事については少しだけ耳にしています。

 侯爵家ご出身のジュール様の母システィーナ様はいわゆる箱入り娘で、若かりし頃は社交界を轟かせる程の美貌でいらっしゃったとか。

 結婚式の日に初めてお会いしたシスティーナ様は、実年齢を考えれば信じられないくらい若くてお美しかったので、自分磨きに手を抜かないお方なのだと思います。前世風に言うなら美魔女ってやつです。

 まぁ、その分手間暇もお金も掛かりますから、邸の管理なんてやっていられないのでしょうね。

 そしてその夫であるお義父様も若かりし頃は美形であった事がうかがえる容姿をしていらしたので、美男美女同士のご結婚だったのですね。お二人の息子であるジュール様が美形なのも納得できます。

 

「邸の事はセバスティアンの領分ですから、それについてはあまり口出ししたくはないんです。使用人との信頼関係もないのにあれこれ口を挟んで彼らの労働意欲を削ぐような真似は好みません。旦那様のお仕事で、私がお手伝いして差し支えのないものがあれば、と思って……」

「何と言うか、あなたはやはり大商家の人なのだな……。人を使う立場でありながら使用人の心理を良く心得ている」

 いえ、前世しがない会社員だっただけです、はい。社畜の気持ちは痛いほどよくわかります。

「いいえ……それは私の事を持ち上げすぎです旦那様」

「いや、本当にそう思う。わかった、すぐには思い浮かばないけれど、何かあればあなたにお願いしよう」

「はい、何でもおっしゃって下さい」

 そう言って私たちは穏やかに笑いあいました。

 本当に、切実に一次面接合格の連絡をお待ちしております。お祈りメールはノーセンキウ、でございます。

 お仕事くださーい!

ゆるゆるなのにもう30話……。読んでいただいてありがとうございます。感謝!

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