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募集しちゃいます

「う〜ん……」

 パタンっ。

 帰宅するなり、あたしは自室のベッドの上に倒れこんだ。あの戦慄の入学式から二日。これがすっかり日課となってしまった。

 姫宮さんの話によると、彼女の前世は異世界のお姫様だった。でもって自分は、その彼女に使える家来その一。ちなみに女性だったらしい。前世の姫宮さんはお姫様だけあって敵に狙われる立場でもあった。以上。

 この他にも、どこどこの国のお姫さまだとか、敵やあたしの名前が何々だか言っていたような気がするけど、馬耳東風していたあたしの頭の中には入っていない。もちろん、今のあたしに、前世のそんな記憶はない。

 入学式から二日。学校でほとんどの時間、仕官の勧誘(?)を受けている。

 朝学校に行って下駄箱を見ると、便箋が。もしやこれがあの噂に聞くラブレターかと思えば、姫宮さんの「仕官の勧め」。休み時間、「手相を見て差し上げましょう」と姫宮さんに言われて、手を差し出したら、「私に仕える運命が出ていますね」。トイレに入っていると、姫宮さんが個室の上から顔を出して、「今仕官すると、洩れなくトイレットペーパー一個プレゼント」。――そんな心労に耐えられず、あたしが机に突っ伏して居眠りしていると、「あなたはだんだん仕えたくな〜る」と、姫宮さんが耳元で催眠術、などなど。

 それにいちいちつっこみを入れたり、反応しているうちに、あたしはすっかり、クラスの中で変な人という立場になってしまった。言うまでもないけれど、姫宮さんも同様だ。

 けれど実は、少し嬉しかったりもする。

 暗くて大人しい人だった中学時代は友達もいなかった。そんなあたしを気遣って、色々話し掛けてくれる人はいたけど、それは腫れ物に触るような態度で、それがかえって、友達いないことを強調されているみたいで嫌だった。

 でも変な人になってしまった今は、変な目で見られることもあるけど、話し掛けてくる人はいて、その態度は不思議と好意的だ。もともと一人で突拍子もないことを妄想して浸っている人間だったので、「変な人」の資質はあったのかもしれない(それについては微妙)。

 まぁそんなわけで、姫宮さんにちょっとだけ、感謝している(でも士官は嫌)。

「だって、前世では主従関係があったかもしれないけど、今は現世だもん。そんな義理なんてないよね」

 けれど気になることもある。あたしは姫宮さんの家来兼護衛だったらしいのだ。そして、高貴な血を引く姫宮さんは色んな敵に狙われている。そのため、あたしに守ってもらいたいみたいなのだ。

 でも今のあたしには、彼女の命を狙うような輩と戦う力なんてない。走るのにちょっとだけ自信があるくらい。それだけじゃ守ることなんてできやしない。

 だからと言って、あたしが姫宮さんから逃げまわっているうちに、もし彼女がその敵とやらに殺されたりしたら? でも……

「はぁ……」

 考えているうちに気分が重くなる。いつもの悪い癖。こんなときは気分転換が一番っ。

 あたしはかばんを開けて、真新しい高校の教科書にでも目を通すことにした。教科書を取り出すと、かばんの中に身の覚えのない便箋が入っていることに気付いた。

 ……またですか。

 今朝、下駄箱に入っていたのと同じ物。つまり姫宮さんの仕業と言うことだ。

 捨てちゃおうかな、って思ったけど、取り出して一応中を確かめる。予想通り、一枚の紙が入っていた。

 横書きに「見てね♪」と違和感ばりばりの可愛い文字で書かれていて、その下に、なにやら横文字が。

「これって……URL、だよね」

 ネットのアドレスだ。姫宮さんのブログかホームページかしら。

 メル友いなけりゃチャットもしないけど、一応両親のお古のパソコンが、自分のものとして部屋に置いてある。久しぶりに立ち上げて、アドレスバーに、そのURLを打ち込んでみる。

 いきなり画面が暗くなって、

「って、なによっ、これは!」

 あたしは思わず一人で叫んでしまった。

 やたら広告が多いそのサイト。その全てが何やら卑猥。【巨乳大好き】とか【小○生ひかり○一歳の××が】とか。けばけばしくて、やたら女性の裸が目立つ。

 これぞ噂に聞くエロサイトに違いない(そう言えばアドレスに「ero」なんて書かれてもいた)。十八歳未満お断りの世界。って、あたしは十五歳よっ。

「……。姫宮さんって……」

 怒るのを通り越して、呆れてしまった。何を考えているのだろう。もしかして、おちょくられてる? 

「けどまぁ……せっかくだし……」

 あたしはちょっとドキドキしながら、少しだけそのサイトを覗いて見ることにした。男の子と話したことなんて、ここ一生のうち数えるほどしかないけど、あたしだって健全な女の子。ちょっとぐらいは興味があるもん。

「えっと……『貴女の欲望をかなえます』……?」 

 掲示板みたい。あたしはパソコンのキーを下に入れて画面を動かして……見なければよかったと、心から後悔した。


 めちゃくちゃにしてください  投稿者:姫宮綾乃  投稿日:4月9日 23時40分12秒

 今春、入学したばかりの女子校生一●歳です。昔の知り合いが、私のことを無視して、近頃寂しいのです。だからヤケになって、私のバージンを差し上げたいと思います。明日の夜十時、×××で待っています……


「だぁぁぁ!」

 思わず叫んでしまった。目の前にある物がデリケートなパソコンじゃなかったら、迷わずパンチを入れていただろう。

 昔の知り合いって、あたしのこと? 確かに無視したりもしたけど、それだけで何で、よりによって……その……あれなのよぉッ! しかもこんなふうに書かれたら、まるで、あたしが悪いみたいじゃないっ!

 日付けは昨日。明日の夜十時とは、つまり今夜のこと。場所は、家から自転車で行って五分も掛からないところ。近所だ。

 URLのメモを渡し、しかも場所をあたしの家の近所に指定した(どうしてうちの住所を知っているのか分からないけど)と言うことは、あたしに助けに行けということだろう。でも、敵が違うでしょぉっ。しかも募集してるしぃっ!

「……どうしよ?」

 馬鹿なことするな、と掲示板に書き込むことはできるけど、見てくれるとは限らない。電話番号・メルアドは分からない。もちろん彼女の家もどこにあるのか知らない。

「……仕方ないか」

 あたしは大きくため息をついて、パソコンを終了させた。制服を脱いで、動きやすい服装に着替えた。


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