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19:リンダと隠し部屋

「「休憩室で時間を潰すといいですよ。」」


 私達が疲れて混乱していると思われたのか、休憩するようにすすめられた。永遠の地下図書のカウンター、図書の貸し出しをする場所。その奥にある扉に入ると、簡易的な休憩室になっていた。椅子と机、ロッカー、茶葉と食器がある。


「リンダ殿…気づいているやもしれませんが、人間の仕業じゃ…」


「認識が変化してる。記憶の改竄?…もっと恐ろしいことなのかな…パルンが教えてくれるといいんだけど。」


 申し訳ない気持ちもあるが、机の上に置くわけにもいかず、ロッカーの上にマルダリを置いた。


「パルン?」


「あぁ、うちのとこの神様だよ。変なやつだけど、大造が知ってるような


ーー認証しました


神じゃない…か、な?」


 人間の声ではあるが、感情の欠片も無い音声がロッカーから流れた。次の瞬間、中央のロッカーが、奥に倒れ、階段が出現した。


「うっそー…隠し扉?」


「マルダリさんの身体に反応したのでありましょうか…」


 地下図書のさらに地下。再びマルダリを抱え、石の螺旋階段を降りて行く。立っている階段と、次の階段が淡く光っているため、足元だけがわかる不思議な階段だ。


「マルダリの部屋っことかな。」


 階段の先にあったものは、古びた木の扉。白いドアプレートが掛けてある。


「目標は達成できたわけでござるか…」


 大造がドアプレートを手で触る。通常、部屋の役割か、使用者の名前が書かれている。


「……間違いないでござる。これはマルダリ殿の部屋でありますよ!」


 ドアプレートを外して、渡してくれる。触ると、外見からはわからない彫りがあった。


「ま、るめん、だーりー、そん…?」


「本来は彫った上から字が書いてあったのではなかろうか?」


「なるほど…でも、それじゃ、マルダリの生きた痕跡が消えてるってことじゃない!?」


 名前も忘れられて、死体すら見えない。なら、生きた痕跡は全て消されていないと意味がない。文字が残っていたら気付く人が出てきてしまうだろう。


「早く入るでござる!」


 扉に鍵はかかっていなかった。古びた見た目に反して、ひっかかりも、開閉音もしなかった。


「うわぁ……」


 ぜっっっったい、シスターじゃない。マルダリの隠し部屋には、大型動物の剥製(頭部)と骨(頭部)、呪いをかけられそうな黒い布切れ、禍々しい紫色の水晶、壁には魔法陣(血?)、何かの皮で作られた表紙の本が山になっている。こんなの、シスターの皮を被った黒魔術師よ!それとも、シスターってこーゆーもんなの?勘弁してよぉ〜……怖いのは嫌いなんだよぉ〜…


「リンダ殿、この紙の束全部白紙でござるよ。紙質も新しいものから、古いものまであるでござるから、元から白紙とは考えづらいでありますな。」


 大造は触るのも躊躇われる収集物を、持ち上げ、めくり、また次に…


「…リンダ殿、顔から言いたいことが滲み出てるでござるが、見た目だけであります。一緒に手掛かりを探すでありますよ。」


「わ、わかった…」


 うっ…読めないってことは特殊な言語か、暗号か…普通の本でもできるのに、なんでこんな見た目で作るのかなぉ。真っ白になってるのは、マルダリが書いてるものだけみたい。大体二百冊以上はある。


