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26・ ジュールをねらえ!

 昨日はスフォルが奇襲……ではなく邸を訪ねてきましたが、その後特に問題はなく、私はまた暇を持て余しております。

 とりあえず、イベント参加の抽選に受かれば違和感のないコスプレができるよう、また案を練っておかなくてはいけませんね。

 

 男装したからって旦那様の性癖に刺さるとは限らないのですが、万一と言うこともありますから次は女装して行くべきでしょう。

 だけど問題はやはりこの体型です。どんなに頑張ってメイクをしても、身長と肉付きでバレちゃいそうな気がするんですよね。

 下半身は嵩高いフリルなどをデザインに組み込んでウエストラインからバックスタイルにボリュームを持たせる事でカバーするとして。身長はハイヒールで多少誤魔化せるかな。

 あとはやはり上半身ですね。


 私は思わず、着ている服の首元をつまみだし、自分の胸元を覗き込みました。

 ふわぁ~お、プリンセスサイズ! ちっぱい万歳!

 女の魅力は胸の大きさじゃない! わかってます、ええ、わかってます。わかっちゃいるけど今は死活問題ならぬ完成度問題なのですよ。

 シリコンブラとかあれば良いのにこの世界にも。

 仕方がないのでコルセットに肩紐をつけて、胸元に詰め物をする方向でキャシーさんに制作を依頼しようかな……。

 いやでも同じサークル仲間とはいえさすがに怪しまれるでしょうか……。


 あとは、カツラが問題ですね。前回のモーツァルトヘアーはいけません。今度は人毛を指定して、前世風のサラサラヘアーにしてもらわなくては……。

 いやまて、いっそ形状記憶スタイルが主流でそちらの技術が発展しているなら、金髪形状記憶縦ロールくらい突き抜けてても面白いかもしれませんね。

 水に濡れてもサラサラに戻らないくらいの、もういっそそれで攻撃できんじゃね? くらいの感じの。

 うん、今度のデザインはそれで行きましょう。さすがに金髪縦ロール姿の汚超腐人なら、旦那様も私だと気が付かないでしょう。



 とまぁ、そんな感じで暇つぶしをしておりましたら、ちょうどアフタヌーンティの時間帯に、誰かが私の部屋にやってきました。

 セバスさんか侍女が気を遣ってお茶でも運んでくれたのかと思って「どなた?」と返事をしましたら、聞こえてきた声に心臓が口から飛び出しそうになりました。

「すまないフロリア、私だ。少し話せないか」

 結婚して一度も私の部屋を訪れた事がなかった旦那様です。私なにかやらかしたのかしら。あれもこれも思い当たる事が多すぎる。汗。

 とりあえず手元のスケッチブックを閉じ、書き物机にしまってから部屋の扉を開けました。


「お入りになって下さい」

「ああ、ゆっくりしていたなら済まない」

 そう言って心底申し訳ないという表情を浮かべていらっしゃいます。

「特にすることもございませんし、時間なら余るほどございますからお気遣いなく」

 そう返すと、また気まずそうにグッと息を呑まれました。

 あら……もしかして私間違えましたかね。


「ひとまずお掛けになって下さい」

 まぁ、気にはなるけど立ち話も何ですし。ゆっくり座ってお伺いしましょう。

 この感じだとやっぱりアレかなー? カムアウト的なやつかな。

 部屋に置かれた応接セットに腰を下ろしたジュール様を確認して、私もその正面の席に座りました。

「それで、お話とは?」

 そう問いかけると、ややバツの悪そうなお顔をなさってから、決意したように口を開かれます。

「今日はあなたに謝りたくて来たんだフロリア」

 なるほど。別に本命がいると言いたいのですね。大丈夫ですよー、バッチコイ!


「結婚式の日、私はあなたに最低な事ばかり言ってしまった。口にしてしまったものはなかった事にはできないし、謝ったからと言ってあなたの気が収まるわけではないのだろうが、酷い事を言ってすまなかった」

 おやぁ? そう来ましたか。いやまぁ、私は全然気にしてないんですけど、ジュール様からすればカムアウトの前に清算しておきたいって感じでしょうか。

 怒っていないので許す許さないもないですが、それが心残りなら謝罪をお受けします。

「私は気にしていませんから、頭をお上げになって下さい。むしろ、ジュール様の本音がわかって良かったと思っておりました」

「私の本音……?」

 ジュール様は困惑した表情を浮かべていらっしゃいます。

 まぁ、はっきり言わないと分かんないか。今更オブラートに包んでも仕方ないわよね。

「ええ、お心に想う方がいらっしゃるのでしょう?」

「は?!」

 思わず口をついて出たのでしょう。短くそうおっしゃったあと、驚愕の表情を浮かべたまま固まってしまわれました。

 

 あれ? 違うのですか?

「私には他に想う人などいないが……」

「そうなのですね……私勘違いをしてしまっていました。申し訳ありません」

「いや、あなたのせいではない。そんな風に思わせた私のせいなのだから」

 気にする必要なんてないのに、本当にジュール様はお優しいですね。曇らせたその表情もまたお美しいです。

「ともかく、私にできる範囲であなたの希望に添いたいと思っている」

 今は本命がいらっしゃらなくても、将来的には愛する方に出会うかもしれませんものね。

 何不自由ない生活が出来ていますし、ヲタ活も捗ってますし、何も不満はございませんよ?


「お心遣いありがとうございます。でも、特に不満はございませんから」

 そう言って笑って見せると、困ったような表情をなさいました。

「いや、でも……あなたも邸にいるだけでは退屈だろう。憂さ晴らしにどこかに出けるとか……私で良いのなら一緒に行くから、遠慮なく言ってくれて構わない」

 どうしちゃったのジュール様……何だか急に優しくて怖い。あれかなー、自分がゲイって事気にしてるのかな? そんな自分と結婚させちゃって悪い、みたいな?

 大丈夫ですよ! ゲイだって事知ってますから! この先本命が現れたら、旦那様の恋全力で応援しますからね!

「はい、何かあればお伝えしますね」

 そう伝えると、なんだか釈然としないと言った様子で部屋を出て行かれました。

 私がもっと怒ると思ってたのかしら? 私が旦那様に腹を立てるなんてありえませんから。良い所も悪い所も欠点も、全部含めて愛でる事が出来るのが推しというものです。

 

 これほど推せる相手にめぐりあえるとは思わなかった! 生まれ変わってよかった~尊み。

 ヲタ活は無心なのです。推しに力を出し切らない応援をする事こそを恐れなさい!


 というわけで、私はコートで黄色いボールを追いかけ……じゃなくて、これからも旦那様を全力で愛でたいと思います。

 推しのツアー(夜会)にはどこまでも付いていきます! Ah~熱い熱い情熱だけは~♪

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