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15:リンダは筒抜け

無限氷舞(ドミニアイス)


 食肉庫に、氷で生成されたバレリーナが生まれ、華麗に踊り出す。倉庫内の温度は下がり続け、鳥肌が立つようになった。エプロンをした筋肉質のヒゲ男と、ピアスが目立つ修道服の女は倉庫を後にする。


「いやーっ、助かった。まさか僧侶トリマが直々に治してくれるとは!」


「他の保存庫とは比べて、高性能になってしまったかしら。私が直したことは黙っていてね。」


 僧侶トリマは面倒臭そうに、服についた霜を払う。高位の魔法を、本来の効果とは違う形で使用したにもかかわらず、トリマに疲れた様子は見られない。


「もちろんです。ところで、他の方々は…」


「王族のところよ。それが嫌で、慈善活動をしにきたというわけね。」


「あっ、なるほどー。」


 城を眺めても、権威も無い、存在させられているだけの王族など、顔も思い出せない。当たり前…ね。くだらない駆け引きも必要ない。アベルのカリスマにあやかっていれば、民は飢えないから。余った時間全て、神への祈りに捧げろと忠告したのに、未だこの国に浸透していない。それだけが問題よ。


「そうだ、今回の料金だけど。」


「え!?…すみません、いくらになりますか?」


「お金なんてとらないわよ。この店、私が好きな卵料理が少ないわ。増やしてほしい、それだけよ。」


「それなら任せてください!腕によりをかけますよ!」


「期待してるわ。」






「勇者アベルよ、気付いてはいると思うが、魔物の巣についてじゃ。」


 必要以上に長い机に座るのは、王冠とヒゲを携えた老人と、勇者アベル、盗人デッケイ。老人の背後には、白銀の鎧を着た性別不明の人間が二人。上座に座るのは、勇者アベル。


「はい。ここ数日で魔物の確認数が激減しています。それは、偶然とも思えますが、重要なのはもう一つ。魔物の巣に距離をとっていたはずの森が、一部被さるほどに広がっている。」


 草原の能力によるものである。地上を覗く監視機械から魔物達の姿を守るだけで、ただの森に変わりない。探しても不自然なものは無い。


「その通りじゃ。危惧していることはない。しかし、調査せねばならん。」


「いやよー、おやっさん?既に簡易騎士(ロイヤル)持った人らが調査した、と聞いてる。そんで、何も無かったともな。俺らが行って変わるかー?」


 変化を見つけることができる者は、ここにはいない。


「デッケイ、俺が言い出したんだ。王族としての調査依頼で、俺らが行く。それこそが、何も無いことを証明する術において最適だと思わないか?」


「…間違いないな。悪い、変なことを言った。トリマには声をかけるが、メロンネは何処にいるか知らないぞ。」


「大丈夫。三人いれば問題ないさ。」


 一人であろうが、二人であろうが、幾百人集めようが問題ない。問題を見つけられない。見つけられるのは……



 


「それじゃ、行こうか。」


 マルダリは毒死の森へ入っていく。後ろをついていくように、草原、そしてリンダ。

 森の様子は変わらなかった。虫も動物も、見てはいるものの、近づく存在はいない。毒死の森と言われる所以は、多足の虫であることはわかる。無言で森を観察するマルダリを真似て、リンダも周囲を観察してみると、虫だけが毒を持つわけでないことがわかった。キノコだ。何かの拍子で倒れた木に寄生するキノコは、白色に赤の斑点。もちろん、リンダにキノコを判別する知識はない。


「これ、絶対毒キノコだよ。毒じゃ無かったら詐欺だね。詐欺のキノコ。略して詐欺ノコ。」


「キノコを見た目で判断するのは危険でござる。それは、毒キノコでありますが。」


「毒キノコかーい。」


 大木。生い茂る葉は、音を立てて動く。風が吹いたからでは無い。葉があるはずの場所は、全て多足の虫がひしめき合っていた。


「うげぇ…」


「本当だ。君達といると襲われない。」


 マルダリは、今にも落ちてきそうな虫の傘の下へ。腹部の明るい色が気持ち悪い。


「調査は終わったでござるか?」


「知ってるかい?この虫はポイズンノーズという。移動は単独。でも、同じ場所に戻って、このように集団で行動する。」


「へー。」


 おや、無視でござるか?虫だけに、でござるか?


