表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/40

11:リンダ全力疾走

 魔物の巣に帰って次の日、リンダ、草原、ドダイン、ドケイガー、ドグロクのむさ苦しいパーティは、僧侶トリマの故郷である宗教国家'ドミニオン'へ向かっていた。唯一神ドミニへの信仰が厚い国である。

 おかえり会の後、リンダが「善は急げよ!」と騒ぎ立て、次の日に出発することになった。魔物の巣から、僧侶トリマ、戦士メロンネ、盗人デッケイの順で故郷が近い。特に、メロンネとデッケイの村は近く、隣村というやつであった。両村から勇者が生まれたということで、村同士の仲が良い。

 魔物の巣から地上へ出る穴まで、草原のスキルで森と化していた。安全に地上に出ることもできて、穴から食料も届けてくれる。おかげで、巣にいる魔物に犠牲者は出ていない。


植物医師(Dr.N)!」


 樹海で植物の絨毯に乗り進む。速さと揺れで、気持ちが悪い。

 速いのは速いんだけど、大造は平気そうね。慣れているのかな。ドグロクなんて白目になっちゃってるのに…まっ、大丈夫か。ドダインもドケイガーも、必死な顔で耐えている。でも、大造は平気…植物医師…植物の意思…揺れていてわからなかったけど、大造の座ってるとこだけ揺れ少なくない?どうなの?試してみるかぁ。


「よいしょ…くっ、揺れすぎ…」


 草の絨毯を掴み、一歩一歩確かめて前に進む。


「よっこら…せっ」


 草原に背後から密着する。


「やっぱり!ここだけ揺れ少ないよ!忖度?それとも贔屓?なんなのー!」


「ちょっ、リンダ殿!?」


 草の絨毯が激しく揺れだす。木々はざわめき、五人を乗せたまま、急発進、急停車、回転を繰り返す。


「こここ困るでござるよー!」


「おおお落ち着け草原!」

「落ちる!それとも落ちてる途中?どっちなのー!」

「あ、ドグロクが落ちた。」

「あわ、わわ、あっ…」


 草の絨毯は解け、落下するドグロクを残し、前方に放り投げられる。


「なるほど、大造の動揺が植物に伝わるってこと?あ、動揺だから動いて揺れるってわけね!粋じゃない。」


「ちょっ、おまっ、冷静かっ!」


 リンダはたかを括っていた。落ちても植物達が受け止めてくれる。アトラクションみたいなものだと。

 現実は非情なり。放り投げられた先は、樹海の切れ目、着地点に広がるのは広大な砂漠である。


「うっそ〜」


 頭から砂漠に突き刺さる。


「もがっ!」

「ぐはっ!」

「ぎゃっ!」

「うおおおおぉぉ…」



「ひ、ひどい目にあった……大丈夫?皆んな…」


 植物達に優しく受け止められたドグロクが、樹海から出てくる。目の前には、上半身が砂漠に埋まった奇天烈な光景だった。


「…ぷふっ…」


「うおおい!笑いやがったなドグロク!」


「い、生きてた。」


 砂をかき分けて、脱出する。


「ぺっぺっ、口に砂はいったぁ」


「柔らかい砂で良かったでござる。」


「やっぱり疫病神だな。」


 地平線まで砂漠しかない。サボテンの一つも生えていない、砂の世界である。ドダイン、ドケイガー、ドグロクがいるのは、ここからの役目が大きい。戦力外のリンダと、戦力外になった草原大造の代わりに、比較的戦闘力があるドダインとドケイガー、風魔法が使えるドグロクが護衛する作戦だ。

 到着後、ドミニオンの近くには、森林があるため、町に入る時は、植物達のシェルターで魔物組は待機、リンダと草原が調査する流れとなる。


「靴に砂が入って気持ち悪い。」


「靴なんて脱いじまえ。」


「あのねぇ、ドケイガーみたいに皮が厚いわけじゃなーいーのー!火傷するでしょ。」


「ドミニオンに着いたら銭湯に入りたいでござるなぁ。」


「せんとー?」


「あぁ、風呂でござるよ。でっかい風呂に皆んなで入るんでござる。」


「ええ!?大造のえっち!」


「ちちち違いっ、違いますぞ!男女はももももちろん別でござりますゆえ、安心して欲しいでござる。」


「そっかー、あと五分くらいで着く?」


「今日中に着けばいいな。」


「そんなぁ〜」


 砂漠を歩く。固まった土地と違い、体力を多く消費する。草原が先にある植物を感じ取り、砂漠を最短で横断しているも、ゴールが見えていないと距離も長く感じてしまう。

 晴天。遮るものがない、直射の日光が身体に襲いかかる。砂漠にも反射するため、全身に日光が当たる。逃げ場所は無い。歩くたびに、何かわからない汁が出てくる。ドケイガーの影に隠れると、少しマシになった。


