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12・ イケメン騎士は歯が命

 それとなくお二人の様子を観察しながら、食事をすすめます。

 メイン料理の雉は熟成期間を経ているからか思っていたよりも柔らかくて、美味しいです。鶏よりも甘い味ですが、コクがあり、煮込んでいるからか咀嚼すると繊維質な身が解けます。

 いつものお料理も美味しいですが、今日のこのひと皿も美味です。料理長、GJ!

 

 食事の合間にも、ジュール様とアラン様は楽しげに雑談を交わしていらっしゃいます。……が、ずっと観察していて思ったのですが、このお二人はー、アレですね。

 疑いようもなくお友達ですね。恋愛云々の関係じゃない。

 私に備わった貴腐人的嗅覚がそう告げています。

 残念、一人目は空振りでしたか。もうちょっと妄想で楽しみたかったのです。

 まぁ、それも仕方がないですね。


 お客様を招いての食事会だと、いわゆるコース料理的な物を想像しがちですが、この世界のお料理は、肉料理と野菜料理、それに芋類かパン類が出されます。今日のメインが煮込み料理だったので、スープはありません。

 野菜料理も、サラダのような生野菜は一切出ません。そういう文化がないのです。

 魚も、この地方は内陸で海がないので、ほとんど出てきません。

 肉! パン! 野菜! ドーン!! みたいなのが基本。 絵のようなうつくしいひと皿、とかそんなものはありません。

 野菜料理も焼いたもの、ゆでたもの、酢漬けになったもの、煮込んだものが主流。

 パンもまず粉が白くないからほぼ茶色いのです。

 

 黙々と雉を半分ほど食べ、口直しにピクルス的な野菜に取り掛かっていると、そこにセバスさんがやって来ました。

 何だか慌てた様子ですね。事件発生でしょうか。

「お食事中失礼いたします。旦那様、村の方で川の水を引き込む為の用水路が決壊しかかっているようで、村長が指示を仰ぎたいと訪れています」

「ああ、それはマズイな。少し前にしばらく様子見と言ってあった所だ。やはりダメだったか。アラン、悪い、少し席を外す」

「構わんよ、早く行って来い。俺のお相手は夫人にお願いするよ」

 アラン様は慣れた様子でそう言いながら、ジュール様に「早く行け」と手をヒラヒラとお振りになりました。

「済まないフロリア、しばらくアランの相手を頼む」

 緊急事態であれば仕方がありません。お客様のおもてなしは邸の主人の勤め。旦那様が不在であれば、名ばかりでも妻の私の仕事でしょう。

「分かりました、旦那様」


 慌てた様子でダイニングルームを出て行く旦那様を見送ったまでは良かったのですが、参りました。気まずさ、さらに倍! 

「そうそう、フロリア夫人。あと数ヶ月で本格的なシーズンが始まりますし、よろしければぜひジュールと二人で遊びに来てください。招待状を送ります」

 気楽な調子でアラン様がおっしゃったシーズンとは、社交シーズンの事です。

 考えるまでもなく、高位貴族である旦那様の古くからのご友人なのですから、アラン様とは家族ぐるみのお付き合いなのでしょう。もちろん、アラン様の御生家も高位貴族家なのは当たり前。

 ヒュリック家は困窮していますから、夜会など主催できる状態ではないのでしょうが、ガレスタ家は資産に余裕があるのでしょう。

 招待状を送るという事は、当然主催されるということです。


「ありがとうございます。大変心苦しいのですが、お気持ちだけ頂いておきます。ご招待いただいても、お伺いするのは旦那様一人でお許し下さい」

「それはどうして……。理由をお訊ねしても?」

 理由と言われましても。夜会に行くなら間近で観賞したいじゃないですか。妻として参加してしまえば本命が警戒して出てこない可能性もありますよね。

 リズ……の姿では潜入できないだろうなー。

 何か上手い方法はないかな……て、そんな事を考えている場合ではありませんね。


「それは……私なんかが旦那様の隣に立つなんて、心苦しくて」

 旦那様の最愛の方を嫌な気分にさせたくありませんしね。

「あなたはジュールの伴侶なのだから、何を遠慮する必要があるのか」

 いやいやいや、むしろ遠慮ではなく、思い切り私欲にまみれています。

 アラン様……なんか……あれこれ妄想してスミマセン。


「旦那様は私のような女が隣に立つ事を快くお思いにならないでしょう」

 本命いるしね! それに私は女だし、恋愛対象じゃないですもんね、うんうん。

「何を気にする必要があるのです! あなたは楚々としてお可愛らしい。そのままで充分ですよ」

 あ、これまた違う方向に勘違いしてる。お前もか! ブルータス! 

 社交辞令がうまいな、高位貴族!! 息をするようにペロっと褒め言葉を口に……。

「本当にアラン様はお上手でいらっしゃいます」

 困りました、この方すごい押しが強い。間違いなく高位貴族です、こういう所。

 どうやって切り返そうかと迷っているうちに、何かに気がついたようにハッと目を見開かれて、納得したように頷かれました。


「我が家の夜会は、領地の雨季が終わった頃に毎年開いていましてね。その日は村人も仮装して豊穣祈願の祭りを楽しむのです。もちろん我が家も趣向として、招待客には簡単な仮装や仮面をつけて参加していただいているのですよ。それならば、そこまでお気にされる事もないのでは?」

「それでも旦那様と一緒ですと、お気をつかわせてしまいますから……」

 主に、旦那様の恋人に。それに、独身大物貴族の最後の砦とまで言われているジュール様の隣に女がいるとなれば、それはもう大騒ぎです。確実に、ええ。


「本当にあなたは控えめな方だ……。では、招待状を二通ご用意致しましょう。あなた宛のものには、名前を未記入にしておきますから」

 招待する予定のなかった客を、当日イレギュラーで招く事はあるものです。付き合い上どうしても招かざるをえなかったり、送ったはずの招待状が届いていなかったり、といった事もあります。名前が未記入の招待状とは、そういうお客様のために用意されています。

 アラン様ナイスアシスト! そのお申し出嬉しいです。 が、ここは明らかにその釣り針に食らいついた所を見せてはいけません。あくまで、私はかりそめの妻!(使命感)

「お心遣い感謝致します。当日勇気が出ましたら、参加させて下さい」

「はい、お待ちしています」

 そう言ってアラン様は白い歯を見せて爽やかに笑いました。くぅー! この、絵に描いたような騎士ぶり。

 ジュール様のお相手じゃなかったのは残念ですが、ホント良い方なんですよねぇ。

 ヒュリック家の使用人の好感度が高いし、こんなに良い方がお友達なら、きっと旦那様も良い方に違いありません。それだけで私は充分です。

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