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衝撃の真実ぱーと2

 次の休み時間。あたしはトイレに行くついでに、その仲間とやらを探していた。

 と言っても、どうやって探せばいいのかしら?

 前世が何であったにしろ、今は人間だもん。(断言っ! あたしのこともあるので)。

 とりあえず、適当な人に「ゴキブリ好きですか?」と聞いてみるのは……

 ――って、変な人に思われるに決まってる(クラス以外の人にも)。しかも好きって言う人がいたら、それはそれで嫌よっ。

 ならば作戦その2、姫宮さんを見習って、アレの募集をする。

 できるかぁぁぁ! それにこれは、ある程度助けてくれる人の目星が付いていないと無理っす。第一、あたしは姫じゃないし。

「よく考えたら、あたしの仲間の前世って、ゴキブリじゃない可能性もあるのよね……」

 考えが独り言で出る。これは話し相手の友達がいなかったせいで身に付いてしまった悪い癖だ。……そういえば、近頃はよく姫宮さんと喋っているなぁ。のどが痛いもん、つっこみ過ぎで。今までこんなことなかったのに。

 お約束で考えると、仲間はゴキブリ以外の方がありえそうだ。ただし、そこはかとなく共通点があるやつ。で、思いついたのは。

 ――便所コオロギ?

 いやゃぁぁぁぁ!

 あたしは心の中で大絶叫。例え前世がそうだというだけでも、絶対に話したくないし会いたくもないっ。

「……って、あたしなんか、ゴキブリなんじゃない……」

 ――前世で人を差別してはいけません、と心から誓った日でした。

 でもやっぱり便所コオロギじゃ嫌だから、別の物を想像しよう。

 ナメクジ? 毛虫? ムカデ? 蛾?

 しくしく……何か、ろくなモノがいない……。

 ま、ゴキブリの仲間だもんねぇ。これで仲間の方が格好良い虫だったら、あたしゃ脱退するぞ(でも格好良い虫って、何だろ?)。

 それはともかく、どうやって仲間かどうか見分ければ良いんだろう。姫宮さんは、あたしが、その……あれだって分かったみたいだけど。

 う〜ん……例えば、それっぽい名前なんてありがちだよね。

 今まで気付かなかったけど「黒羽ひかり」なんて名前、いかにもアレだし。ってことは、便所コオロギだったら名字は「御手洗さん」もしくは「興梠さん」さん。下の名前は……うーん。

 ドンッ。

 考え事をして下向きながら歩いていたら、誰かにぶつかってしまった。

「あ、す、すいませんっ」

 見上げる。ぶつかった相手は男子生徒だった。切れ目の瞳で、背は男子としてはそれほど高くないけど、見た目すらっとした肢体をしていて、けっこう格好いい。雰囲気から言って、上級生かもしれない。

