12:リンダとシスター姉妹
砂まみれのまま、森林の中をゆっくりと歩く。魔物組用のシェルターに最適な場所を探していた。
「ここがいいんじゃない?」
リンダが指差した場所は大木の根元。大きな根が張っているため、周囲には少しのスペースがある。
「なるほど、冴えてますな!ここにするでござるか?」
「ああ、構わない。」
草木が折り重なり、自然に溶け込んだシェルターが出来上がる。遠くからでも、近くでも、ここにあると言われてもわからない。触ってみると…うん、草!
「じゃ、ゆっくりしてるけどよー、早めに帰ってきてくれよ?」
「もっちろんよ、せんとーに入って、観光と、買い物を済ましたら、お土産も選ぶわ!」
「あ゛ーも゛ー、楽しんでこい。…中は結構広いな。食料は届けてくれるんだろ?」
「その通りでござる。飽きたら模様替えも可能ですぞ!植物達の意思によりますが。」
返事をするかのように、草木が揺れる。
「自然に守られてるって…」
「す、すごい、安心感…」
暇つぶしに持ってきたボードゲームを渡して、ドミニオンへ向かう。ドダイン達と別れた後、草の絨毯は懲り懲りなので、森林を歩いていた。多足の虫が多い。地面を這うもの、木の枝に絡まるもの。虫は嫌いだけど、襲ってくる様子が全くない。人間を気にせずに動き回ることはわかる。しかし、私達が歩く道を邪魔しないように動いている。そんな気がしてならない。
「ねぇ、大造。虫とかの意思はわからないんだよね?」
目線?…動物だ。鹿とか兎とか、やっぱり見てくるだけだ。
「不思議でござるよね。あんな森の中に畑作っても、虫や動物に食べられたり、荒らされたりしたことないでござるよ。」
やっぱりスキルには謎が多い。魔法と違って固有の能力なのは間違いない。大造が言ってたから。でも、魔法も適正がなきゃ覚えられないし、適正があっても、やたらめったら覚えられるなんてものでもない…'カコイゾ'にとって、能力はどのような存在か、それがドミニオンに行けばわかる。と、思う。宗教には歴史がある。歴史には生きる知恵がある。
「でも、サンドワームみたいな魔物には、襲われたでござろう?つまり、自然が守ってくれるのも限度があって…それに…」
「…それに?」
「…当たり前のことでござるが、常に自然が優位な立場にいて、拙者はあやかっているだけなのでありますよ。」
「なるほど?」
友達みたいな関係なのに、優位とか立場なんてものがあるのか…今思えば異世界の迷惑者も、私のこと吸い込むなぁ。独立した能力がスキルってことかな。いや、独立したスキルもあると、考えた方がいいか。異世界土産の本だと、勝手に喋る能力があるらしい。ちょっと楽しそう。
「あ、ドミニオンが見えたでござる。」
「…すっげー……」
いつになく真面目に考えていたことが全て吹っ飛んだ。アベル王国とは違う。神聖さがそこにはあった。中央に聳え立つ教会と、流れる水の音、響く鐘。近くに砂漠があるとは思えないほど、水が豊かな国のようだ。
「行こう!早く行こう!!」
「リンダ殿、そんな不用心に…」
すごいすごーい!異世界っぽい!教会なんて初めて見た!あのおっきな鐘とか、頼んだら使わせてくれるかな。やってみたい!あれで、町だなんて…統治する国はどんな感じなんだろ?あれより巨大な教会があるとか?わっくわっく!
「わっくわっくわっ!?」
「止まりなさい!」
「なぜ毒死の森から出てきた!何者だ!」
修道服を着たシスターが、先端が二つに分かれた棒をリンダに突きつける。二人とも金髪で青眼、華奢で小さい、今すぐ抱きしめたくなるほど可愛い。二人いるなら、一人くらい持って帰ってもいいかなぁ。
「早く答えなさい!」
「そこの男も動くな!」
「リンダ殿を離すでござる!」
「ご、ござっ、なんなんですか貴方!」
「ふざけているのですか貴方!」
大造が走ってくる。背後は森林だ。今の大造は、勇者の一撃すらも凌ぐ。負けなしなのだ!
