27・ エブリディ推しラブ
足がふらついてるわ! そんなんじゃダメよ! もっと優雅にウォーキングして!
ハイッ! コーチ私頑張ります! TGCのランウェイが私を待ってる!
……うん。失笑を買った電波はこの薄型4Kボディで受信しましたよ。5Gかってくらい、ええ。
モデルごっこ辛み……。
と言うわけで私は今、暇に飽かせてハイヒール特訓中なのです。
清く正しく美しい(?)ヲタ活のためには、準備を怠ってはなりません。
と言いつつ、ふくらはぎがプルップルします。私は生まれたての小鹿か。
ハイヒールって見た目にはすごく綺麗で履きたくなるけど、慣れてないと拷問具だよねぇ。
つま先重心になりがちで踵が浮いてパカパカしちゃうと美しさも何もない残念な見た目になっちゃうし。前世でも上手に履けた記憶がありません。
まぁ、ごく普通の会社員でしたからハイヒールなんてほとんど無縁でした。就活中からずっとローヒールパンプス一択でしたし、私生活でもヲタ活に不向きなヒールなんて履いてられるかって事で、スニーカー、ブーツ、ラウンドトゥのぺったんこ靴を愛用しておりました。
なので、ハイヒール筋を鍛えなくては満足に歩けもしないのは目に見えております。
お嫁入りの時に何足か持ってきたハイヒールがあるので、自室ではそれを履いて生活しております。
うう……早くも心が折れそう。脱ぎたい。脱いだら脱いだで浮腫むんだよねぇー。
ダメだ、今日は心が折れました。この世界でもやっぱりぺったんこ靴が好きです。
衣装室で靴を交換して部屋に戻って来ると、部屋の扉をノックする音が聞こえます。
「どなた?」
「私だフロリア」
あら旦那様。昨日に引き続きどうされたのかしら。
部屋の扉を開けると、ジュール様の後ろにはお茶の用意の載ったトレイを手にしたセバスさんが立っていました。
「一緒に茶でもどうかと思ってね」
「まぁ……それはお気遣いありがとうございます。私も少し休憩しようと思っておりました。どうぞお入りになって下さい」
もう脚ぱんっぱん。ナイスタイミングです旦那様。
推しとアフタヌーンティ……なんて贅沢なのでしょう。今日の私の部屋はプリンスカフェでしょうか? ご褒美ドリンクとチェキは有料ですか? むしろ有料でもいいから撮影したい!
一応、前世風で言うと写したら魂抜かれるとか信じられてた頃の感じのカメラならこちらの世界にもあるんですが、同じように数十分棒立ちが基本なので、まだまだ手軽なものではないのです。
昨日と同じように、応接セットに向かい合わせで座ります。
セバスさんはティーセットとお菓子の載ったお皿を並べ、ポットからお茶を注いで部屋を出て行きました。
私的には推しと二人きりでお茶なんて夢のようなひと時ですが、欲を言えば隣にもう一人男性が座っていてほしいところ。
そして何を話して良いのか全く分からない! 気まずい……。
二人とも何を切り出せば良いのかわからず、お通夜状態の沈黙が流れます。
手持無沙汰に揃ってお茶を口に含んだ直後、ジュール様がようやく口を開かれました。
「フロリアは普段、どんな事をして過ごしているんだ? ああ……その、趣味と言うか」
趣味はボーイズラブを追求する事です! そんな事言えるかーッ!
仮に言えたとしても、この世界の人である旦那様にはボーイズラブとは何ぞやという定義から説明しなくちゃならない。
「……美しい者を愛でる事、ですかね」
「そうか、フロリアは美しい物が好きなのだな。確かにあなたの仕立ててくれた服はどれも素晴らしかった」
……このびみょーに伝わってない感。うん、まぁ、今に始まった事じゃない。
「気に入っていただけたなら良かったです」
「ああ……もっと早くに礼を言うべきだったのに、申し訳ない。良いものをたくさんありがとう」
しゅんと落ち込んだ感じがゴールデンレトリバーみたいで、ちょっとかわいいですね。
思わず笑ってしまいました。
「ふふっ……ジュール様は昨日から謝ってばかりですね。私の事でしたら本当に気になさらないで下さい」
そうお伝えすると、恥ずかしそうに苦笑されました。うわぁ、漫画みたい。薔薇背負ってる感がすごい。このシーン、同人誌だったら背景に薔薇を入れます、うん。
「もしあなたさえ良かったら、毎日こうして午後の休憩を一緒にどうかな? もちろん、お互い都合が合えばだが」
毎日プリンスカフェですか? アメイジング!!
もちろん二つ返事でオーケーです。 習慣化していれば、いずれ本命が現れたらご一緒できるかも知れないですしね。
「もちろん喜んで」
ニッコリ。ああ、想像したら顔が緩むー。
それを見た旦那様は、心底ほっとしたように息を吐かれました。
服の事が余程気がかりだったのですね。ほんっと私の推しはかわいいですね。
旦那様、早く運命の出会いがあるといいですね!




