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16:リンダと真実の血

 会話の場として、切り株を模した机や椅子が作られた。机を囲むのは、マルダリ、リンダ、草原、ドダイン、ドケイガー、ドグロク。鳥が鳴き、優しい風が流れ、暖かな日が差す長閑(のどか)な空間は、毒死の森の中だと感じさせない。机の上には、紅茶と茶菓子が並べられた。マルダリが「簡易日常(カムバック)」と唱えると、歪んだ空間から出現した。リンダが臆せず食べると、マルダリは笑顔で追加を出した。


「魔物の巣がそんなことになっているとはね。会話できるのも、とても面白いわ。今日、私の人生は変わったわね。間違いなく。」


 私達は隠さずに全てをマルダリに話した。魔物の巣の中、魔物解放組織へいわ隊のこと、草原大造の存在、目指している目標…私のスキル。


「それに…異世界の迷惑者(アナザー・トラベラー)か。他の世界に寄生して生き残るって、凄いことね。」


 使用するだけで異世界に行けて、物を持ち込むことも、持ち帰ることもできる。とんでもないわ…それこそ、やりようによっては世界の一つや二つ支配できるでしょう。


「ちょっといいか?」


「ええ、ドダインさん。」


「俺たちは目的を達成できるだろうか?」


「無理ね。」


「え…マルダリさんは理解してくれたじゃないか!」


 当然の疑問だった。目の前の人間が理解を示してくれた結果がある。また、僧侶トリマの師匠として、人間の中でも立場が高いマルダリが、協力してくれるならば、明日にでも、少しずつ変わっていくと確信していた。


「んー…リンダと草原には話したけど、魔物の存在って、人間を殺す生き物で、揺るがない敵像なのよね。事実とかじゃなくて、そうなっているのよ。」


 ドダインは少し考えて、正直に答えた。


「…悪い、よくわからない。」


「私も思ってるの。貴方達魔物が人間を襲い、殺すってね。理解していても…なんていうか…上書きできないのよ。」


 思想や記憶を植え付ける魔法はかけられてない。そもそも、そんな低俗な魔法にかかるのは、魔法適正値が全くない人ぐらいだろうし…。脳を改造された?…違うな。


「私だけじゃないわ。常識ってやつなのかしら。例えば…えーっ、肉の中に骨があるみたいな。」


 マルダリは自分の二の腕を指で突き、骨を確認する。常識の例えとして、体の構造を出してくるあたり、猟奇的な何かを感じた。


「疑う人なんていないのよ。…私みたいな人間が他にいると仮定しても、知能ある魔物が人間を襲わない!なんて、信じる人は存在しない。」


「マルダリさんも、信じていないってことなのか?」


「そうよ。正確には違うけれど…説明できないから、それでいいわ。」


 そもそも魔物ってなんなのかしら。こんなにも疑問があるのに…もどかしいわね。


「洗脳でござるか?」


「洗脳魔法ってこと?…無理ね。私にかけられる人間なんていないわ。」


「…違うのでござる。」


 洗脳魔法は、長くかけられていればいるほど、より強力になっていく。解く方法は限られている。中でも有用なのが二つ。高位の魔法で打ち消し、リハビリをもって正常に戻していく。そして、洗脳の核となる物事を真の意味で気付き、理解すること。つまりは、洗脳状態であれ、自己の否定を出来るか否かである。


「人間じゃなければ…可能なのでござるよ…」


 洗脳魔法は低位の魔法である。かける方法は、魔法適性が低い人間を選ぶか、一度脳を破壊した後に、洗脳しながら修復する荒技がある。


「あっ……」


 魔法という概念の外。人間より高位の存在。草原大造を、'カコイゾ'に転移させた存在。


「ドミニ神…」


「ドミニ神?」


 どうしてここで神様の名前が出てくるの?

 疑問はマルダリの脳内を魚のように泳いでいた。


洗脳魔法… 人間じゃなければできる?

      疑わない…… 常識……

上書き… 転移者……


           ………ドミニ神



 マルメン=ダーリーソンはシスターである。ドミニ神を信仰。祈りを捧げ、民の安全を願った。しかし、祈るだけではなく、行動に移すのがドミニ信仰の核たる部分。マルダリもまた、掲げた目標に必要なことがあれば、すぐに行動する。ドミニ神はいつでも見守っている。だから頑張れるのだ。

 信じることで、強くなってきた過去がある。魔法を使える両親の元生まれ、シスター業務をこなしながら研鑽を積んできた。両親が死んだと伝えられた日は覚えていない。反して、魔物に惨殺されたのだと、死んだ理由だけは強く覚えている。悲しかった気もするが、変わらず魔法の訓練をしていた…と思う。マルダリは魔法で美貌を維持している。見た目以上の年月を経て、この力を手に入れた。事実のはずだ。これが私の過去だ。なのに…なのに…



「…そうか、初めてじゃないんだ。」



 どれだけ研鑽を積もうが、ただの人間が一生でたどり着けない場所に私はいるんだ。


「何かわかったの?」


 ただの人間の私は……


「私は…」


 幾度目の生涯でここまできた。







「何故お前はこの世界を乱す?」


 マルダリの頭部は、鈍い音を立てて机に転がった。


「邪魔な個体は何度殺しても湧いて出る。それこそ、永遠とな。」






 


ースキルが発動しました。異世界順応(アナザー・トーカー)。貴方は、転移した異世界において、核心に触れれば触れるほど、順応することができます。




「えっ…や、やだ…いやだ…きゃあああー!!」


 リンダの悲鳴が毒死の森に響く。

 視界に映っていた光景は事実とは異なる。突然、マルダリの首が切り離され、机に転がったのだ。私達以外には誰もいない。前触れなどない。

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