「何故、単独移動するか。それは、被害を抑えるためさ。何故、同じ場所に集まるか。それは、コイツらが集団でいるほうが強い、か、らっ、さ!!」


 マルダリの回し蹴りが大木にヒット。虫同士の甲殻がぶつかり、激しい音を立てる。


「何をしてるでござるか!!」


 ポイズンノーズは一点に集まる。圧迫され、甲殻は割れる。中身が露出するも、新たなポイズンノーズが覆い被さる。繰り返され、巨大なポイズンノーズが誕生する。


「これが魔物じゃないって驚きでしょ。でも、この先の砂漠にいる、サンドワームってのは魔物なのよ。」


「危ない!」


 集合ポイズンノーズは、マルダリに襲いかかる。元より草原がいなければ、捕食する対象の人間には積極的に襲いかかる生き物だ。当然の行動である。集合ポイズンノーズは、マルダリの身長と変わらない巨大なアゴを持つ。


無限氷舞(ドミニアイス)


 マルダリの指先に小さな氷が生まれる。それは、浮遊し、集合ポイズンノーズに触れ、弾けた。


「終わり。」


 集合ポイズンノーズは、瞬き一つの間に、全身を氷で包まれた。そして、もう一度の瞬きで消えた。


「あ…れ…どこに…」


「死んだんだ。永遠の氷に包まれ、この世でない場所に行ってしまった。塵の一つも残らない。」


 嘘でござろう……確実に、異世界転移者である拙者よりも強い。自然の力に左右されない、圧倒的な強者であります。


「あら、転移者の貴方に評価されるなんて嬉しいわ。もちろん、強い自信はあるのよ。それでも、勇者アベルには敵わない。」


「拙者の思考までも…」


「この世界おかしいのよ。」


ースキルが発動しました。異世界順応(アナザー・トーカー)。貴方は、転移した異世界において、核心に触れれば触れるほど、順応することができます。


「協力してちょうだい。転移者のお二人さん。」


 マルダリは猫をかぶることをやめた。


「私のことも知ってるの?」


「知ってるわよ。勇者アベルに喧嘩を売った異世界の姫でしょ。」


 全てバレていた。その上で、この毒死の森に連れてきたんだ。つまり…マルダリは、私達に'頼み事'がある。


「ああ、安心していいよ。私くらいしか知らない。勇者のイメージに合わないから、情報が出回ってないの。」


「この世界がおかしいってなに?私達に協力してもらいたいことってなに?」


「少し、お話をさせてちょうだい。」


 森が騒がしい。マルダリのことを恐れているようだ。


「勇者アベルは魔法を使うわ。知ってるわよね、リンダ・オ・ミミラル。」


「知ってる。炎魔法ってやつでしょ。」


 この異世界に来た初日、初めて見た魔法。忘れるわけがない。


「勇者アベルはね、炎魔法を、私の氷魔法を打ち消すように使うのよ。私よりも高位の魔法使いということね。…そう、魔法使いなの。出会った時から炎魔法使いだったはず…なのに、私の記憶には、彼が剣を使う物理アタッカーの姿でも存在する。」


「…は?剣も使うってだけじゃないの?」


「剣を使ってる姿を見たことがない。ってことでござろう。」


 見たことないのに…知ってる?


「その通り。…他にもあるの。魔物の存在よ。」


「…気づいてる?」


「もちろん。そこの大木の根本。何故か自然に守られてる。草原大造のスキルかしら。」


 マルダリが指差す大木は、私が指定したシェルターを作った場所だ。


「続けるわ。…私や、メルモル、メーラルの両親は魔物に惨殺された。」


 悲しげな顔を見せない。


「私ほどじゃないけど、強かったわ。皆んなね。そこの、シェルターにいる魔物相手なら、目を瞑っていても負けないわ。なのに、魔物に殺されたって信じてる私がいるの。」


「魔物はそんなことしない。」


「正確には、知能ある魔物でしょ。違う?」


「そう…だけど…」


「もちろん、今日までは妄想でしか無かったわ。地下図書にある魔物関連の本は、数が少ないうえ、的を得ていない。どこか、物語のような感覚があった。その疑問も、今日晴れた。」


 マルダリが持つ革の本を開くと、計二十冊の本が出現。空中に浮遊。


・魔物の歴史 ・魔法の効果範囲と切り取り線

・少女は眠る闇の穴 ・出力啓示限定発揮科目

・武装条件と天秤論 ・勇者戦記ーアベルー

・砂の森に発生する髑髏病 ・野菜は美味しい!

・不思議な生き物ー鳴き声編ー

・生死を分けた老化のサイン ・地上絵の世界

・シャーナイズと冒険探偵 ・能力数値化未来

・永遠の島 ・魑魅魍魎傑作選013

・危険地帯で見た!呪われる魔物のミイラ

・これ一冊で動く肩 ・風車力学かざぐるま

・魔法少女論 ・弾道B66-7知的生命体



「教えて、貴方達が知ってる魔物について。」



 私は話すべきじゃなかった。…時期が早くなっただけで、結果は変わらなかったと思う。でも、今の私には受け入れられない。だから、話すべきじゃなかった…。


ースキルが発動しました。異世界順応(アナザー・トーカー)。貴方は、転移した異世界において、核心に触れれば触れるほど、順応することができます。

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