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18:リンダと改変

「じゃあ、行ってくるね。」


 リンダと草原はマルダリを背負い、再びドミニオンへと向かった。突発会議は順調とはいかずとも、日が暮れる前に終わった。これからすべきことは、大きく変わっていない。勇者の故郷を巡り情報を集める。ドミニオンに来て情報は確実に得ることができた。先に進むためにはリスクを負う覚悟が必要だ。


「これからすべき事は覚えているでござるか?」


「もちろんだよ。一つ、マルダリは魔物を超えた何かに殺された。マルダリはその存在を追っていた。私達は仇を討つことで意思を継ぎたい。これは世界の危機である。二つ、一つ目を達成するために、マルダリの部屋があるなら見せて欲しい。」


「完璧でござる。リンダ殿の頑固がなければ、もっと矛盾が無いようできるでありましょうが…あ、世界の危機は強く推すでござる。」


「頑固じゃないもん。必要ない嘘を見極める力が総隊長には求められている。」


 言葉は重要だ。一日にも満たない関係だったけど、仲間の意思を継ぐ想いは、私達を前向きにさせた。一方的かもしれないけど、背中を押してもらえるなら上々よ。


 最高速で毒死の森を抜ける。今朝は、シスター姉妹に絡まれた場所。遠くに見える門兵さんは、身長から変わっているのがわかる。飴は貰えなさそうだ。


「さぁ、ここからでありますよ…」


 頬に汗が伝う。まず誤解を招かれたら終わり。リンダの名前が勇者の耳に伝われば終わり。目立たず、シスター姉妹にはリンダの名前に緘口令を敷く必要がある。まずバレれば逃げれない。探索系魔法があることは確認済みなのだ。……いつかはバレるので、時間との勝負でもある。


「大丈夫…大丈夫…」


 大丈夫ではない。死体袋を背負っている人間が怪しくないわけがない。


「なんだ、あんたら。旅人にしては珍妙だが。」


「ここには今朝も来た。マルダリの固定移動(ポイント・ジャンプ)で外に出たんだ。」


 よかった…リンダ殿は落ち着いているでござる。もう大根役者ではないのでありますな。


「あー、よくわからないけど、客人が来たってのは聞いてるよ。悪ガキ姉妹と一緒だったろ?」


「うん、メルモルとメーラルのことでしょ。」


 門兵は報告書か、通行記録か…びっしりと書かれた紙を凝視している。一生にできる鼓動の数は決まってるって聞いたことがある。それなら、怖い体験が好きな人は短命なのだろうか。走るのが好きな人は?反対に、鼓動の数を減らせば長生きするのか…読書家は長生きできるってことか?…いや、読書だって、ワクワクしたりドキドキする。もしかして、人生が劇的なのって寿命の調整をしてるってことなのかな。


「はい、大丈夫。惚けてないで入っていいよ。」


「…え?」


「あ、ありがとうでござる!」


(リンダ殿!何も言われないなら、それで問題無しでござる!)

(ごめんごめん、そうだよね…)


 足早にドミニオンに入っていく。


「ちょっと待ち、そのデッケー荷物はなんだい?」


 ……ここから…


「じっ、実は…マルメン=ダーリーソンは死に、ました…敵はわかりませんが、魔物じゃありません。とてつもなく強い何かです。」


 頑張れ…頑張れリンダ殿!気持ちを伝えるでござる!


「世界の危機です。他人事じゃない…これは危機なんです!」


 ……どうでござるか?


「んー……あっ、あれか!防衛隊!凝ってるなぁ。」


「え?ちょ、嘘じゃないですって!」


「あの姉妹の遊びに付き合ってくれるなんて、良いお客人だ。」


 門兵は背負う死体袋に手をかけた。葉が剥がれていく。硬直した腕が覗き見える。青白く、生を感じられない。


「あ、あ!、あぁ…」


 やってしまった。とことん上手くいかない。信じてもらえていない。そんな人に死体をいきなり見せたら…


「んーっ?何も入ってない…空洞だ。ハリボテってやつか?よくできてんなー。」


「え?え?…だから、マルメン=ダーリーソンは敵にやられて…」


「その、マル…なんとかって人は知らないけど、物騒な言葉は使わないようにね。さっ、ドミニオンを楽しんでっ!」


 門兵さんは別れの挨拶として、私と大造の背中を軽く叩いて戻ってしまった。


「どうなってるの…」


「永遠の地下図書の主人で、僧侶トリマの師の知名度が低いわけないでござる…それに、しっ、死体が見えないなんて…」


 教会に向けて真っ直ぐ歩く。軽快な足音と裏腹に、私達への視線は多い。それは、草木が貼り付けられたものを担いでいるからであり、殺人者に疑われているわけじゃない。

 不穏な空気だ…日が落ちて暗くなっていき、教会の明かりがついた。導かれてるようにも感じる。

 扉を開くとシスターが掃除中だった。机を拭き、床を掃く。とても絵になる光景だ。

 祈りはせずに左手の扉を開いて、地下へ降りていく。一度も登ったことがない階段。


「どこに行ってたのですか?」


「大きな荷物ですね。」


 出迎えてくれたのはシスターの姉妹、メルモルとメーラル。二人とも十冊ずつ本を抱えている。


「時間があるなら手伝ってほしいのですよ。」


「私達は仕事が忙しくて時間がないのです。」


 ブックトラックに積むと、姉妹仲良く一緒に押して行く。行き先は遠そうだ。


「…それはマルダリの仕事じゃないの?」


 何年も同じ作業を繰り返していたかのような、手慣れた動きで、曲がり角もなんのその。後ろからついて行くのが大変なくらいだ。


「「マルダリって誰ですか?」」


ースキルが発動しました。異世界順応(アナザー・トーカー)。貴方は、転移した異世界において、核心に触れれば触れるほど、順応することができます。


 振り返った姉妹の目に濁りはなく、嘘ではないことが伝わってくる。


「世界が…変わった…」

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