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25・ 後悔先に立たず

 ジュールは玄関口まで義弟を見送ったあと、再びやり残した仕事を片付けるために私室へ引っ込んだ。

 しばらく領の整備に必要な予算の調整をする為に帳簿を睨んでいたものの、義弟と話した会話が頭の中で繰り返されて、ちっとも仕事にならない。

 開いた帳簿はそのままに、椅子に背を預けて天を仰ぐ。

 思えば結婚式の当日から、フロリアには酷い事ばかりしていた。

 政略結婚だとしても、彼女にも新しい生活に対する夢や希望もあっただろうに、先入観だけで決めつけて、本質を見ようとも歩み寄ろうともしなかった。

 愛さない、子供を作る気はないなどと、夢も希望も踏みにじるような言葉を投げつけた。

 今思い出してみても、己の行動のあまりのひどさに深いため息が漏れ出る。

 上を向いて目を瞑り、こみ上げるものを吐き出している最中だった。

 部屋の扉を叩く音がする。

「何だ」

「旦那様、お茶をお持ちしました」

 外側からセバスティアンの声が返る。

 もうそんな時間か、と机の上の置時計に目を向ければ、時刻はちょうど午後四時を指していた。

 今日は義弟と顔を合わせたということもあって、通常であればアフタヌーンティの時間にとる休憩時間を、一時間遅らせるように伝えてあった。

 部屋の中に入ってきて、茶と茶菓子を応接セットに並べて出て行こうとするセバスティアンを引き留める。

「セバスティアン……この間のガレスタ家の夜会の夜、フロリアはどこかに出かけなかったか」

 ジュールの問いかけに、セバスティアンは驚いたような表情を浮かべた。

「会場でご一緒されたのではなかったのですか? 奥様もガレスタ家の夜会に行くとおっしゃったので、アンディが馬車で近くまでお送りしたのですが。私はてっきり、帰りは旦那様とご一緒か、ガレスタ家の口利きの辻馬車で帰ってこられるとばかり思っておりましたが、そういえば帰りは旦那様お一人でいらっしゃいましたね」

 当夜の事を思い出すように、セバスティアンは考え込むようにしてそう述べた。

「いや……会場では見かけなかった」

「ああ、外套で姿が見えないよう上から下まで覆っておいででしたから。使用人に仮装姿を見られるのが恥ずかしかったのかもしれませんね。そのせいで会場でも奥様とわからなかったのでしょう」

 そう言い残し、セバスティアンは部屋を出て行った。

 セバスティアンの言うように、広い会場だから、もしかしたら偶然出会えなかったという可能性も無きにしも非ずだが、それならばあの夜に見た村娘姿の説明がつかない。

 夜会の趣向が仮装だとしても、さすがにあの姿では入口で止められるだろう。

 やはりフロリアは豊穣の祭りを楽しむために出かけていたのだ。

 友人もいないこんな地方に嫁いできて、夫であるはずの自分は彼女を放置している。

 放任主義と言えば聞こえは良いが、それは向き合う事を放棄しているのと同じことだ。

 憂さ晴らしに祭りに行きたいなどと言っても、人妻となってしまった今となっては供も連れずに出歩くことはできない。

 だから使用人に心配を掛けないよう、ガレスタ家の夜会に行くと嘘を言って家を出たのだ。

「私は最低の男だな……」

 この先どんな形に収まるにせよ縁あって夫婦となったのだから、自分の最低な行いを詫びて、もう一度妻と向き合わなくてはならないとジュールは思った。

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