23・ ヲタ活しようと街まで出かけたら、強盗に襲われて愉快なフロリアさん
従僕の礼服代わりの服を用意すると言ったって、そこら辺で追いはぎなんてされたら元も子もありません。彼らは、下手をすれば市民階級者を襲って殺すことは私を殺す事以上にためらわないでしょう。
と言うわけで、古着屋で服を調達してくるなら外套も渡すが、誰かを襲うなら抵抗すると半ば脅すように交渉し、どうにか穏便に服を調達してきてもらいました。
戻ってきた男が手にしていたのは、どう見ても村娘がよく着ているワンピースでした。一応見た目は男の子になっているのに、女性用を用意しますか普通。いやまぁ、文句は言えないので着ますけど。
外套を使って着替えていると、良いところのお坊ちゃんは女みてぇな着替え方をするんだな、とかなんとか茶化されましたが、そういう事にしておきます。なんか、イラッとしますね。平常心平常心……。
その後邸の手前まで送ってもらい、馬車を降りるときに脱いだ服一式を手渡して解放されました。
一刻も早く逃げたかったのか、ひったくるようにして服を手にした彼らは、ここまで進んで来た方向へさっさと馬車を走らせて消えてしまいました。
あー、そっちの方向に行っても帰れないのに……。
まぁ、良いか。
さて、どうしたら良いでしょうね。服装はともかく、今の私はフルメイク状態です。この状態でセバスさんに会うと、下手をすれば家に入れてもらえないかもしれません。
どうにかこっそり邸の中に入れないものだろうか……。
仕方がありません、調理場の近くにある井戸で顔を洗ってメイクを落としてしまいましょう。
誰かに見つかっても、私はリズですって言えば良いよね。
こっそり使用人用の出入り口がある一画へ足を延ばし、その先にある井戸で水を汲んで顔を洗いました。
服には前掛けがついていたので、それで顔を拭いて、使用人用の出入り口を使って自分の部屋へと戻りました。
いろいろありましたが、無事帰ってこられたので良しとしましょう。
あ、まずい。うっかり名前を出したスフォルには手紙を書いて謝っておかなくてはいけませんね。
忘れないうちに手紙をしたため、翌日セバスさんに頼んで送ってもらいました。
そしてその一週間後、何故だかスフォルが邸までやってきました。
……解せぬ。
今、私室にお茶を運んでもらい、姉弟向かい合わせに座っています。
「姉さん、どういう事あの手紙……」
そう言って不機嫌さマックス状態の顔をしてこちらを睨んでくる弟が怖い。
遺伝子の良い所はすべてスフォルに温存されてたのかな?ってくらい、私とスフォルは似ていません。お母さまとお父さまの良い所を凝縮したスフォルは、前世基準でいうと塩顔イケメン。眼鏡属性。
残念ながら髪はブラウン。黒髪だったら完璧だったのに、惜しい!
あ、ついでに姉弟関係は至って普通です。姉を溺愛する弟みたいな別の扉開いちゃいそうなシュチュは一切ナシ。
「だから、ガンシア領の村のお祭りに行きたくて出かけたら、うっかり強盗に捕まっちゃったって書いたでしょう? 私も命は惜しかったから、フェンネルト家の名前を出したの。その時にお父様とあなたの名前を出してしまったから、後々それで厄介ごとに巻き込まれたら申し訳ないから連絡しておかなきゃって思って」
「うっかり強盗に捕まってよく無事でしたね、本当ですかその話。だいたい、結婚したくせにどうして一人でそんな危ない事してんの? 義兄上は何も言わなかったの」
だってジュール様には言ってないしぃー。
気まずくてあらぬ方向に視線を逸らした私を見て、スフォルは察したのでしょう。
いま、ピコーンてひらめいた顔しましたよ、この弟。
「姉さんは人妻になった自覚が足りてない……。何かあったら義兄上にも迷惑がかかるんだから、ちょっとは自重してください。ついでに父さんが、あれだけ服を持たせたのに、なんでテーラーデルシュカからこんなに請求が来るんだって不審がってましたよ」
「だって、お父様ったら似合わない服ばっかり用意してたんだもの……お直ししたり……ついでにちょっと旦那様の服を作っただけよ」
気まずさを誤魔化すためにお茶を飲みながらそう言うと、スフォルは珍しく真顔になりました。
あ゛あ゛ッ? あんた今、なんか勘違いしたわね?
「あのすべてにおいて諦めてた姉さんが……結婚したら変わるもんだね。そりゃそうか、あれだけの美形なら。さすがの姉さんもやっぱり美形は好きか」
ええ、ええ、美形は好きだよ! みんな好きだろびけいーーーー!
だがスフォルよ、あんたの解釈は間違えてる! 間違ってんだからねーーーー!
ノーマルだとわかってはいるけど、あんたのその服、ここでひん剥いてやろうか、ああん?!
るーるるるるっるー、今日もいい天気ぃ……。泣いてもいい?




