01:リンダの分かれ道
やっほー!私はリンダ・オ・ミミラル。このリナカ コザ王国の第一王女よ!一人っ子だから当たり前ね!…えー、ごほん、今日はこの「ペットボトルロケット」を紹介するわ。ペットボトルの中身は飲んじゃったんだけど、ああ!そうそう、ペットボトルっていうのはね!
「姫様!!タマコシ王がお呼びですぞぉおお!!」
木製の重厚な扉をタックルで破壊し、爺が突入してくる。
「ぎええええええええ!!!!」
なんでー?扉ぶっ壊す意味はー?
「姫様!叫んどる場合ですか!今すぐ王の間に来てくだされー!」
「ホヤ爺…ノック!ノックノックノックノックノックノック。」
ノックと口にする度、ホヤ爺の輝く頭部を、ペットボトルでリズミカルに叩く。
「これで覚えられたかしら。」
「おいたが過ぎますぞぉ〜。」
破壊された扉を踏みつけ、廊下へ出る。
「で、私は暇じゃ無いんだけど?」
小走りで綺麗に磨かれた廊下を進む。中途半端な位置に飾ってある花瓶には、コザ王国の名花であるヒマセンカが生けてある。黄色い小さな花が、いくつも咲いている。母様が好きな花だ。私も好き。
「お土産を振りながら、四角いものに話しかけてる姫様は楽しそうじゃった。」
「なぁーんで知ってるの!?どこから覗いてたの!?」
「急ぎますぞー、もう30分も待たせておりますゆえ。」
「待たせてる原因ホヤ爺ーーっ!!あと、全部聞かれてたーっ!」
王の間まで走る。メイドのザーフィーさんの掃除を邪魔し、庭師のコティルさんに手を振り、取り込んだ洗濯物を籠ごとひっくり返した。数多の犠牲を払い、王の間へ繋がる扉をーーー開けた!
「お父様!」
「やっべー、まじで世界滅ぶわ。」
お父様の世界滅ぶネタは聞き飽きた…が!、いつものとは違う。青ざめた顔で、額に汗を浮かばせている。右鼻からはギャグみたいな鼻水が揺れていた。私が底なし沼で、水面の上で沈まず走る方法を試していた時と同じ顔をしている。
「お父様……え?後ろに…何か…」
お父様の背後がおかしい。…空間が歪んでいた。
「今から!スキル:異世界の迷惑者の継承式を行うので、継承者リンダ・オ・ミミラルはよく聞くように…」
え?え?な、何が始まったの?
「スキル:異世界の迷惑者は、この最弱の世界において、異世界に助けを求めることを許可する力である!この力を使えば、数多の異世界に行くことができる。」
「知ってるけど…私はまだ王位継がないって言ってるじゃん!」
私はまだ、異世界のお土産で遊びながらダラダラ過ごしたい!無駄な演説もやりたくない!…一番は、あのキラキラしたパーティーに出席したくない…!なんか…こう、私の根底にある何かが拒否してる。思い出すだけで寒気がする。
「そうだ…母様は?」
「母さんはお茶しておる。」
「お茶ーー!母様そういうところあるよ!何かの危機なんでしょ?」
「何かの危機って笑。」
「お父様がアバウトだからでしょーー!!」
歪みは大きくなり…中から現れたのは、この世の限界を超えた美人であった。
「お前らまぢムカつくわー。早く話進めろし。」
見た目と合わない話し方をする女性は、小指で耳の穴をほじっている。
「「誰!?」」
「神でぇーす!…って、ジジイ!なんでテメェまで驚いてんだ。」
「だって、見るのは初めてだったんだもん。」
「もん。じゃねぇーよ。」
神と名乗ることに違和感を覚えられない。神々しさがある。なんか後光も差してきた。
「えっとー…神様がなんでここに?」
「あんな、お前らまぢムカつくんよ。」
「はぁ…」
神様は語り出す。
「お前らな、許可も取らずに武器パクるし、異世界の勇者拉致しやがって。めっちゃ怒られてんだわ。知らない世界の知らない神に、めっっっちゃ怒られてんだわ。お前誰!?ってなる我の気持ちわかる?」
ひょえーー…何も言い返せねー…
「ウケる笑。」
「ウケねーわ!」
「ウケないよ!」
神様との間にちょっとした和やかな空気……いや、怒ってるわ。眉間に皺寄ってますわ。
「だからよー、剥奪しようとも思ったんだけど、ぶっちゃけ滅びんじゃん。剥奪したら。なんなん!?なんで、この世界そんなに弱いの?」
「そんなに弱いのですか?」
恐る恐る手をあげて聞いてみる。
「よっっっわい!この世界で一番強い人間が、他の世界じゃ村人レベル。村人の……D!」
「がーーーーん…」
村人Aですら無いのか……いや、村人に差なんてあるかい!
