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13:リンダはパンゾンビ

 ドミニオンの通行税…いや、入場税?なんでもいいけど、一人分で、大体パンが一つ買えるくらいらしい。大造が騒いでいた。


「えええ!?やっす!安すぎでござるよ!動物園の小学生料金でも、こんなのないでござるよ!?」


「よくわからないけど、安いの?シスターちゃん。」


「どっちのこと?」

「どっちですか?」


「……じゃあ、メルモルちゃん。」


「ちっ!」


 え?メーラル?今の。


「ふふん。このメルモルが説明します。この税金は、全て孤児院に寄付されるのです。」


「全部寄付!?」


 税金の使い方が明白なのは良いことね。コザ王国って、最低限しか税金ないけど。


「そうなのです。一人通れば、一人がパンを食べれると思えば、払う側も心地よいでしょう。実際は、食費というより、修繕費になっているそうですが。」


 本当にパン一つ分の金額が、通行税として採用されていたわけね。そういうの好きよ。


「孤児院も安心ね。事業は何が盛んなの?水が豊富みたいだけど…教会だから聖水みたいな?」


 平和だろうと呪いはあるかも。呪いって異常状態なのかしら。攻撃受け続けてるだけな感じもする。


「何言ってるのですか。聖水は無料ですよ。事業…よくわからないけど、空飛ぶ機械に入ってる魔法水晶が有名かな?あれは、シスターが作ってるのです。」


「せせせ、聖水が無料で、ござるか…。」


 監視機械は魔法水晶?とやらで、動いているのね。魔法にも種類がたくさんあるなぁ。あれ?でも、大量生産できるのかしら。魔法が切れるから、補充するとか?


「お姉様は言葉たらずです。ココは毒死の森や、帰らずの砂漠の観察をする任があるのです。住んでいるだけでも、他の国にとっては利益があるのです。」


 ………どゆこと?


「つまり、こう…高台から観察する仕事ってだけじゃなくて、住んでるだけでお金を生んでるってこと?」


「そうです。危ない地帯の側に家を構えてるわけですから、補助が出るのもあたりまえなのです。」


 ひょえ〜……余裕があるなぁ。姫だからわかるけど、この世界には余裕があるわ。とことん人間には優しい世界ね。危ないって言っても、魔法使える人多そうだし、簡易騎士(ロイヤル)だってあるんでしょ?十分に補助されてるでしょ。あれ?私って厳しい?


「拙者、ここに住むでござる。」


「大造!?」


「それなら、防衛隊に入れてあげます。週末は一緒にクッキーを焼くのですよ。」


「ははーー…」


 任務に燃えていた大造が屈するとは…私もクッキー食べたい!歩いてても、食事するお店全然ないし!違う通りなの?食べ歩きがしたいよぉ。


「メーラル。話して良いのは私だけです。貴方は黙っておくのですよ。」


「黙るのはお姉様です。教会でクッキーを作るだけの貴方では、この町を説明するには役不足です。」


「妹のくせに。お婆様しか構ってくれないから、詳しくなっただけでしょう。友達がいる私は、より人の目線になって、有用な情報を提示できます。」


「友達がいないのは、お姉様もです。」


「私には、トーリーやソナイユがいます。」


「トーリーとソナイユは、私とも友達です。」


「幼なじみの私の方が絆が深いのです。」


「同じ家で育っているので、幼なじみの絆も同じです。」


「ぶん殴りますよ。」


「暴力ですか。シスター失格ですね。」


「ぶん殴ります。」


「私も殴って抵抗します。」


 メルモルとメーラルは拳を握る。背中の棒は使わないみたいだ。ちっちゃい拳を構えて、腰を落として…って、ちょいちょい。


「こらこら、姉妹同士なかよお゛お゛ぉ…」


 リンダの両太ももに、拳が命中する。下から食い込むように打たれた拳は、身体に電流と共に激痛を流す。


「お゛ごぉ…」


「暴力は何も生みませんね。やめましょう。」

「暴力は虚しいばかりです。やめましょう。」


「実は仲良しでござるよな?」


 何も喋らなくなったリンダ。三人はご機嫌取りのために、パン屋に向かった。シスター姉妹によると、ご飯は家族と食べるものという考えから、食事をできる店が少ないらしい。代わりに炊き出しが頻繁にあって、宴会みたいになるとのこと。外食気分で行くのだと笑顔で話す。





 パン屋の名前は「トリマのパン」。なんと、パン屋が面してある通りの中央に、僧侶トリマの銅像が置いてある。それも、眩しいくらいに磨かれている。さらには、シスターが祈ってる。お前らが祈る先はそこじゃない。


