後編(こうへん)
次の日、
少し雪が降っていたけど、今日も雪の魔法使いを探しに行くんだ!
ボクは家を飛び出して、昨日探した方とは反対側に走った。
─ こっちには1人で行ったことなかったけど、おばあちゃん家がある方だから大丈夫!
道には、たくさんのお家が並んでいる。
広いお庭には雪だるまがあるけれど、ボコボコしてるから雪の魔法使いが作ったものじゃない。
─ どこかな?
空き地にもいない。
細い道にもいない。
─ ……早く会いたいな。
ずっと歩いて来たけど、雪の魔法使いは見つからない。
だんだん、雪と風が強くなってきた。
─ 急がなきゃ。見つけられなくなっちゃう。
そう思って探していた時に、ふと気づいた。
─ ……ここ、どこだろう?
気がついたら、見た事のない道だった。
おばあちゃん家の近くじゃない。
ボクは探しているうちに迷子になってしまったんだ。
─ どっちに行ったら良いんだろう?
さっきよりずっと暗くなった知らない道を、分からないまま歩いて行く。
進んでも進んでも、どんどん知らない場所になっていって、不安で泣きそうになっていたその時、
小さな明かりを見つけた。
ボクは、明かりの方に全力で走った。
段々明かりが強くなっていく。
細い道の先は、広い空き地だった。
─ おばあちゃん家の側の空き地だ……!
「坊や、こんな所でどうしたの?」
知らないおじちゃんがランタンを持ちながら言った。
他にも何人も大人の人がいて、そしてみんな何故か雪かき用のスコップを持っていた。
足元には、雪で出来たきれいなフクロウ。
─ 雪の魔法使いだ!
「お家どこかわかる?」
おじちゃんの言葉に、ボクは首を縦にふった。
おばあちゃん家からの帰り道は知ってる。ちゃんと家に帰れる。
「おじちゃん達は、雪の魔法使いですか?」
「魔法使い?」
おじちゃんは、そう言って少し考えた後に笑い出した。
「魔法使いだって」
「良いじゃないか。どうする?」
「そうだな……さっきまで微妙な天気だったけど、今なら大丈夫か」
大人の人だけで話をした後に、ランタンの明かりを消したおじちゃんが、ボクに話しかけた。
「坊やも魔法使いになってみるかい?」
ボクは、大きく頷いた。
もう、雪は止んでいる。
「そこを平にするんだ。そうそう!上手じゃないか」
おじちゃん達に教えてもらいながら、ボクはスコップやヘラで雪のうさぎを作っていた。
中々きれいに出来なくて、となりを見るとおじちゃんがあっという間に雪のライオンを作っていた。
─ すごい……。
ボクもきれいなものを作りたくて、一生懸命がんばった。
そして、とても時間が掛かったけど、きれいな雪のうさぎが出来た。
おじちゃん達のに比べると、ちょっと下手だけど。それでも、とても楽しかった。
「きれいに出来たな!」
「おじちゃん、ありがとう!」
ボクがお礼を言うと、おじちゃん達は嬉しそうに笑っていた。
「あらあら、きれいに出来たねぇ」
振り向くと、お盆を持ったおばちゃんが立っていた。
「寒かっただろう?ココアをあげよう」
「おばちゃん、ありがとう!」
紙コップに入ったココアをもらった。
ココアは、家で飲むやつよりずっと甘くて、美味しくて、
「これも魔法?」
おばちゃんはにっこり笑いながら、
「そうだよ。坊やの周りにはたくさんの『魔法使い』がいて、色んな人のために頑張ってるんだよ」
と言った。
─ もっとたくさんの魔法使いがいるんだ……!
─ ボクも、こんな魔法が使えるようになりたいな……。
「ボクも、いつか『魔法使い』になれるかな?」
─ 誰かを笑顔に出来る。そんな魔法使いに……。
そう言ったボクに、おばちゃんもおじちゃん達も笑顔で頷いてくれた。
あれから、両手で数え切れないくらいの時間が流れた。
その間に、たくさんの魔法使いに会った。
良いことも悪いことも、たくさんあった。
ボクの得意なことや苦手なことも少しづつ分かってきた。
そして、ボクは大人になった。
小さな喫茶店で、毎日一生懸命働いている。
「おじちゃん、ココアください!」
カウンターの向こうには、小さな女の子とその子のお母さん。
「はい」
ココアを入れて、ミルクをゆっくり形を整えながら入れていく。
作ったココアを小さな女の子に手渡すと、女の子はすぐに「かわいい!!」と言った。
ココアには、ミルクでウサギの絵が書いてあった。
女の子は目をきらきらさせながら、嬉しそうに笑っている。
女の子のお母さんも笑っている。
ボクは雪が好きだ。
雪が降るたびに、あの日の事を思い出す。
ボクは、雪の魔法使いにはなれなかったけど、おじちゃん達みたいな魔法使いになれただろうか?
さいごまでお読みいただきありがとうございます。