14:リンダと地下図書
「ねぇ、今更だけど、私達も教会に入っていいの?」
境界を目の前にしての発言だった。
「あ、じゃあ、メーラル。」
「ちっ!」
お決まりなのかしら。
「何も問題ないのです。図書室の利用には許可が必要ですが、それも、私達がいれば問題ありません。」
「そうなんだ。」
古くも、綺麗に磨かれている扉だ。ギィーっと、音を立てて開く。祈りを捧げるシスターが数人。修道服も見慣れてきた。
「こっちですよ。」
「この下です。」
入って、すぐ左側にある扉を開けると、地下に続く階段がある。小さな光が均等な間隔を空けて設置してある。魔法の類だろうか。優しい光である。降りると、巨大な地下空間が広がっており、何万冊?いや、何十万?数え切れないほどの図書が収納されている。
「「ようこそ。永遠の地下図書へ」」
確かに、永遠と続くような感覚を持ってしまう。先が見えないほど奥行きがあるのだ。同時に、調べ物をするのに、私みたいな素人では、何日もかかってしまいそうだと、思った。
「圧巻でござるな…」
背表紙もろくに確認せずに、一冊手に取り、ペラペラとページをめくってみる。スキルのおかげか、文字は読めるも…なんだこれ?カコイゾによる天使の殲滅とエレベーター論…はぁ?隣のは…ワームでも理解できるSN77ミーム……なんじゃそりゃ。
「お客人ですね。私はマルメン=ダーリーソン。ここ、永遠の地下図書の主人にして、警備長であり、案内人です。」
眼鏡をかけたメイド服の女性は、茶色の皮?でできた本を右手に持っている。
「ど、どうも。リンダ・オ・ミミラルです。」
「草原大造でござる。」
マルメンはシスター姉妹の方を見る。何かを聞きたそうな顔をしているけど、他にも言った方がいいことあるかな。好きな食べ物とか?
「なんですか、マルダリ。」
「変なものでもついてますか?」
あー、マルメン=ダーリーソンを略してマルダリね。マルソンとかになる可能性もあったかも。
「隠すおつもりですか。話さなくても知っていますが。…リンダさん、草原さん。毒死の森から、無傷で出てきたそうですね。」
「ええ!?なんで知って…」
「出ました。覗き魔ババアです。」
「ババアの変態趣味。最悪です。」
「仕事だっつの!このクソガキ姉妹が!」
「「本性です。本性です。」」
「キィー!テメーらは…」
マルダリとシスター姉妹は、掴み合いのじゃれあいを始めてしまった。図書室では静かにってのが基本でしょ〜。
「あの〜」
「あぁ、そうそう。結論から話しますね。」
「あ、はい。」
毒死の森からの生還。隠すおつもりですか。覗き魔ババア……嫌な予感がする。
「毒死の森の調査に同行してほしいのです。」
「よかった…」
「よかった?」
「い、いえ!何でもないでぇ〜す。てへっ!」
あっぶな〜い。ドダイン達のことを見られてたら詰んでいた。魔法を使うシスター達と、簡易騎士でボコボコだろう。大造は逃げられても、私はパンをかじるくらいしかできない。あとは、飲み込むことも、次のパンに手を出すこともできる。
「それで、調査に同行してもらえるのでしょうか?同行していただけるなら、図書の利用と、お探しのものを見つける手伝いもさせてもらいます。」
「クソババア、自由に使わせるのです。」
「強欲ババア、勝手に出てくるなです。」
「あんた達ねぇ…」
「ちょっと待つでござる。」
顔面蒼白になっていた大造!お前…やれるのか?
「なんでしょう。」
「毒死の森に入るということでござるか?聞いている限りだと、普段はしないことだと見受けられるが。」
そうだそうだ!
「ふふふっ。これは私の頼み事です。それに、安全に入れるならば、調査しない方がおかしくありましょう。」
「……そ、そうでござるな。わかったでござる。でも、調査が終わり次第すぐに、森から出ることを約束するでありますよ。」
「了解したわ。」
「ちょっ、ちょっと、いい?」
大造を引っ張り、声が聞こえないよう距離を取る。さらには、本棚に隠れるよう、しゃがみ、話出す。
「いいの?大造。めちゃくちゃあやしいよ!」
「拙者も同じくあやしいと思うでござるよ。」
「ならなんで!?」
「聞いてる限り、森から出てくるところを、あの姉妹を通して見ていたのではないかと、推測するでござる。」
「魔法でってことだよね。」
「はい。つまり、拙者達には何かがあるというアバウトなものではありますが、弱みとして握られてるでござるよ。」
「あやしいのは…私達で、どこかに報告されるかもしれないってこと?やばいじゃん。」
「特に、弱みとして思われてるのが一番やばいでござる。」
「そうね…ここは、たまたま今日は安全ってことにする?」
「名案でござる。証拠として、リンダ殿の運Aがありますゆえ、疑われもしないでありますな。」
「よしっ、じゃーそゆことで!」
腰を落とし、そそくさと三人の元へ戻る。視線が下がると気づくこともある。この図書室、とっても綺麗。ホコリ一つ無いのは、魔法?綺麗好き?巨大な本棚の上なんて、掃除するの大変そうだ。
「いやー、おまた〜。えーっと、毒死の森だっけ?知らなかったんだぁ、ははっ、だから今日は安全な日ってことじゃないかなー。」
リンダ殿!?なんという棒演技…辞書で動揺と調べたら出てきそうであります!何故聞かれても無いことを、自分からペラペラと喋るんでござるかー!?
「安全な日…聞いたことないけど…」
マルダリは、シスター姉妹を宙吊りにしている。縄は見られない。つまりは魔法の一種だと思われる。メルモルとメーラルは一切反省した顔を見せない。余裕そうだ。予想するに、初めてじゃないな。
「いやー、ほらほら、たまたまってのも、あるあるだし…ねっ?」
シスター姉妹を宙吊りのまま、リンダと草原に近づき、二人の肩に手を乗せる。
「それじゃ、さっそく行きましょ…固定移動」
視界は一瞬して変わる。
「ここ…え?」
「瞬間移動…で、ござるか…」
ちょっと待つでござる!瞬間移動など、魔法の中でも最高位の…魔法使いの憧れでござるよ!それをいとも容易くやってのけたでござる。この女子何者でござるかー!?
「ちっちっち…これは瞬間移動じゃなく、固定移動。固定移動というのよ。」
「ポイント…ジャンプ…」
「そんなに警戒しないでちょうだい。名乗ったでしょう?」
マルダリは振り返り、眼鏡を整え、笑みを浮かべる。
「私はマルメン=ダーリーソン。永遠の地下図書の主人にして、警備長であり、案内人…そして、僧侶トリマの師匠である!」
「………言ってなかったじゃん…」
【魔法紹介コーナー】
使用者:勇者アベル
・炎の衣
→炎の衣を纏わせて暖める。
・炎爆撃
→着弾時、爆発する炎弾を発射する。威力は使用者の力量による。
使用者:ドグロク
・風の知らせ
→自然の中において、不自然なものを感じられる。ただし、特定の物だけを感知することはできない。
・風向き調査
→風の動きを感じ取る。舐めた指で代用可能。
・風砲壁
→風を一点に集中させ、球体状に生成する。壁としての活用が主となる。反発力がある。
使用者:メルモル
・雷の祈り
→雷を発生させて攻撃する。殺傷能力は無い。
使用者:マルメン=ダーリーソン
・固定移動
→事前に印を付けた場所へ瞬間移動できる。印を付けられる場所の数は、使用者の力量による。