「それで!我の寛大な心で、早く娘に継承しろって言ってんの!それで許してあげるから。別に、王位が何だかなんて、どーーーでもいいっつの。」
「…へ?じゃ、じゃあ!能力だけ貰って、生活はそのまんまってこと?」
「その通り。まぁ…時たま?クソジジイの代わりに異世界行ってこい。て、感じ。」
さ…最高じゃん!異世界観光しながら、怒られない程度に、チート武器借りてくればいいんでしょ?…決まった。私の人生が決まった。いよっ!薔薇色人生!!
「えっ、そんな、ちょっと、リンダちゃ
「はい!!!よろしくお願いします!!!!」
お父様。余計なことは喋らんよーに。ずっと思ってたんだよなぁ…お土産も嬉しいけど、自分の目で選んで決めたいもの。異世界ってやつも、見てみたいし。綺麗な魔法とかも!うひゃー。
「んじゃ、スキル:異世界の迷惑者は、念じれば使えっから。細かいことは、覚えるときに教えてもらえっぞ。じゃ、いくぞー。」
神様は右手の掌をジジっ…お父様に。左手の掌を私に向けた。手には淡い緑色の光が輝いている。とても…気持ちのいい…光…
「ほーん、じゃーら、ほほーい。」
ああ…適当な呪文も…なんだか神秘的に感じちゃう。
リンダは新しい力を得た万能感、これから起こるであろうことへの期待感に包まれ、夢うつつの中で目を閉じた。
ーーはーーい!それでは、スキル:異世界の迷惑者の説明をはっじめるよー!
メイド服を着た機械娘は、翡翠色の眼で私を見つめていた。
「えっと…よろしくお願いします?」
どこ?ここ…。真っ白な部屋に、所々、球体の何かが浮かんでいる。青っぽいのとか、緑色が多いけど…ほとんどグレーみたいなやつもある。
ーーよろしくね、リンダ様!ワタシは説明役のメイセッツだよ。
「あ、うん。よろしくね。…あー、でも、知ってるよ?」
ーーはい。元の異世界の迷惑者についての説明は十分でしょう。
「元の?……嫌な予感が…」
ーー当たりです!リンダ様の想像する能力とは変化しております!
「だ、だ…騙されたぁーーーー!!」
ーー神様が、如何に、他の神様に怒られない能力にするか考え、書き変えました!おニューの異世界の迷惑者に加えられたルールはこちら!
条件:異世界の勇者に勝利する。
成果:勇者を一時的に連れてこれる。
私は今日を忘れない。楽しみだったはずの異世界旅行が、何もできない私が'無理ゲー'に挑む…地獄旅行に変わった、今日、この日を…。
「おーい…リンダちゃーん?」
「…ふがっ!」
姫ともあろう私が、王の間の床で寝てしまっていたみたいだ。
「リンダちゃん。これ、見て。」
お父様が持っているものは、丸くて、透き通っていて…神様用と書かれた紙が貼り付けられていた。その水晶には、小さい頃に連れて行ってもらった花畑が映っていた。確か…馬車を乗り継いで、いろんな国に寄って…一ヶ月以上はかかったな…でも、綺麗だった。
「なに…これ…」
花畑は禍々しい化け物に踏み潰され、綺麗な姿は見る影もなかった。
「異世界行ってきて?おねがい♡」
水晶から音声が流れる。
「ヒャッハー!俺は魔王軍幹部のカマキラー様だ!人間全員皆殺しぃい!」
絶望する私の丸まった背中に、腰を下ろしたのは神様だった。腕を組み、足を組み、口を開く。
「ちなみに、こいつはコザ王国を1日で3回滅ぼせるほど強いぞ。」
「やっべー、まじで世界滅ぶわ。」