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22・ 夫は見た! 実録妻の夜遊びの証拠

 帰宅するまでの時間を考慮して比較的早い時間にガレスタ家の夜会から戻ってきたジュールは、自宅の門扉の前で一台の辻馬車とすれ違った。

 自邸は所領の高台に位置しているから、この先には他家の邸も村人の集落も存在しない。

 ということは、あの辻馬車はヒュリック家の誰かが乗ったものになる。だが、こんな時間に使用人が町まで出る事は想定しにくい。

 考えられるのはただ一人、フロリアだ。こんな時間までどこに行っていたのだろう。

 思わず窓を開け、そこから外を覗き込むようにして顔を出す。

 雨期明けの生ぬるい湿気を含んだ夜風が、ジュールの髪を緩やかに押し流していく。

 そうこうしている間にも、馬車は邸の玄関前にある降車場へ向かって進む。

 ようやく降車場が見えたところで、何故かわからないが、領地の農民の女が着るようなワンピース姿のフロリアの後ろ姿が見えた。

 あの華奢な体格といい、髪の色と言い、どう見てもフロリアだということはわかる。

 そしてあろうことか彼女は、玄関ではなく使用人が出入りする勝手口方向へと消えて行った。

 侍女のお仕着せが欲しいなどと言った時にはこんな事は想像もしていなかったが、ああして農民の粗末な服を手に入れてまで出かけているところを見ると、夫である自分の他に心を寄せる相手がいるのだろう。

 そうでなければ、まともな女性がこんな結婚生活を受け入れる訳がない。

 愛のない結婚をした貴族が、捌け口を外に求めるのは珍しい事ではない。

 それならそうと言ってくれれば良かったのに、と思わなくもないが、フロリアの立場ではそれも無理か、と思い直す。

 貧窮貴族とは言え、こちらの方が家格は高位なのだから。どうしたってフェンネルト家の方が立場は弱い。

 想定できた事だとは言え、それを目の当たりにしてしまうと、失望感はぬぐえない。

 けれど自分はフロリアを誘いもせずガレスタ家の夜会に行っておいて、こんな時間まで出かけるなとは言えない。まして、結婚しておきながらお前を愛すことはないなどと言ってしまった手前、彼女がどこで何をしようと咎められるわけもない。

 彼女が自分に服をあつらえるのも、もしかしたら罪悪感に対する埋め合わせなのかもしれなかった。

 自業自得とはいえ、何故だか深いため息が出るのを止められない。

 はぁー、と長い呼気が漏れ出たその時、馭者として馬車を操っていた使用人のケンが、停車したというのに一向に出てこない主人にしびれを切らしたのか扉を叩いた。

「旦那様? 着きましたよ」

 外側から掛かった声に、徒労感を抑えて口を開く。

「ああ、ありがとう。降りるよ」

 ケンの手によって開かれた扉から馬車を降り、出迎えに来たセバスティアンにフロリアの事を問いただそうと口を開いたが、結局それを飲み込んだ。

 自分の妻として口出しするのなら、相応の扱いをすべきなのだ。

「留守中変わった事はなかったか?」

「はい、何も問題はございませんでした」

 おかしい。さっきのフロリアのあの姿は、どう見てもおかしいだろう。

 それでもこの執事が邸の主である自分に黙っているのは、フロリアに口止めされているからだ。

「そうか。わかった」

 そう返したものの、腹の底がモヤモヤして仕方がなかった。

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