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第5話 改変された歴史

「……え?」


 領主が吐いたセリフに思わず頭がフリーズするオレ。

 捕えろ? 誰を? オレを? 誰がそんなことを? 『四聖皇』? それって、つまり……?


斑鳩いかるが真人まさと。最後に確認しておきますが、それがあなたの名前で合っていますね?」


 そう確認を取る領主であったが、オレはそれには返事できなかった。

 だが、そんなオレの確認を取ることなく領主は告げる。


「まあ、こちらの兵士があなたからの手紙を見てすでに確信しております。そこには聖皇教における大罪人の名が書かれていたことが」


 大罪人? それはオレのことなのか?

 わけがわからないまま混乱するオレに領主は迷うことなく告げた。


「捕えよ。最悪、殺しても構わない」


「うおおおおおおおおおおお!!」


 領主のその宣言に反応するように周囲にいた数十人を越す兵士が襲いかかる。

 だが、オレはそれらの攻撃を即座に躱しながら領主へと問う。


「どういうことだ!? なんでオレを捕えろなんてそんな命令が!」


「さあ、私は知りませんよ。ただ百年以上も前から伝えられているのです。『四聖皇』様よりあなたが現れたら捕えろと、最悪殺しても構わないとね」


「……ッ!」


 領主のその言葉にオレは頭の中が熱くなるのが感じられた。

 本当にそれを『四聖皇』が――湊達が命令したというのか?

 あの、いつも一緒にオレといてくれた親友。幼馴染の三人。

 湊、花澄、壮一。彼らが本当に……?


『真人には本当に感謝してるんだよ。オレ、金髪で子供の頃、よくそれでいじられてさ……。けど、真人だけは変わらずにオレや花澄と一緒にいてくれただろう? オレがこうしていられるのは全部、真人のおかげなんだ。だから、誰になんと言われようとオレの一番の親友はお前だぜ、真人』


『あ、あのね。真人さん。こ、これ……ば、バレンタイン……じゃなくて! その、普段色々お世話になってるからそのお礼で! べ、別に好きとかそういうのじゃなくって……い、いや! 好きだよ! 真人さんのこと、私好きだよ! ああ、じゃなくって! も、もうー! からかわないでよー!』


『真人殿。何をそんなに悩んでいるでござるか? ん、拙者と同じチームになったのに自分のせいで今日の試合に負けて申し訳ない? はははは! 真人殿は奇妙なことを気にするでござるなー! そんなこと全然ないでござるよ。むしろ、拙者はうまい味方よりも仲の良い友人とスポーツをした方が断然楽しいでござる。真人殿も気にせず、また一緒に拙者と遊んでくだされ!』


 思い出されるのはそんな地球にいた頃、共に過ごした幸せな記憶。

 どんな時でもオレに優しくしてくれた三人。

 その三人がたとえ、どんな間違いであってもオレを捕えろとか、ましてや殺しても構わないなどと言うはずが絶対に、ないッ!!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


 オレは思いの丈を爆発するように吠える。

 同時にオレに向かって飛びかかってきた連中に迷うことなく拳を突き出す。

 瞬間、オレの拳から放たれた空気がまるで大砲のように正面にいた兵士達数人を壁まで吹き飛ばし、その体をめり込ませた。


「がッ!?」


「なッ!?」


 オレの一撃に驚く周囲の兵士達。

 だが、それを見ていた領主は慌てたように叫ぶ。


「ひ、怯むな! いいから取り押さえろ! そんな小僧など数で圧倒すればあっという間だ!」


 領主の命令に引き下がれないのか周囲にいた残る兵士が一気に駆け出す。

 だが、オレは静かに深呼吸をするとその場で一回転をするように足を回す。


「ふっ!!」


「ぐあっ!!」

「があっ!!」

「ぎゃあ!!」

「ぐげっ!!」


 オレの回し蹴りに巻き込まれる兵士達。オレはそのまま数十人近い兵士をドミノのように倒し、最後にひときわ強く蹴り上げると兵士達、全員壁に激突し気を失う。

 そんな光景を唖然と見つめていた領主の元にオレはゆっくりと近づく。


「ひいッ!?」


「……答えろ。本当に『四聖皇』が……湊達がオレを殺していいなんて言ったのか?」


「そ、それは……」


「答えろ!!」


「ひいいいいいいいい!!」


 オレが一喝すると領主は腰を抜かし、その場に座り込む。


「わ、私は何も知りません! ただ聖皇教よりの教えで百年以上前からあなたの名前と大罪人の名を名乗る者が現れれば即刻捕らえるか、それが不可能なら殺せと教典にも書かれていまして……!」


「教典?」


「こ、これです! これが聖皇教の教典です!」


 そう言って領主は懐よりひときわ分厚い本を取り出す。それはさながら聖書と呼ばれるものに似ていた。

 オレはその書物を手に取り、ペラペラと中身を確認する。


「…………」


 中に書かれているのはいわゆる聖書お決まりの文句。

 この世界の成り立ちがどうの、たまに『四聖皇』と呼ばれる存在がいかに崇高で素晴らしいか、そんなことが長々と書かれている。

 だが、とあるページに書かれた挿絵のようなものを目にした瞬間、オレは思わず息を飲んだ。


「……おい、ちょっと待て。一つ聞きたい」


「は、はい、なんでしょうか?」


「ここに描かれているこの四人の肖像画……。これが『四聖皇』と呼ばれる連中か?」


「え? ええ、そうです……。彼らこそが百年以上前にこの世界に呼び出された転移者、そしてこの世界をお救いになった英雄にして神々です」


「……バカな、そんなバカな……」


 領主の答えにオレは唖然とする。

 なぜなら、そこに描かれた肖像画――『四聖皇』と呼ばれる四人の英雄の姿は湊達ではなかった。

 描かれた四人。そのどれもが湊、花澄、壮一とは似ても似つかない別人達――たった一人を除いて。


「こいつは……」


 『四聖皇』として描かれた四人目。

 その人物にだけはオレは見覚えがあった。

 なぜなら、そいつはオレや湊達と一緒にこの世界に召喚された少年――春日かすがしゅんと名乗ったあの引っ込み思案な少年だったのだから。

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