3・ ヒュリック家の執事たるもの客の要望に応えられずにどうします。あくまで、ヲタ活ですから。
さて、ここで問題発生です。
私は朝起きて、着替えのために衣装室へと足を踏み入れました。
ヒュリック家に嫁ぐために、お父様は持参金とは別に、私が必要なものを全て揃えてもたせてくれました。
それらは昨日私がこの邸に入る前に、すでに運び入れられて使用人の手によって収納されていたわけですが、そこに収められた衣類を見てため息をつきました。
どれもこれも無駄に豪華ッ!
お父様、あなたの目は大丈夫ですかと小一時間問い詰めてやりたい。
娘が恥ずかしくないように、という父なりの愛情であることは私にもわかります。
ただですね、似合わない服ほど無駄なものはないんですよ。別のベクトルで恥ずかしい事がわからないんですね、父親って……。
うちはお母様が亡くなってしまっているから、お父様だけじゃ加減がわかんなかったんだとは思うけど。
安かったから取り敢えず買っちゃえって買った服ほど着ずに何年もタンスの肥やしになりましたなんてパターンと一緒で、こんな派手なドレス日常使いに……いいえ、ヲタ活に不便ではないですか!
派手すぎてモブとして紛れる事ができません。困りました。
というわけで、私は昨日の執事さんを呼び出しました。お名前は昨日伺いました。
セバスティアンさん、とおっしゃるのだそうで。んー、……絶妙に惜しい。
懐からカトラリーを取り出して飛び道具として使ったり、手袋を外したら爪が黒かったりは……しませんね、はい。
名前は若干かぶってますが、見た目は普通のロマンスグレーのおじさまですしね。
「奥様お呼びと伺いました」
「ええ。あなたに用意していただきたいものがあるのです。この家の侍女が着ているお仕着せを一着用意してくださる?」
木を隠すなら森の中。ダイヤモンドを隠すなら水の中という訳で、モブを隠すならやはり人数の多い侍女の中だと思うのです。
髪をまとめて前髪を厚めに下し、お仕着せを着たらジュール様に気づかれない自信があります。
「は……それは、ご生家から侍女をお呼び寄せになられるということでしょうか? 私達のお世話に失礼がございましたか?」
セバスさんは困惑気味です。名前は長いし舌を噛みそうなので省略。
それもそうか。主人の気に沿わない相手とは言え、私は大事な金づるです。私がこの家の夫人として生活する分には、定期的にお父様からの金銭的援助が得られるんですから。
使用人が気に入りませんなどと私が言い出したら、彼らの入れ替えが起こってもおかしくはありません。
「いえ、そういう事ではないのです。私は旦那様にどのように思われているのか、自分でよく存じております。街に買い物に出たりする際に、着飾って馬車に乗って行けば目立ちますでしょう? ここに商人を呼びつけても、そこから噂がひろまりますから。私は美人ではないですし、目立つ容姿でもございませんから、出歩くならばお仕着せをと思いまして。……それとも、邸から出る事も控えた方がよろしいのかしら」
そう言うと、セバスさんは明らかに哀れんだような表情を浮かべました。
あ、なんかこの方勘違いしましたね。
「なんと……ご自分でその様にお思いになられる程お気になさっておいでなのですね」
ほろり、とうっすら滲んだ涙を拭うような仕草をしたセバスさん。
ちょっと待って、なんか今健気不遇キャラに格上げされたよね?
いやいやいや、お仕着せが欲しくて嘘も方便しただけで、実際には街に行くことよりも邸内でのヲタ活がメインなんですよ、なんて言えるわけがない。
「お任せ下さい奥様。不詳このセバスティアン、お望み通りお仕着せをご用意いたします」
何故か無駄に使命感を燃やしたセバスさんは、恭しく一礼して部屋を出て行きました。
まぁ良いか、お仕着せが手に入るなら。誰も傷つかないし、めくるめくジュール様の生活もそっと見守る事ができるし、結果良ければ全てよしです。
え?それは単なる覗きで犯罪じゃないかですって?
違いますよ?
敢えて言おう、私はモブであると。
あくまでヲタ活ですから。いやホント、ここ大事。テストに出ます。