「ここって…もしや…」


「そうです、草原さん。あの僧侶トリマが育ったパン屋です。ドミニオンの観光スポットでもあるのです。」


「そこの祈ってるシスターは、客人をからかっているだけです。あと、客人はシスターが祈っている姿を見ると大体喜びます。よくわかりません。」


「あぁー、そうですな。拙者も感動してるでござる。」


 やったでござる!こんなにも容易く目的にありつけるなんて、運が良いでござる!このシスター姉妹の説明や案内もありがたいでござるなぁ。


「変なの」

「変です」


「ぱ、パンっ、パンのに゛お゛い゛…ば、ん゛ん゛ん゛ん゛」


「大変でござる!リンダ殿が、空腹と機嫌の悪さが相まって、パンゾンビになってしまったでござるよ!」


 リンダは口から涎を垂らし、目はぐるぐると、焦点が合わない。両腕を身体に垂直に持ち上げ、力は抜き、ふらふらと店に向かっていく。


「パンゾンビ…!なんて恐ろしい。」

「早く名物の噴水パンを食べさせるのです!」


カランコロン


 店内は、数十種類のパンと、食事するスペースが八席ほどあった。特に、中央に鎮座する山の形のパンが、一際目を引く。


「あらあら、メルラル姉妹と…お客人ね。」


「まとめないでください。」

「そんな人物はいません。」


「よろしくでござる。」


 穏やかそうな雰囲気のご婦人に案内されるがまま、真四角のテーブル席に座る。リンダの様子を見ると、少し小走りでパンコーナーへ向かい、目を引いた山型のパンを四つ、トレーに乗せて持ってきた。


「お紅茶も、すぐに出しますからね。」


 その山型のパンは、香ばしい匂いの他に、どこか甘い匂いがしていた。


「これが噴水パンなのです。ドミニオンの観光スポットの一つである、噴水を模したパンというわけです。」


「数ある噴水の中には、何故か小銭がたくさん入れられた噴水があるのですが、見つけたらラッキーと言われています。ここのパン屋が、その噴水の前で移動販売をしてたり、待ち合わせ場所になっていたりと、住民の中では、良いように使われているのです。」


 シスター姉妹の話を聞いていると、紅茶の匂いが漂い始め、「えっさ、ほっさ」と、声を出しながら、先程のご婦人が運んでくる。綺麗な赤色をした紅茶だった。


「リンダ殿、紅茶が来たでありますよ。待てをされた犬みたいになっているでござるが、これが品性Fでありますな。」


 …ちょっと待って。品性の話どこで聞いた?…言ってなくない?え?怖っ……パン美味しそう…


「いただきます。」


 リンダはパンに齧り付く。ふわふわのパン生地の中から、水のように蜜がこぼれ出した。啜りながら、パンと一緒に食べる。


「いつもの美味しさです。」


「定番の美味さなのです。」


 シスター姉妹は、蜜がこぼれないように、器用にパンを食べ進める。紅茶を飲む仕草も、どこか品がある。


「うん、とても美味しいでござる。手頃かつ、噴水の意味もわかりやすくて、良い商品でござるなぁ。」


 先程から対応してくれている、あのご婦人…もしや、僧侶トリマのお母さんでござるか? シスター兼パン屋ということでござろうか。…別に、僧侶の親がただのパン屋でも、何も問題ないでござるな。


「リンダ殿、話を聞くチャンス…泣いてる?」


「うみゃいぃ…ふかふかのパンも、甘い蜜も、蜜が染み込んだところも…全部美味い…。」


 …ここは拙者が頑張るでござる。


「ご婦人、もしや、僧侶トリマのお母様でござるか?」


「あら〜、そうよ〜。娘が有名だと大変ね〜。」


 どこか、他人事だ。


「僧侶トリマは、どのようなお子さんだったのでござるか?」


「そうね〜…毎日教会でお祈りする変な子供だったわ〜。普通はお祈りより、遊ぶ方が楽しいと思うのだけどぉ。」


 なるほどでござるな。信仰心が強さに繋がっているというのは、ありそうな話でありますな。


「祈れば全て解決するって、口癖みたいに言ってたわねぇ。そんなことないのに、あの子ったら。」


「…どういうことでござるか?お祈りは大切なのでは?」


「そうじゃないのよぉ。お祈りは大事だけど、解決するのは自分でしょ〜?神様は見守ってくれているだけで、頼もしいのよ〜。」


 そんなものなのでござろうか。神は全てを救う!みたいなイメージがあるで、ござるが…。


「僧侶トリマについて知りたいのですか?それなら、教会の図書室に行くでござる。」


「ドミニオンの歴史についても、知りたいようですね。それなら、教会の図書室に行くでござる。」


 心の距離が近づいた気がするでござるな。


「よーっし!じゃあ、教会へれっつらごー!!」


「うわっ、突然元気になるでござるな!」


「なるでござる。」

「なるでござる。」


 トリマのパンを後にして、聳え立つ教会へ向かう。リンダは、いつのまにか巨大な紙袋を抱えていた。しょっぱいパンと、甘いパンが一緒に入っていても、気にしないタイプ。

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