「植物って偉大ねぇ…」


「大切なものは…無くした時に気づく…ものですな…」


 異世界なめてたぁ…いくら水分補給しても、抜けてく量が優ってるぅ…無意味な水撒きしちゃってんよぉ。こんな平らな砂漠地帯なのに、もっこり丸い砂の山が見えるし。


「あれ登るってことぉ?」


「それは厳しいでありますな。死にますぞ。」


 迂回しながら進む…いや、あの山の間を縫っていくのがいいかなぁ。何個あるんだろうか、五つくらい?山山山山山。


「リンダ、あれ動いてないか?」


「ドダイン、山は動かないから山なのよ。」


「じゃー、動いたらなんなんだ?」


「動く山じゃない?」


「ほ、本当に動いてる。風魔法でし、調べたから。」


「どんな魔法でござるか?」


風向き調査(ウィンド・チェック)です。な、舐めた指でも代用できます。」


 ドグロクの渾身のギャグは、動く山によってかき消される。


ドゥオオオオオオオ!


 山はうねり、地中を掘りながら、こちらへ向かってくる。


「サンドワームでござる!!」

「走れ、走れぇぇええ!」

「ちょっと、砂漠じゃ護衛担当でしょー!」

「無理だ無理!山に勝てるヤツがいるのか?教えてくれよ!」

「やはり、自然は偉大でござるな。」

「あれは自然カウントでいいのか?」

「まぁ…自然と共生してるでござるゆえ…」

「じゃあ草原ぁ、俺らも自然ってことか?」

「し、自然の一部になった。」

「皆んな自然で、皆んないいでござる。」


「喋ってないで走れぇー!」


 ドダインの喝が入る。だらだらと歩いていたのが嘘みたいに、全力で走り抜ける。五匹のサンドワームが地鳴りを起こしながら、近づいてくる。水中にいるかのように、砂中を泳ぐサンドワームは人間の全力疾走の数倍は速い。


「た、大造?魔法も使えたよね、何とかならない?」


「樹海まで走ったら倒せますぞ。樹海まで襲ってきませんが。」


「助けてー!私の運Aぇー!」


 ドグロクが立ち止まり、両手を重ねてサンドワームに向ける。


「こ、ここは、ま、任せて…」


「無茶だドグロク!」


「風よ、集まり、抵抗せよ…風砲壁(ウィンド・バルーン)!」


 風が一点に集中し、球体の壁となり、前方に発射される。


ドゥオオオオオオ!!


 逃げるリンダ達の前に、六匹目のサンドワーム。そして、足下から七匹目のサンドワームが、砂塵を巻き上げて飛び上がる。

 リンダ達は上空へと吹き飛ばされ、宙を舞った。


「死んだ?」

「諦めんな馬鹿!」

「ドッピー…すまねぇ。」

「死んだ後は肥料にでござる。」


 落下はすぐに終わった。


「ご、ごめん。」


 ドグロクは魔法の発射と同時に打ち上げられ、掌の前には風砲壁(ウィンド・バルーン)が、何にも衝突せずに残っていた。そして、形を保てずに破裂する。集まった風は解放され、強風を巻き起こした。


「だああああああー!!」


 リンダは勇者に抱えられ、空を飛んだことを思い出した。サンドワームが飛び出した勢いと、それに乗った風は、長いこと五人を空中に放り出した。





「もがっ!?」


 砂をかき分けて脱出する。辺りを見渡すと、上半身が埋まった奇天烈オブジェが四つ。目の前には、目指していたドミニオンの周囲に広がる森林があった。


「運Aって、すげー…」


「もがもがもがー!(早く助けてくれ!)」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