「離すと言っているのでござるよー!」
「雷の祈り」
草原大造の頭上は、雲一つない晴天が広がっている。
「あばばばばばばばば!」
しかし、草原は感電していた。なんて間抜けなポーズで痺れているのだろう。
「大造!!」
「流石ですお姉様。」
「当たり前です妹よ。」
魔法を使ったつり目が姉、タレ目が妹。
「攻撃したわね…」
「あの男には攻撃の意思があった。」
「当然の報いを受けた。」
「だからって、ひどいじゃない。」
「ひどくない。当たり前。投降しろ。」
「貴方からは攻撃の意思を感じない。投降がベスト。」
ふふっ…ナメてもらっちゃ困るのよ…
「攻撃の意思…そうね。でも、何をもって攻撃と判断するの?害を与えるかどうか?貴方達も防衛するために攻撃する。その違いはなに?私は、信頼だと思うの。貴方は大造を知らないから、私を守ろうとする意思が、攻撃だと感じてしまう。でも、大造は女の子を怪我させるようなことはしない。」
「な、なにを言ってやがるのです。」
「い、意思が…なんです?」
「つまり、互いを知り、信頼することができれば、攻撃の意思を否定し、私達を迎え入れてくれるよね。貴方達は、毒死の森から出てきたと言った。言葉から想像するに、毒を持った生き物がたくさんいる森じゃないの?…そこで、もう一度考えてみようよ。攻撃の意思を感じなければ、攻撃という防衛もしなくていいわよね。」
大造ぉ〜…いつまで痺れてんの!?早く起きなさいよ!時間稼ぎも限界があるってぇ。
「毒死の森を生きて出てきた。毒を持つ生き物は私達を襲わなかった。この意味がわかるかしら。」
「わ、わからない。わかりますか妹よ。」
「わかりませんお姉様。」
「襲う必要がなかったのよ。攻撃の意思を全く感じなかった証明にならない?毒死の森を生きて出られるほどに、不殺主義であり、自然が認めた安全な人間ということにならないかしら!」
…我ながらテキトーな話ね。誰が納得するのよ、ほんと。んーっで、話終わっちゃったけど、大造は…寝てる、と。あらあら、絶対絶命ったらありゃしない。
「確かに…全くもってその通りです…」
「防衛隊として恥ずかしいです…」
うえええぇぇ〜…大丈夫この子達!悪い大人に騙されないかしら。不安よ!お姉ちゃんは不安!
「し、信じてくれたようね。よかったわ…それじゃ、もう行くね。」
バレる前にさっさと退散さいさ〜ん。
「待つのです。迷惑をかけました。案内します。」
「そうです。お連れさまもお連れします。」
シスターの姉妹は大造を二人で背負う。まるで荷物かのように持たれる大造は、まだ起きない。
「私はメルモルです。チャームポイントは可愛いつり目です。」
「私はメーラルです。チャームポイントは街で一番可愛いタレ目です。」
「えっと…お姉ちゃんのメルモルと妹ちゃんのメーラルね。私はリンダ・オ・ミミラルよ。」
「リンダさん。これから、よろしくお願いします。国で一番可愛いつり目のメルモルです。」
「リンダさん。こちらこそ、よろしくお願いします。世界で一番可愛いタレ目のメーラルです。」
逃げられないようで、ドミニオンまで同行することとなった。…もしかして、このままこの子達に、話を聞けばいいのでは?大造が起きる前に仕事を終わらせる私…うん、実にクレバーじゃない。
「ねぇ、聞きたいことがあるんだけど。」
「違います、リンダさん。メーラルは嘘つきです。世界で一番チャーミングなのは、私のつり目です。」
「騙されないでください、リンダさん。メルモルは嘘つきです。世界で一番きゃわいいのは、私のタレ目です。」
うんうん、質問には答えてくれないタイプね。
「防衛隊のメインヒロインはメルモルです。」
「防衛隊のメインヒロインはメーラルです。」
大造を持っているため、シスター姉妹は縦に並びながら言い争う。持たれる荷物はぐわんぐわん。
「二人は防衛隊なのねぇ。なにから守ってるの?」
平和な世界で防衛隊。まぁ、いなくもないか。私達みたいなイレギュラーが、実際にいたわけだし。
「メルモルは嘘つきません。可愛くて強いメルモルは最強です。」
「メーラルは嘘つきません。可愛くて強いメーラルは無敵です。」
「うんうん、そうだねー。」
近くで見ると、アベル王国よりはちんまりかな。あ、門兵さんだ。通行税的なのいるかな。たぶん大造が持ってるけど、勝手に使っていいものか。特殊な硬貨とかあるならお土産にしたい。お父様が集めてたはず。
「おっ、やかまし姉妹。お客さんかい?」
「やかましくありません。可愛い防衛隊の一番星のメルモルです。」
「おしとやかなのです。可憐な防衛隊の一番星のメーラルです。」
なるほど、防衛隊だから門兵さんとも仲がいいのか。一緒に仕事したりするのかなぁ。
「自称防衛隊な。可愛いだけの姉妹がお前ら。」
自称…防衛隊……自称!?
「嘘つきーーーー!!!!」
「はっ!寝てたでござる!」
姉妹の嘘つきシスターと、通行税を払ってドミニオンに入る。冷静になると、気づくこともある。置いてきたドダイン達には…そこが毒死の森だってことは黙っておこう。