 こ、これって……お約束だと……

 思わず廊下でぶつかる男女。そして二人は恋に落ち――

「……ゴキブリ」

 男の人がぽつりと言った台詞に、あたしは硬直した。

 はからずも抱かれる形になってしまい、あたしは離れようと体を動かす。あたしの跳ねた前髪が男の人の顔に触れる。その瞬間――

「……猫?」

 何かがピンと来た。あたしの口からそんな言葉が洩れる。

 みつめ合う、男の人とあたし。そして二人は恋に落ちるのよ――じゃなくてっ、

「あ、あの、もしかして前世って覚えてます?」

 間違っていたら、電波びんびんな言葉。でも、あたしの予想は当たっていたみたいだ。

「そっか……じゃあ、君がゴキブリの」

 ううっ……美形の男の人から、ゴキブリ呼ばわり……

 それはともかく、分かったのだ。この人とは前に会ったような気がする。そして彼が猫と関係していたような……おぼろげな感覚だったけど、間違いじゃなかったみたい。

「俺の名前は、猫野珠人、二年生。ご想像の通り、前世で猫の力を持った戦士だよ。よろしく」

「あ、はい。あたしは黒羽ひかり……前世は……えっととにかくよろしくお願いします」

 ああ、そんな言葉、女の子の口から言えないよぉ(女の子関係ないけど)。

「こちらこそ」

 彼が笑う。きらーんと八重歯が光る。

 職場恋愛。何ていう言葉があたしの中で浮かんだりする。

「ところで、君は『姫』を知っているのかな?」

「あ、姫宮さんのことですね。はい。同じクラスなんです。彼女に言われて、変な事実に気付かされちゃったんだけど……」

「はは。良かったら、俺にも紹介してくれない?」

「はい。もちろんです。えっと……」

「それじゃ、放課後に、目立たないところがいいな。旧体育館裏で、いいかな?」

「は、はい」

 にっこり手を振って、猫野先輩は去っていった。

 う〜ん、いい人だねぇ。しっかりしているし。逆にあたしの立場がないかもしれないけど、ない方が良いもんね♪ それに、もしかしたら……むふふいやぁん……なーんてね。

 さてと、トイレに行こっーと。


 教室に戻るなり、さっそく姫宮さんに新たな仲間のことを報告した。

「……猫、ですか。ゴキブリとは天と地の差ですね」

 ううっ……気にしていることを。

「しかし、『猫』の戦士がいたかどうか、記憶にありません。勘違いなのではないでしょうか。ゴキブリとあまり関係ありませんし」

「ゴキブリはともかく、あたしだって仲間とかそういう記憶はないよ。でも確かに『猫』って感じはしたの。それに姫宮さんのことだって知っていたよ」

 姫宮さんはなぜか乗り気でない。それがなんだか癪に障った。

 せっかく仲間を見つけて来たんだから、もっと喜んでくれたり、褒めてくれたっていいのに。なんか、働きを無視されたって感じ。

 ――って、すっかり姫宮さんの家来になっているぞ……あたし。

 別の意味で落ちこんでしまったあたしを見て勘違いしたのか、取り繕うように姫宮さんが言った。

「まぁ、百聞は一見にしかず、ですね。一応会ってみましょう」


 放課後。風物詩の新入生部活勧誘を潜り抜けながら、あたしと姫宮さんは、指定された旧体育館に向かった。入学式で使った新館があり、今は改築中の建物は、当然部活動での使用もなく、工事も休みでひっそりしていた。

 人に聞かれたり、見られたくない話をするにはうってつけの場所だ。さすが上級生。いいスポットを知っていますねぇ。今度はプライベートで待ち合わせがしたいなぁ……なんちゃって。

 田舎なので校内の敷地は広い。体育館裏といってもテニスコートくらいの大きさがある。

 猫野先輩がいた。学校を囲むフェンスに背中から寄りかかっていた。

 あたしが手を振ると、彼も小さく手を振って応えた。

「……あの人がそうなのですか。てっきり女性だと思っていました。猫ですし」

「まぁイメージ的にはそうかもしれないけど。……じゃあゴキブリって、女の子?」

「それもそうですね……」

 あたしの意見に姫宮さんも納得したみたい。それはともかく、姫宮さんは猫野先輩を見ても、びびっとは来ていないみたい。

 あたしたちが近づくと、彼はフェンスから身体を離した。

「よく来てくれたね。……そっちの娘が『姫』だね。ふっふっふ……確かにそうだ……」

 なんか様子が変。お姫様を前にした家来の態度じゃないよね。

「なるほど……そういうことでしたか」

 姫宮さんがあたしを庇うように、前に出る。えっ、えっ? 一体なんなの?

 猫野先輩がゆっくりと歩み寄ってくる。特徴の切れ長の瞳が、さらに細くなる。ちょっと怖い。

「……ひかりさん。彼は敵です。王宮に敵対する、反体制の戦士。ふふ。ですから『猫』みたいな、外道の力なのですね」

 不敵に笑う姫宮さん。

「良くわかんないんだけど……ゴキブリよりはいいと思う――って、敵ぃ?」

 あたしがびっくりして叫ぶと、それに合わせて、彼はびしっとこちらを指さす。

「その通りっ! にっくき帝国の皇女め。貴様の前世での所業、領民から税金を搾り取って豪遊! 意味もなく企む世界征服! 無益な戦争を繰り返し! 人体実験! 数えきれない悪行の数々、断じて許しがたしっ!」

「……そんなことしてたの?」

「さ、さぁ、全く記憶にござーませんがぁ」

 目を合わせようとしないうえ、声も上擦っている。なんか答弁している政治家の顔を思い浮かべてしまった。

「……」

 あたしのお姫様のイメージって、「あぁれぇぇ」なんて叫んで「およよ」と泣く、刺客に怯えている可憐な少女。だったのに……それが、やりたい放題やって、その挙句叛乱を起こされて命を狙われている皇女って……しかも帝国。なんかイメージが悪いっ。

 ――まぁ現世の姫宮さんそっくり、って言ってしまえばそれまでだけど。

「前世の記憶を取り戻して以来、ずっと貴様のことを探していた。そして今日、そっちのゴキブリ少女と出会った」

 ……ううっ、その呼び方やめてほしい……

「記憶の中で、君が皇女の家来だったってことは覚えていた。逆に、君の記憶はまだあいまいのようだったから、利用させてもらったんだ。なんとなく裏切ってくれそうな気がしたし」

「…………」

 確かに、真相も聞いちゃったし、そうしようかなぁ? なんて思いつつふと気づく。

「あれ? じゃあ、今朝シャーペン攻撃したのって、猫野先輩じゃないの?」

 彼が姫宮さんを見つけたのは今さっきな訳だし。あたしの視線に気付いたのか、姫宮さんが言った。

「あれは狂言です。部下の士気を高めるための、心優しい心遣いです」

 こ、この人って……

 あたしがじとーと彼女を見つめていると、猫野先輩が「成敗してくれるっ」と叫んで、姫宮さんに飛びかかってきた! 


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