「もしかして、表の図書で出せない本がここに置いてあるとかかな。」


 触感も気持ち悪い本を右へ左へ。


「ありそうでござるな。平和になる前には、魔法書は有用だったでありましょうから。」


 あ、これ魔法書なの!?えっ…持って帰っちゃダメかなぁ。全然気持ち悪くなくなってきた。むしろ希少価値というか、愛くるしさも感じ…それはないか。


「ねぇ、魔法適性Gでも魔法書があれば…いける?」


「それは…拙者にもわからないでござる。」


「可能性は?あっ、魔道具なら?」


「魔道具なら…いや、それよりも、神様の話が聞きたいでござる。」


 んー、そらされたねぇ。話を。


「……パルンって名前の神様なんだけど、大造から聞いてるドミニ神とは印象がかなり違う。」


 パルンは私の話を聞く気が全くないのに、自分の話は一方的にする傍若無人な神様だけど、洗脳とか、疑惑だけど口封じとかはしないと思う。


「具体的には…何かエピソード的なものはあるでござるか?」


「趣味は人間にマウントをとることだよ。」


「それはまた……神格が低そうでござるなぁ…」


 あ、そうだ。


「直接話せばいいんじゃない?」


「え!?できるのでござるか!?」


 やってみるだけタダだし。


異世界の迷惑者(アナザー・トラベラー)


 空間は歪む。壁の魔法陣が凄いことになってる。


「おい、好き勝手言ってんじゃねーよ。」


 歪んだ空間から声がする。


「うわっ、本当に繋がったでござる!」

 

「何が うわっ だ。二回目!これ、二回目!!初対面じゃねーだろうが。次は返事しねーからな!」


「ねぇ、パルン。こんなに早く出てくるなら、今までのこと見てたよね。」


 私は王の間に繋いだ気でいたのに、パルンが出てくるってことは、スキルを使う話の流れも聞いてたってことだよね。


「悪いけどさー、言えることは、こっちでも動いてんのってこと。」


「動いてるってことは、やはり神が!」


「黙ってろ早漏野郎。果報は寝て待てっつの。」


 歪んだ空間の先からでも、苛立ってる様子が伝わってくる。


「あとは、リンダ!」


「なに?」


「ダーツだよ、ダーツ。これで終わり。もう繋げるなよ。」


 歪んだ空間は元に戻る。壁に書かれた魔法陣が、歪んだままだ。腹いせだろうか。


「ダーツ…行くべき異世界を必ず射抜く…出来レース…うん、わかった。」


「何かわかったのでありますか、リンダ殿!」


「パルンは知ってたんだよ。この世界がおかしいってことを。」


 本をかたして、歪んだ魔法陣を指でカリカリと削ってみる。血がどうか確かめたかったけど、そんな知識ないからわからないや。


「勇者に勝利するってことは、この世界を正常に戻すってことだったんだ。」


 可能性として、勇者も洗脳状態か、洗脳してる人の仲間。洗脳された勇者に勝つ方法は、洗脳を解く、つまりは世界を正常に戻す。洗脳している人が複数なら、世界を正常に戻した後…正常になった人達と戦う?……それは、後で考えるかぁ。


「…話が壮大になってきたでござるな。」


「とりあえず、勇者パーティが何か知ってるのは間違いないと思う。」


「次は盗人デッケイか、戦士メロンネの村でござるな。……いつまでカリカリしてるでござるか?」


 リンダは魔法陣を指でいじり続けていた。


「…証拠隠滅?」


「誰も入ってこないでござるし、見られても問題無いでありますよ。」


 んー、でもやっぱり気になる。こんな歪んだ魔法陣おかしいって。バレないとか、問題ないとかそういった気持ちから、ボロというかー、なんというかー…おっと、剥がれそう。


「親指で擦った方が早いな。」


 大造が擦る私の腕を掴む。


カチッ


「リンダ殿、いい加減にするでござっ」

「え?」


 掴まれた拍子に親指が壁を押した。壁の一部に、指がめり込んだのである。


 とととトラップ!?迎撃システム!?死ぬ?死ぬの?た、大造、は、固まってるじゃん…そういうとこあるよ、もー。


 足元に冷気が流れた。


「し、死………い?」


 壁に書かれた魔法陣が真っ二つに割れた。壁ごと。その中は、三人ほど人間が寝れるほどの空間で、氷で作られたバレリーナが踊っていた。中に入っていないにも関わらず、鳥肌が立つ。


「…マルダリは中に入れとく?」


「そうでござるな!!!!」


 驚いたのか、大声になってしまう大造。今日はもうゆっくり寝たい。頭がパンクしそうだ。

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